第173話 巨人

久遠の塔 71層


前回の続きである71層に侵入した。


マグマの海の後は氷の大地という地獄のような60層台。

だが、ここからは地形に特に問題は無い。

平原と森という、いわゆる普通の地上と大差ない地形で…

そして普通に強いモンスターが出現するようになった。

主に巨人族のようなモンスターが…うーん。



此処だけの話、村人に似たような巨人族がいるんだけど、どこら辺からがモンスターでどこら辺からが魔族の『人』なのか俺にはよく見分けがつかん。


たぶん本人たちに言うとすごく失礼だと思われるんだろうな。

だが俺には基準がよくわからんのよ。

でもまあ、それ言っちゃうと人族と魔族の境目も微妙だ。

エルフは人族寄りなんじゃねえのかと思うけど、俺の血統なんかを考えると完全に魔族だ。うーむ。


「こらカイト!ボーっとするな!」

「おう、済まん。こいつ等と町の住民ってどう違うのかなって」

「モンスターははなしがつうじないぞ」

「そうだよな。そこくらいしか無いよな」


やっぱりダンジョンに出現する巨人は巨人族じゃなかった?

見た目はそんなに変わらんのだけどな…運営もっと頑張れよと言いたい。


「おいカイト!そっちいってるぞ!」

「おー」


生返事をしながら殴りかかってきた3m程度の巨人の腕をかわし、そこに右手から出した木矢を突き立てて固定。同時に足からも木矢を出して下半身も固定。抵抗できなくなった巨人型モンスターの目に短剣を突き入れ、


「フレアボム」


剣の先から生ずる小さな爆発とともに弾け飛ぶ巨人の頭部。


「かいとすげー!かっこいいな!」

「ふふん、もっと褒めていいぞ」


思わず物凄いドヤ顔を決めてしまった。

アカは慣れてないから難しいらしいが、俺は巨人の相手は慣れている。

なんせ生まれた時から巨人にばっかり囲まれていたわけで。

自分の倍の身長だから一体何だってのって感じだ。


俺の組手の相手をしていた親父もロッソも俺よりまだまだ強い。

この巨人型モンスターは一番下っ端のリヒタール兵よりは強いかなってくらいの強さだ。

そう考えるととんでもない環境だったんだな…


「まあこれくらいなららくしょーっすよ」

「たのもしいな!」

「よせやい、照れるじゃないか」


いつもおんぶに抱っこってわけにもいかん。

この階層からは俺が引っ張ってやんよ!


ってなわけで順調に進んだ。

75階層のフィールドに入ると今までのボス部屋とは違い、荒野のようなところだった。

凸凹があちこちにあり、洞窟の様な洞穴もある。


そこに遠くに見えるボスはこれぞ巨人というサイズだった。

親父は2.5mくらい、ベロザやロッソは3mくらいある。が、このボスはそんなもんじゃない。

ウル〇ラマンかガ〇ダムかってくらい大きいのだ。


まあガン〇ムは18mくらいだっけ?でウルトラ〇ンは40mくらいあったと思うから2倍以上の差はある。こまけえこたあ気にすんな!?

とりあえずって感じでそのデカいボスに矢を射かけてみたのが俺の間違いだったのだろう。




「うえええええ!でかすぎだろおおお!」

「カイトがんばれ!おれはノンビリおうえんするぞ」

「無茶言うな!手伝えよおおお!」


無茶な事を言う。

大きいから動きが遅いかとは思う。実際の動きもそんなに早くないとは思う。

だがそれは相対的に見て遅く見えるだけで、巨人が普通に歩いているのに俺の全力疾走より早い。


何故それを知っているかというとちょっとちょっかいかけて追いかけ回されているからだ。

何とか急ブレーキからのドリフトで凌いでいる。インベタのさらにインを突く走行で段差のある下り坂を走っているがどうにもならんかも。


「ふおおおお!アカン!ツリーアロー・ストーム!テンペスト!トルネード!タイフーン!?」


もう自分でも訳が分からん。

とりあえずどれか当たればええわの精神で逃げながら矢をブチ撒ける。


あんなでかいのに踏まれたら確実にミンチである。

巨人って言っても程があるだろうが!


ドスン!ゴスン!ドゴン…と鳴り響いていた足音が止まった。


「お、止まった!?」


走りながら振り向くと全身から木を生やした巨人が。

ようやく俺の樹魔法が効果を発揮したらしい。

辺りには乱発した樹魔法のおかげで樹木が生い茂り、まるでジャングルのようである。


何やら清浄な空気がして少し力が沸いてくるような…まあ乱発したおかげでMP消費が酷いから±ゼロどころかクソマイナスである。


「こらカイトー!ばらまきすぎだぞ!」

「ごめん!危なかったんだもん」


パタパタとジャングルの上から飛んでくるアカ。

巨人に絡みついた木はまるでツタのように体中を何重にも這い回り、締め上げている。

顔面にも目、鼻、口にもツタでびっしり覆われて身動きもロクに出来なさそうだ。正直、このまま放っておいても窒息で倒せそうな気もする。


「でもまあとりあえず攻撃しよう」

「おー?」


後に忍び寄り、カカトの辺りに行く。

ここにも樹がいっぱいで邪魔だなと思うとスイッと避ける樹たち。


「お、あざーっす」


樹に礼を言って、アキレス腱を狙い斬りつける。


「ふんぬ!硬ってえ!」


ぶっとくてかたい。当然のことながらエロい意味じゃない。

分厚くって中々切れないのだ。

爪切り短剣じゃなくて斧かなんかが欲しいと思いながら何度も切る、刺す。

えぐる。むしる。ひっかく。


何度かチャレンジすると無事アキレス腱を切断。

反対側の左足のアキレス腱も同様に切断し、足の拘束を解いて倒れた所で目から短剣を突き入れてボンッ。お、いけたいけた。


結局これが一番楽なんだよなあと酷い感想を抱く。


「終わったぞ」


ドロップは大きな大きな…大きすぎる防具だ。これなんだ?


「なんだこれ?ヨロイか?」

「これは…ああ、籠手だな。まあ俺の胴周りよりデカいけど…。どうやって使うんだろ?」


ロッソにあげてもいいけどあいつでも胴鎧に使えるかってサイズだろう。

ベロザだと胴周りは逆に足りないけど、だからって籠手にはどう見ても無理だ。


「収納して持って帰ろ。はあ疲れたなあ」

「おれもつかれた」

「お前見てただけじゃんか!」

「おうえんしてたぞ!ダメなカイトをおうえんするのつかれたぞ!」

「はあ、左様で…」


とりあえずMP切れもいい所だし、帰って寝よう。

はあ、疲れた。



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