第186話 熱い夜

アーク歴1504年 壱の月



「と言う訳でこれが80層で手に入れた指輪です」

「ほーう?」


ニーベルンゲンの指輪(足輪? を差し出す。

大きすぎてどうにも使いようが無い。


ロッソあたりなら適当に使えるだろうか。

アカに使わせてもいいけど、どうだろ?


「しかしこれは大きいな」

「そうですね。防御力と魔法防御力が上がるようです。他にも性能があるようですが、俺には見れませんでした。」

「ほーう?」


●●●を▲▲すると表示されている。何が何やら。

『ちからを+5』するかもしれないし、もしかしたら2倍するかもしれない。

でも、もしかすると『のろいを付与』するのかもしれないし。


訳が分からんものを無理して装備してやろうとは思わない。

なら持っておくか売ってしまうか。

まあ分かる人に見てもらうのが一番だとは思う。


「売ってお金にしようと思ったら幾らになりますかね?」

「分からん物は売れんだろうな…一応聞いてみるが」


そう言って師匠はザイールさんを呼び出した。

以前に宝物庫を見せてもらった人だ。

普段は財務関係の仕事をしていて、金庫番も兼ねているらしい。


「ザイールよ、仕事中に済まんな。カイトがこれを手に入れたと。お前にはどう映る?」

「拝見します。…ニーベルンゲンの指輪 DEF+150 MDEF+250 装備者を保護する…とありますね。一定の防御機構を持っているようです。」

「ほう」

「おお!いいですね!」

「サイズの伸縮機能もありますよ。と言っても上限がありますが…カイト様がつけられるので?」


ちらりとこちらを見るザイール。

言いたいことは目線で分かる。

まあどう見ても俺の腕輪でもブカブカだ。足輪くらいになるか?


「…配下に付けさせようか悩んでいる所だ」

「成程。伸縮機能がありますが、カイト様が付けるなら足輪…いや、腕輪にするべきでしょうな。巨人族でもないと指にはちと。」

「だよな。売ればいくらくらいになるかな?」

「そうですな…2億くらいにはなるでしょう。城下の商人に売るならそうザイールが言っていたと仰ってください」

「なるほど。…いや、置いておく。ありがとう」

「畏まりました。」

「ご苦労だったなザイール。下がってよい」


師匠はそう言ったが、ザイールさんは下がろうとしない。

それどころか、凄くもの言いたげな顔をしている。

嫌な予感がする。

師匠を見ると同じく嫌な予感を感じて頬が引きつっている。

これは怒られそうな予感。


「…マリラエール様に決裁いただく書類も溜まっております」

「うぐ…そうか。分かった。後ほど…」

「溜まって、居りますので。」


分かった。

師匠もお仕事が嫌で逃げ回ってたんだ。

でもそれを諫める良い家臣じゃないか。うんうん。


「うんうん、良い家臣を持ったものですね。師匠も忙しそうなので不詳の弟子はサッサと帰ります。ではっ!」

「…待て。まあお前も少しはこちらの事を知っておくべきだ。そうだろ?」

「いえ、大魔王城の内部情報を一領主が「手伝え。良いな」…ハイ」


またこの流れである。


大魔王様も書類仕事は大っ嫌いだった。

俺も時々手伝わされたのだ。師匠はその時横で見てたり一緒にお手伝いしたりしていた。

うんうん。いい思い出…な訳ねえだろ!

いらん事覚えてやがったな!自分でやれよ!


「いや、だってこれ魔王城の機密事項がいっぱいあるんでしょ!?」

「お前は大魔王様の時だって手伝わされ…お手伝いさせて頂いただろうが!私と一緒に仕事するのは嫌なのか!」

「嫌です」

「…ほう。実は私も書類仕事はイヤだ。だが許さん。手伝え!」


この後、明け方まで二人でたっぷりねっとりと熱い夜を過ごした。

頭が知恵熱で熱くて暑い。変な汗をかいてべた付く。気分は最悪だ。


しかし、やっと80層をクリアしたというのにお祝いも何もない。

文字に埋もれた夜は最悪と言っていいほど疲れた。

隣のソファで腹を上にして寝てるアカに無性に腹が立つ。

あー、頭痛い。もうやだ。

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