第161話 み な ぎ るううぅ!
アーク歴1501年 什の月
ヴェルケーロダンジョン最深部
コンクリートの試作は良好だ。
まだ1か月しか経ってないが、すでに目途は立ったようだ。
あとは耐久性、経年劣化の問題があるが、まあそこらの物には負けないだろう。
今は小さな川に木で橋を渡してあるが、これなんかもコンクリート製の橋にサクッと取り換えてもいいかも。いや、橋なんかよりほかにやることがあるかな。
内政を頑張っているとステータスが上がると言うが、ダンジョンに行くと不意に強くなった感じを得ることがある。
それが年が変わる瞬間だ。
どうも1年に一度しかこの効果は表れないらしいが、その時には気力も体力もみなぎっている感じになるので…ぶっちゃけるとHPMPも全回復しているのだろう。
という訳で年末にはダンジョンに行く。
時間が正確に測れるならいわゆる紅白歌合戦が終わり、ゆく年くる年をやっているくらいの時間帯にボス部屋へ挑みたいがそう上手くはいかないのが世の常だ。
「せい!くそっ!」
「キシャラルルルル!」
最下層であると思われていたボス部屋、その主である火竜を倒した俺は少し戻って分岐から最深部へ進んだ。そして道中の雑魚を半ば無視し、裏ボスである水龍へ。
俺には見た目の色くらいしか見分けがつかないが強ボスであるコイツは水
アカもマークスもそう言ってた。
スキルは違うが見た目は色以外ほぼ全く同じ。でも属性相性は水の方が悪い。
そして竜と龍の違いか、大きさは大差ないがパワーも魔力も圧倒的に水龍の方が強い。
「ツリーアロー!アローレイン!ええいくそ!」
放たれた矢は水龍の表面にある水の膜を突破できず。
多目に魔力を込めた矢の雨は一部で水の膜を突破するが、そうすると本体が液状になって刺さらない。
「どおおりゃああ!スラッシュ!もういっちょ!ダブルスタブ!」
「くそ!ダメ通ってんのかこれ!?」
「グルルルル?」
うーん、あんまり効いてなさそう。やっぱりカイトは火力低すぎんよ。
「カイト、てつだう?」
「いい!もうチョイのはずだから!」
道中の雑魚が面倒だから連れて来たアカに心配される始末。
今はあんまりダメージが通っている感じはしないが、もう少しで急激に強化されるはずなのだ。
「ツリーアロー・クワトロブル!フレアミサイル!」
4連木矢とそれを追いかけて放たれる炎の砲弾。
ミサイルの名の通りに誘導性能まである。これで…
ドンッと爆発。した瞬間にシュッと音がして消える。
…それ以上何も起こらない。
畜生!
「やっぱ火はダメだな」
「がーん!おれはダメじゃないぞ!」
「あー、別にアカの事言った訳じゃない。火と水はなんつーか一方的に相性悪いなって思っただけよ。蒸発とか夢のまた夢でしょ」
火魔法でこんな水龍に立ち向かおうとか、どれだけ火力上げればいいんだって話。
水の体積が増えれば増えるだけ温度上昇も緩やかになるし。無理無理。
「やっぱアレだ。物理で殴る!」
「なぐる!」
「どっせえい!」
殴る殴る。あらゆる物理スキルを使って殴る。
連撃、3連撃、4連撃!チョイチョイ液体状になって何の手ごたえも無いが、半分以上は普通に当たってる感じがある。ダメージがあるかは何とも言えん。
「おららららら!」
「キシャルル!」
俺の連打で水龍の鱗には傷が刻まれた。
そして俺は水龍の攻撃一発で壁まで吹っ飛ばされた。
「ぐぬぬ…やっぱりダメか」
「まえもこうなったぞ!」
確かに。
前回も、その前の初挑戦時も同じ展開だった。
属性魔法の余りの効きの悪さにイライラした俺は突貫して無事弾き飛ばされたのだ。
「もう一寸の筈なんだけど」
「なにがもうちょっとなんだ?」
「何がってそりゃ……来た!きた来たキター!」
「おれもなんかきたあああ!?」
疲れた体に突然漲る力。
滾る気力。これは…そう、年に一度のギフトの効果がついに来たのだ。
「いよっしゃー!誕生日とクリスマスが一緒に来たぞ!」
「やったー??いっしょにキタ!?」
昔、友人の沢永君は誕生日が12月24日で、プレゼント一緒にもらえていいなあなんて言うと『2回分がまとめて1個でケーキも1回しかないけどね』なんてしんみりした顔で言っていた。
よく考えれば一緒に来てもなにも良い事はないのだ。
「ってまあそうじゃない。ようし、この漲る力で!」
「うほほ!おれもチカラみなぎるぞ!!」
漲る力で殴る!ぶん殴る!と思ったらアカが水龍へカッ飛んで行って、そのままパンチ、爪、咬み付きと…うん。ボコボコにしてしまった。
そして塵になって消えていくボス。
「またかよ…」
何だかこの光景前にも見たことあるな…と遠い目で眺めたカイトだった。
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