第160話 コンクリ


おはようございます。

筋肉について考えると頭が悪くなる気がするカイトです。

なので今日は真面目に領主のオシゴトを進めようかと。


「リヒタール商会の先月の収益はどうだった?」

「前年比で190%ほどあります」

「それは…儲けすぎじゃねえか…?」

「人口が増えておりますので」


そんなもんなのか?

商会経営部門のトップであるレオルは元マリアの部下で忍者部隊だった者だ。

今は俺の直臣扱いでいつの間にやらマリアと並ぶ位置になっているが。

元々商会は忍び宿として運用するのも大きな目的だったので、リヒタール領から行商をしていた者にお願いすることになり…まあそういう形になった。


レオルは素だとまだ若い、スラッとしたイケメンの魔族だが、見た目を変えられるスキルがあるので

今はちょび髭のおっちゃんというスタイルになっている。大変だなあ。


「どの辺が儲かって190%になっちゃったの?」

「全方面ですが…主に食料と木材、石材以外の生活必需品がかなり不足しています。他領で安く売られている古着や包丁、鍋の類のモノですね。それからタンスや机、椅子の様な物も不足しておりまして、木工部門は大忙しです。」

「あー、なるほど。避難民も増えたしなあ」

「その通りです」

「でもあそこは公営で儲け度外視でいいんだけど」

「前年度も度外視でしたからな…単に取引量が増えただけで収益の比率は大差ありません」

「うーん。まあそのうち新しい施設を作ったり寄付したりに回そう。給料も増やさないと」

「はい」


避難民は勿論ただ遊ばせておくわけではない。

避難民の子供向けの学校も大人向けの職業訓練もあるし、当然手に職のある者は直接そちらへ配属する。だから領内の鍛冶屋も武器なんか作ってる場合じゃないとばかりに鍬や鋤に鎌に鶴嘴にハンマーに釘、それに針やら鍋やらフライパンにヤカン…と農具や家庭向けに沢山モノを作っている。


足りないモノは他領で中古を買ってきて補修して、直接欲しい物に売るか一旦領主である俺が買い取った形にして避難民に貸し与える。

貸し与えた者は真面目に作業をしていればいずれその道具を正式にもらい受けることが出来る…という形だ。勿論、その間に生産した野菜や鉱石、布などは普段より多めに税として徴収する。

こっちもほぼ慈善事業であるが、遊ばせておくほど楽でもないしなあ。



でもそうやっていても、もちろん足りてない。

買い取ってそのまま使えるようなものはそもそも売りに出されないのだ。


領内にある鍛冶屋は元々あった1軒とゴンゾだけだったが、さすがにどうかと思って増やした。

シュゲイムたちと一緒に避難してきた者の中にも鍛冶屋がいたのでそいつらも一緒になって魔族と人族のそれぞれのいい所を勉強させ、ヴェルケーロ領には鍛冶屋が5軒に増えた。


武器専門なんて上等な鍛冶屋ではない。なんでもやる野良鍛冶ばかりだ。

そいつらのほとんどは農機具や日用品の修理ばっかりやってる。

それでも全然足りない。



「避難民の中に雇えそうなのはいるか?」

「各部門でそれぞれスカウトしています。商人も料理人もたくさんいますよ。勿論鍛冶師も大工もです。」

「職人が増えるのは大変結構だな。」

「どこも人手不足ですからね…アフェリス様が機織りの新しい技術を作られたとか?」

「ほーん?」


織ってる最中に色違いの糸を使って図柄を作れるようになったんだと。

今までも縦糸の色を変えて縞模様や格子模様を作ったりはしていたがもっと高度な絵柄を作ったり?出来るようになったらしい。正直どうやってるのか聞いても意味が分からん。俺が出来るのは一色で最初の糸が無くなる所まで延々と織るだけだ。

それも圧の強さが違うから太さがバラバラになって怒られたものだ。

それ以降機織機は触ってない。上手い奴がやればいいのだ、って事で。


だが何にせよ新しい技術が出来るのは良い事だ。詳しくは考えないでおこう。



鍛冶師の中では唯一、リヒタールから一緒に引っ張って来た鍛冶屋のゴンゾだけは城内に鍛冶場を持っている。というより研究所だ。大工のゲインの研究所も併設してあるが、そちらは殆ど使われずにひたすら建物を作っており、今ではゲイン建設の事務所扱いになっている。


ゴンゾが最近開発しているのは注射針のやよく切れるメス、それに細い針を作ったりとおよそ武器とは程遠い事ばかりやっている。

銃はしばらく遊んでいたが最近は触らなくなって弟子がやってる。まあいいか。


俺が二人と一緒に開発していた物は勿論色々とある。

そのメインは産業革命の中心になるであろうモノ、蒸気機関だ。


元々移動に時間がかかるからと開発を始めた蒸気機関だが、みんな忙しくてもう手が回らない。そもそも正確な器具を作ることが出来ず、その器具を作るために旋盤が必要になる。


だが旋盤を作るためには旋盤が…となって手が回らないからゴンゾには旋盤は内緒にして蒸気機関の研究だけさせた。

『こりゃものすごく精度の高い工作器具や間を上手く埋める素材が必要になるぞ』『知ってた』


という訳でまずは基本の基本となる工作器具を作る所に一度戻って、蒸気機関はしばらく諦めた。

大体、蒸気機関車を作ったとしても鉄道を敷設するための鉄も無い。

いくらでも有るのは枕木だけだ。バラストは…まあ山を崩せばいっぱいあるか。人手もあるが…ふむ。まあでも今はそれどころじゃないな。まずは食料生産だ。


「これからも移住者はドンドン来る。開拓ももっと進めて…禿山になっちまうなあ。雪崩とか崖崩れに注意して…」

「そうですね…どうされました?」

「あー、なんでいまさら思い出したんだ。…コンクリートって知ってるか?」

「根栗糸?」

「コンクリートだ…マークス!ゴンゾを呼べ!」

「ハッ!」


我ながら思い出すのが遅い。

雪崩や崖崩れをどうやって防いでいたかと考えた所で、崖崩れの防止の為に山肌をコンクリートで覆っている所をふっと思い出した。

それまでコンクリートを忘れているとは…


正式なコンクリートの作り方は分からんが、生コンで検索すると色々やばそうなことだけは分かる。特に関西地方。


古代ローマで使われていたローマンコンクリートというのがあった。

今のコンクリとどう違うのかはよく知らないが、古代ローマで出来るならこっち中世でも出来るはず。出来なきゃおかしい。


確か石灰と粘土を焼いた粉に水を掛けたら固まってそれがセメントで、セメントに砂だっけ??

アカン分からん。砂利もいれるんだっけ?


何せそのくらいでいいはず。ローマは近くの火山灰をどうにかしたんだ。たしかそうだった。火山灰はこの辺幾らでもあるか?

ヴェルケーロ火山はずいぶん前に沈静化しているが、火口からはまだ時々煙が上がっている。

火口は凄く危なっかしいが、灰の採取くらいならあちこちで出来るはずだ。



灰と水と、後何かを混ぜれば大丈夫なんだ。

何を混ぜればいいんだっけ?思い出せ思い出せ…石灰に粘土と砂と砂利と小石と…水?タダの水だっけ?なんだっけ?


「呼びましたか?若」

「おう、ゴンゾか。コンクリートを知っているか?」

「コーン栗色?」

「いや…火山灰に石灰と粘土と砂?だっけ?それに水だっけ?なんだか色々混ぜると…」

「混ぜると?」

「固まるんだよ」

「…はあ。」


ゴンゾはそりゃ固まることもあるだろうな、的な顔である。

何言ってんだ?って顔しないだけましだ。


「まあとにかく石灰と粘土とを焼いて?乾燥させてかな??んで水と混ぜて練ると固まるんだよ!カッチカチの石みたいに!火山灰とか砂とかいれるとさらに強い!んでそれを建材にしたり、地面に塗ると奇麗な面が出来るの!」

「はあ。そうなのか」

「そうらしい。たぶんそう。試してみて」


…なんだか不審がられている。

何で知ってんの?って言われそう。


って思い出した!海水だ!

海水を混ぜればさらに頑丈で長持ちに…でもこの領に海は無い。

塩混ぜるだけなら何とかなるけど塩は高い。

かなり高コストなコンクリートというモノになるな。


「うーむ…」

「…前々から疑問でしたがな、若はなんでそのような事を知っておるのじゃ?」

「私もそれは疑問でした。農業にも妙に詳しいときもありますし、飛び杼でしたかな?アレも尋常な発想ではないとゲインも言っておりました」

「私も商売で他領に行くときに『そんなもの見たことがない』とよく言われます。若の作られたものは大体そうですが…」

「いやほら、なんとなく!なんとなくさ!」


ゴンゾと一緒にマークスとレオルまで聞いてくる。


「何となく思いつくにしてはやけに具体的な…」

「そうですな。『火山灰を入れると強い』なんて試してみないと分からんと思いますが」

「それはそのな、たぶん強いんじゃないかなー?と思うからゴンゾにこれから研究してもらおうかと!」

「なるほど。こういうのはどうかなという話ですな」

「そうそう。あ、目に入ると危ないから目だけはちゃんと守ってね」


強アルカリが発生するので眼球の保護だけはしっかりしないといけない。

本当はゴーグルなんかが良いが、それは無いので。

せめて目に入ったらすぐ洗い流して薄めないと。


「…なぜそのような事を」

「そりゃもういいだろ!な!」


強引に話を打ち切って部屋から追い出した。

話してもいいんだけどな。でも、変な噂が立ったりして他国に目をつけられたりしても困る



――――――――――――――――――――――――――――――――――


師匠「お前今更そんなこと言ってるのか」

カイト「なんすか?」

師匠「もうとっくに色々バレまくってるぞ。他国の間諜を舐めるな」

カイト「…はい」


という訳で既に色々と注目されまくっています。

気付いている人は気付いている、という状態ですね。


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