第176話 軍議

「カイト・リヒタールだ!冒険者の義勇軍を連れて参った!開門!開門!」


4日ほぼ走りっぱなしで何とか前線になっているリヒタールの街に着いた。

さすがの高レベル冒険者たちもヘロヘロだ。

ベロザなんて途中から動けなくなってた。

へばってたところに飯持って行ったらアッサリ復活してたけど。


魔族の一般兵は人族より少し燃費が悪い。たくさん食べるのだ。

だが、巨人族やトロルのような奴らは燃費が悪いなんてもんじゃない。フードファイターかってくらい食べる食べる。まあデカイんだから当然だと言えばそうだが。



門の中に入ると、領民たちと兵たちとが出迎えてくれた。

一般冒険者たちには一応の身体検査というか身元の確認作業はあるようだが、俺はさすがにスルーだった。兵の中には知ってる顔も多いしな。


街に入ると領民たちの中には知った顔もいる。かなり避難していた民たちも戻っているようだ。

というかまた前線になってしまったんだから避難した方が良いんじゃないか。

防壁を固めても何が起こるのかわからんのが戦争なのだし…



「失礼、伯母上はどこかな?」

「これはカイト様。女王様はあちらになります。」


ロッテだっけラッテだっけ?

アークトゥルス魔王城で知っている顔の女性の騎士が居たので伯母上の所在を聞く。叔母上に到着のあいさつしないと。


誘導されて来た部屋は領主館の親父がいつも使っていた部屋だった。

この部屋も懐かしい。


「カイト・リヒタール殿が参られました!」

「どうぞ」

「失礼します」


入った部屋は会議室のようになっていた。

調度品…というかこの部屋に置いてあったのは机と椅子以外に母上の肖像画と親父の鎧くらいだったな。その辺はどこかに移動させられているようだ。

親父の汗がしみこんだ鎧はどうでも良いが、肖像画のほうは出来れば俺が貰いたい。


「お久しぶりですね、カイト殿」

「伯母上お久しぶりです。師匠も…会議中でしたかな?」


そこにいたのは領主の面々、俺の知っているだけでも6名の近隣の領主が。

あ、ドレーヌ公爵もいる。オッサンも久しぶりに見たな。

ぺこりと頭を下げて誘導された椅子に座る。


「カイト殿は状況はどこまで聞いておられるか」

「私は義勇軍の冒険者を率いて先ほど到着したばかりです。まだ何も聞いておりません。」

「ふむ、では私から説明しよう。現在敵軍はこのリヒタールの街を囲むように新設された城壁の向こう側に遠巻きに我々を包囲している状況だ。カイト殿が来たアークトゥルス領方面にはまだ敵はいなかっただろう?」

「はい。特に何の問題も無くリヒタールに着きました」


伯母上が説明役になってくれている。

立場上はこの中で一番か二番目にえらい人の筈なんだが…まあいいか。


道中は特に何の問題も無かった。

みんなでマラソン大会をしていたから割と目立ったはずだが、道には避難民や他領からの援軍がいたくらいで…その横にある畑には今だに農作業をしているおじさんたちもいたくらいだ。

ノンキなのもほどほどにした方が良いと思うけど。


「そこで何やら作業をしているようなのだが、何をしているのかはわからん。距離もかなりあるのでな…」

「ふーむ?大規模魔法でも打つのでしょうか?」

「魔力の流れはそれほど感じなかったがな…」

「何かの到着を待っているとか?攻城兵器を組み立てているとかですかね?あるいは土竜(モグラ)攻めでしょうか」

「そんなところかな?しかしいずれにせよ相手の出方が分からんのは不気味だな」

「今こそ我らが打って出るべきではありませんかな!」

「左様、我ら魔族の力を人間どもに見せつけてやりましょう!」


やんややんやと威勢のいい声を上げるオッサンたちに頭痛の痛そうな伯母上。

師匠もめんどくせえって顔してる。ドレーヌ公爵もコッチを見ながらうわあって顔してる。

俺?俺は何言ってんだって顔になってると思うよ?


「カイト殿もそう思うでしょう?今こそ我らの「何言ってんだアホか」…は?」

「ああ失礼。折角壁があって有利な状況なのです。それをわざわざ捨ててどうするのかなと」

「壁などに頼らずとも、我らにはこの鍛え上げられた肉体がありますのでな。おっと、其処許そこもとの様な貧相な体では無理かもしれませぬがな…ハッハッハ」


ほっほーう?

俺に対して煽り散らしてくるとは。素晴らしいな。

それではこちらも嘗ては伝説の掲示板、2ちゃーんねるで鍛えた煽り性能をみせてやろう。


「そう思うならこんなとこで椅子なんか磨いてないでさっさと一人で突撃すればいいじゃないですか?ウチの親父ならそうしてたと思うけど?ん?ぼくちゃん怖いの?」

「んなっ!?」

「怖いんだったら無理しなくていいんでちゅ。さっさとお家に帰って震えて眠ればいいんじゃないでちゅか?ママのオッパイにばぶーしてろでちゅ」

「き、貴様…」

「どうしたのプルプル震えて?トイレ行きたいならアッチ、帰りたいならアッチ。一人で突撃する勇気があるならアッチですよ」


三方を指さす。

まあこんな無能は帰ってもらった方が良い。

名前なんだったかなコイツ…?


「おのれ貴様!くぁせdrftgyyふじこlp;@:!」


剣を抜き俺に向かって突っ込んでくるオッサン。

イカン、煽りすぎたか。敵の方に突っ込んでいってほしかったのに!


でも動きが遅い。

振り下ろす剣を避け、がら空きの胴を思い切り殴りつける。


ドゴオオオンとものすごい音が鳴り、オッサンは部屋の壁にめり込んだ。


「…あら?」

「マラルゴ殿!」

「カイト…そこまでやならくても…」

「いや、俺もそこまでやるつもりじゃなかったんだけど…」


周りもビックリ、俺もビックリである。

動きは遅いと感じたが、あんなでかいオッサンが壁にめり込むとは…随分脆い壁だったんだな。


「ふむ、壁が痛いんでいたのかな。親父がイライラして普段から壁を殴っ壁ドンしていたのかもしれん」

「ガルフがそんな事をするとは思えんが…」


ガルフ?って誰?伯母さんの知り合い?ってああ、親父の事か。

誰なのかわかるまで時間がしばらくかかった。

親父の名前はガンドルフ・リヒタールだ。親父としか認識してないから忘れてたわ。


「とりあえず今みたいになりたい奴は早く前に出て来てこい。でなければ、敵がよほどおかしなことをしなければ籠城です。折角の優位を崩す意味がない。」


後方の農地も大魔王城周辺も全く問題なさそうだった。という事は食料も援軍もこれから幾らでも確保できる。ならわざわざ打って出る意味がない。向こうは黙っていれば疲弊する。こっちは暖かいお布団で寝られる。


「ああ、正面切っての戦いじゃなければ有りだと思います。敵の食料を焼くとか、後方の基地を叩くとか。そういうのならいくらでも出陣してください」

「そ、そんな卑怯な真似が出来るか!」


うん。

魔族のお偉いさんたちはこういう事を言うのだ。

だから高い戦力を持っていても人族に簡単に勝てないんだよな。

『勝てば官軍』や、『犬ともいへ畜生ともいへ』の精神でいこうよ?

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