第175話 またも行軍

アーク歴1503年 壱の月


ヴェルケーロ領



―――夢を見ていた。


これが夢だと分かったのは親父とアシュレイがいたからだ。

親父とアシュレイと、なぜかアカと俺との4人で一緒にダンジョン探検。


出て来るモンスターは上層の…今では楽々倒せてしまうモンスターばかり。

それに苦戦する俺とアシュレイとアカをにやにや笑いながら見ている親父の姿があった。

懐かしい。

あれ?でもあの頃はアカはいなかったのに…なんて思っていると…


「おーきろーあさだぞー!」

「おう…アカ早いな」

「カイトがおそいんだぞ!」


あん?と思って外を見るともうかなり日がもう上がっている。

イカン、何やらゆっくり寝てしまったようだ。


「ふああ…じゃあ行くか」

「おー」


ダンジョン探索はもう少しでって所で中断になった。

人間の軍がリヒタール領にちょっかいをかけてきたのだ。


くそう、もう少しで80層クリアでき…?

いや、もう少しで俺たちはあの親父モドキに勝てただろうか?うーむ。

ロクにダメージを与えられず、一時撤退して地上に戻った所で呼び出しにあった。まあ、あのままじゃ厳しかっただろうな…




リヒタール領は前回の侵攻以後、アークトゥルス女王が主導して防御機構を改善した。

外から見ても厚く防壁を固めたはずなのに、また攻めてきたのだ。

人族はリヒタールを再度攻略する手筈を整えた、そう見るべきだ。


だから大魔王城からも援軍を出すことになり、周囲にいた冒険者もその援軍に駆り出されることになった。俺もその口で徴収されて、身分を明かしたというわけだ。まあしょうがないね。


尤も、冒険者には人族もいる。

一部は魔王軍に加わって防衛に参加し、やはり人族と戦いたくないという者はそのまま放置である。

こちらに来て短い者には参戦の有無にかかわらず監視が付いているようだが。まあソレはある意味当然である。それもしょうがない。


「シュゲイムたちには監視付いてんの?」

「我々は一応カイト様預かりという事になっています。」

「ほーん?」

「何かしたらカイト様が責任を取るという話ですよ」

「ええっ!?…まあでもやんないでしょ?」

「勿論です」

「おれもカイト様裏切らないぞ!」

「そりゃベロザはそうだろうけどよ」


今回の戦場に俺が率いていくのは大魔王城周辺の冒険者たち、おおよそ100名程だ。

そう、彼らを率いるのは何故か俺になったのだ。

何で俺が?とおもうが、どうせ参戦するなら冒険者たち連れて来る役割やってね。って師匠に丸投げされたからまあしょうがない。


100名のうちヴェルケーロ領から来ているのは俺とアカとシュゲイムとリリー、そしてベロザの4人だけ。後は武器屋や酒場で見たことあるかなって程度の連中だ。

シュゲイムとリリーは二人とも人質を領内に置いてきているようなものなので、わざわざ裏切ったりするはずがない。

特にシュゲイムなんて妻子を置いて裏切るとか…あるか?


有るか無いかで言われりゃ無くも無いな。

戦国時代なんて人質捨てて裏切る話いっぱいあるわ。

うーむ。(チラッ


「やりませんよ!」

「分かってるよ。どんな状況になれば人質を見殺しにして裏切るなんてことがあるのかなって考えてた」

「私はやりませんよ!」

「私もですよ」

「おれもやらないぞ?」


考えている俺の様子を見てシュゲイムとリリーの二人から怒ったように訴えられる。

アカは…正直よくわかっていない様子だが、肉を目の前にぶら下げられたら俺の方にブレスを打ち込むくらいはやってきそうだ。


「まあそう思うよ。ごめんな、変な事考えて。」

「「全くです!」」


怒られてしまった。

まあでも、当然そういう事にも備えておかなければならない。

戦争なんてやだなあ。




パカパカと馬に乗って進む。

ディープはもういい年だと思うが、元気いっぱいだ。

こっちの世界の馬は寿命が長いのだろうか?小さいが健康だし足も速いので繁殖にも回し、産駒も何頭かは産まれている。

いずれそっちに乗り換えになる日も来るのだろうか。


それにしても、行軍とは暇なものだ。

通常、何日もかかる道のりを兵の速度に合わせてゆっくり進むのだ。


だが今回は、皆ジョギング程度の速度を出して走っているのでそんなにノンビリもしていられない。

装備は持てる者が纏めてカバンに詰め込んでいくのだ。

今回の場合は俺がほぼ全員の装備を預かっている。

100名程の装備品と食料を詰め込んだ。アシュレイのバッグはだんだんと成長しているようで入る量がどんどんと増えて来た。素晴らしいな。


というか、これは飛竜に乗っている騎士にカバンをいっぱい持たせて物資を輸送したらいいんじゃないか。

問題はカバンのロック機構だが…各領の領主は誰でも開けられるようなカバンを作って、それを何往復もして輸送したらどうだろう?ああ、いやそうしなくても竜騎士なら開けられるようにすればいいのか。それなら目的地についたら荷物全部出して、んで基地にとんぼ返りして…って事が出来るな。


いや、それならいっそ空中で受け渡しとかも…かなり厳しいかもしれん。

空中給油とかアホちゃうかって技術だもんな。相対速度合わせるだけで大変なのに。

接触したら一瞬で両方墜落だしな。

やっぱり地球の技術は頭おかしい(褒め言葉


まあこの戦いが終わったら師匠に竜騎士カバンの提案してみよう。



手ぶらで走れるようになれば行軍はかなり捗るだろう。

まあ言うて肝心の兵士が歩いたり走ったりしてる時点でたかが知れているが。


トラックに兵隊さんを詰め込んで輸送したらさらに捗るだろう。

太平洋戦争の頃はそんなふうだったようだし、現代なら飛行機やヘリで輸送である。

リヒタール領までなんて1日どころか2時間くらいあれば付くんじゃないか?

まあ敵の目の前に輸送機をブッ込むと高確率で落とされると思うが。


いやまあ、とりあえずはトラックや輸送機なんて夢みたいなことを考える前に鉄道だ。

蒸気機関車なら割と簡単にできる技術で作れる。中世の技術そのままでそこそこの物は出来るはずだ。

ガソリンエンジンはその後もいいところ。ジェットなんて夢だろ。ヘリ?男塾みたいに手動で回した方がまだ現実味があるわ。

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