第159話 魔法はロマン 力はパワー


ヴェルケーロダンジョンの通常ボスは火竜だ。


初めて見た時のアカを思い出させるような結構立派な火属性のドラゴンである。

俺の樹属性魔法は火属性とは共闘するならいいが、敵として戦う場合は相性はよくない。


木矢は物理的なダメージはそこそこあるものの、樹属性魔法の最も大きな特性である樹による拘束は火属性モンスターの前ではほとんど無力だ。

拘束しようとした端から燃えつくされてしまうのだ。


もっとも、魔力を沢山込めればなかなか燃えないと言うのも分かって来た。

それに物理的なダメージも上昇する。それも悪くない。

でもそうすると当然だが燃費が悪くなる。


車が1Lあたり15㎞普段走れているのに、魔力を沢山込めた木矢は同じ1リットルで3㎞しか走れない、と言った感じである。フェラーリも真っ青な燃費の悪さだ。


そんな状態で二重ダブル三重トリプル、あるいは矢の雨アローレインやらそれ以上の魔法をぶっ放すとどうなるか。当然息切れしてしまう。


魔力欠乏の症状は軽度の頭痛から始まり、最終的には気絶に至る。

RPGとかだと魔力が無くなっても死ぬ事はないが、敵の目の前で気絶したらどうなるか。

よくて拘束、ダメなら殺されて終わる。当然の事だな。


まあそれはしょうがない。

ってことで…!


「ツリーアロー!ツリーアローダブル!ツリーアロートリプル!」


沢山撃つ。単発じゃ当たらんから。

そしてその中の何本かに多目に魔力を込める、要するに紛れ込ませるのだ。


これはかつて赤い人が逆襲してくるアニメで歴戦の艦長がやっていたことだ。

もっともあれは核ミサイル、俺は木の矢である。

差が酷い。くそう!


「弾幕!なにやってんの!」


一人で突っ込みを入れつつ矢を撃つ。

ブ〇イトさんの魂よ俺に宿れ!ってまあアレも殆ど阻止されたんだっけ。

でも一発くらい当てたんだったか?ああ、もう忘れた!こっちに来て長いからもうすっかり時間も経つからな…どうでも良い事はふっとした拍子に思い出すだけでほぼ忘れているのだ。


そうこうしているうちに木ミサイルが当たった。

『亥』の無い、ただの木ミサイルだ。

そして怯んだところで短剣で攻撃。


「スラッシュ!バッシュ!バックスタブ!」


斬って、強く弾いて。後ろに回って急所を狙って突いて。

半拘束されている相手にやりたい放題する。これぞ俺の戦闘スタイル!

いずれアシュレイも拘束して…げっへっへ!


「ギャオオオン!」

「おっと。」


木矢の拘束を燃やして解除し、火竜は再び俺の前に立ち上がる。

と言ってもすでに翼には穴が開き、右目も抉られている。酷いものである。


「グルオオオオ!」

「やっとブレスか!ツリーアロー・オクタ!」


口の周りに突き立つ魔力をブッ込みまくった8本の矢。

そこから生まれる樹によって火竜の口は拘束され、行き場の無くなったブレスは口内を暴れまわり…火竜の頭を吹っ飛ばした。


「あー、頭痛い。でもこのパターンも安定してきたな」


魔力欠乏の症状で頭が痛い。


俺自身に火力が無いなら、敵の火力を使えばいいじゃない。

補助や足止めとして使う分には樹魔法は極めて優秀だ。高いところの物も取りやすいし、テレビのリモコンだってこれがあれば自由に手元に持ってこれるだろう。テレビもリモコンも無いけどな!


火竜と火龍は似たようなもんだと思うが、随分違うらしい。

大きさや纏っている魔力で分けるらしいが、どの辺のどのラインから竜が龍になるのかは不明だ。

まあイルカやクジラと同じようなものである。

いや、コッチの竜と龍は同種族なのかもしれないからそもそもイルカクジラとは違うのか??

そんな事を帰ってきてからマークスに聞くと、


「全く違う種族ですぞ。人と猿を比べるようなものなので龍に聞かれたら怒られますぞ」


って普通に怒られた。


「アカはそんなこと言わない」

「おれでもちがいくらいわかるぞ!よわいやつとつよいやつだ!」


えっへん!と胸を張るバ火龍。

うーん?と思うバカイトとその二人をジトッと見るマークス。


「…何か?」

「いいえ、何でもございませんとも。坊ちゃまもかなりお強くなられたようですな」

「そうだな。もうすぐレベル300を迎えそうだ」

「ほほー!それはご立派な。そう言えば御屋形様のレベルは…」

「今の御屋形様は俺だけどまあそれはいいか。で、親父は…1300がどうとか聞いた記憶があるな」

「私もそのように伺いました」

「やっぱりそうか…」


まじか。

俺はまだまだ記憶にある親父に並んだとは思えない。

レベルでいうと4倍以上の差がある。どうにもならんな


そもそも俺と親父じゃ体の大きさがまだ倍近く違うのだ。

いや、実際に身長が倍違う訳ではない。

親父は鬼族で立派な体形をしていたが、身長は2mをちょっと超えた程度だった。

俺は今たぶん150cm有るか無いかだと思うが、横幅はまるで違う。


相撲取りも逃げ出しそうな筋肉の山脈、その上に薄く張られた脂肪はあらゆる衝撃を緩和し、急所を守る体毛は熊よりも濃く…つーか鬼族の胸毛ってなんであんなすごいの?

俺もああならないか心配だわ。


思考がそれたが…身長は50㎝違うが、たぶん体重は150kgくらい違うだろう。

俺の体重がいま40kg弱だろうけど、親父はたぶん200kgくらいあったんじゃないか。いや、もっとあるかも?


2mの親父は3m近くあるロッソと相撲して押して勝てるくらいの力があった。

ステータスやスキルの恩恵があれば体の大きさはあまり関係ないとも言えるが、じゃあ今の俺がロッソに勝てるかと言えば…まあとても無理だな。

ぶっちゃけロッソよりはるかに小さいマークス相手に相撲しても全く勝てないしな。



「まあ、俺は俺の強さを見つけるしかないか」

「素晴らしい事を仰る。御屋形様は御屋形様、若様は若様で良いではありませぬか!」

「おれは!」

「アカ殿も自分の長所を伸ばせばよいと思いますぞ。他人の良い所を羨まず、自分の良い所をどんどんと伸ばせば…」

「伸ばせば?」

「いずれ若様も皆の憧れになるでしょう。勿論アカ殿もですぞ」

「おー!」

「…そうだな、ってなんだかその言い方じゃ俺が親父に憧れてるみたいな」

「違いましたかな?」


違うか?と聞かれれば全くそうでも無くも無い。

確かに男ならあの巨大な力にあこがれを抱く。

そうだな。

魔法はロマンだが、力こそパワーだ!


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