第162話 新年のお祭り
アーク歴1502年 壱の月
ヴェルケーロ領
「「「明けましておめでとう御座りまする」」」
「おめでとう。今年もよろしくね」
年が明けてパワーアップした俺は水龍に勝てるようになった。
最初に実験として挑んだらアカが倒しちゃったので、日を変えて今朝もう一回試した。その結果、今年のギフトによる補正効果はすごかったと痛感できた。
まあ難民のおかげで領民の数もえらいことになったし。
戦争様様だよ…なんてとても口に出しては言えないけど。
それで、水龍のドロップ品である鱗や牙を売り払った。
いいお金になったから領民と家臣にお年玉をあげることに。
「という訳で全員しゅーごー!」
「「「応!!!」」」
これから始まるのは…そう、餅投げ大会だ!
と言っても安全には考慮する。
昔は外で餅をばら撒いていて…安全性や清潔さに色々と問題があった。
少し時間を置いて固まっているとはいえ食べ物を地面に撒くわけだ。さすがにどうか。
紙で包んでも破れるしビニールで包んでもやっぱり破れるのもある。
大昔はたぶん何にも包まずにそのままばら撒いてたんだろうけど、現代の基準ならそう言うのは食べたくないなあ。
という訳で今回は大人男子の部、大人女子の部、子供の部、老人の部と小分けして小銭を撒く。
つまり餅投げではなく銭投げ大会なわけだ。
まあお年玉だからね。
そして拾った小銭で買い食いできるように屋台を始めからセッティングしてある。
抜かりはないのだ。
…と思ったら串焼きのいい匂いに釣られて早速買い食いする奴が。
誰だ?
「むほほ!うまー!」
アカだ。あの馬鹿に金を渡したのは誰だ?
まさか店主を脅して食っているんじゃあるまいな?
「アカ?お前、金はどうした?」
「おれがたおしたキラキラではらったぞ!」
見ると水龍の鱗で屋台の店員を買収したようだ。
というか串焼きの値段と水龍の鱗の値段じゃ比べ物にならん。
店の串焼き全部買ってもまだまだ釣り合わんぞ。
屋台をチラッと見る。
俺に見つかって怒られるかと構える店員だが、別に怒りはしない。
「しょうがない奴め…おい、鱗代とまでは言わんからコイツに多めに串焼きを頼むぞ」
「はいご領主様!」
「うはは!いっぱいにく!にくいっぱい!」
能天気に喜ぶアカだが、あの鱗代だと思えば屋台と店員ごと買って毎日串焼き食べ放題だと教えた方が良いのだろうか?いや、それもどうか。
さすがに黙っておくか。
串焼きに貪りつくアカは放っておいて。
まずは子供たちに小銭をばら撒き、そして飴を配る。
飴と言っても飴玉ではない。
水飴を棒に刺したもので…その昔、紙芝居を観たら貰えたらしいという伝説の水飴棒だ。
年寄りの昔話みたいなので聞いたことある。
まあ貰えたと言っても実際は金出して買ってんだけど。こまけえこたあいいんだよ。
まあ折角だからと銭撒きをした後で紙芝居コーナーに誘導して、さっき撒いた小銭でも十分に足りる額で紙芝居と水飴のセットを喰らわせる。
何故水飴かというと、そりゃ水飴の方が飴玉より低コストで出来るからだ。
砂糖より麦芽糖の方がはるかにローコストなのだ。特にこの辺の寒い所では。
甘みと言えば他に思いつくのは作り始めたメープルシロップとハチミツだが、ハチミツはまだ採取できない。どうやったら女王蜂を上手く巣箱に誘導できるワケ?あと、世話役の奴はどうやったら刺されないのか…意外と刺されないって聞くけどみんな蜂を怖がって実験に参加したがらない。うーむ。
そもそも蜂の種類が全然違う可能性もある。異世界だからなあ…
まあ、そんなわけで麦芽糖から水飴を作った。
これは割と簡単だったし、麦ならサクサク作れる。
低コストで甘味が得られる。大人も子供もみんな嬉しいいい商品だ。
子供たちは大喜びで水飴を受け取り、貪り喰…舐めながら紙芝居を観ている。
紙芝居はやらなくてよかったけど何となくこれも大事な伝統のような気がしてやっている。
演目は…なにこれ?カイト様風流記!?桃太郎とかちゃうんかい!
良く分からんが幼馴染の恋人との別れの後、襲いくる敵を先頭に立ってバッタバッタと薙ぎ倒し、大魔王様のお焼香の場で灰を投げつけ!?それに怒った諸侯を一纏めに懲らしめると攻めてきた人族もあっと言う間に蹴散らし、平和になった戦場で風流踊りをしながら銭を撒く!?
誰だよこれ。ってか何だよこれ?
「すごい!」「ご領主様カッコいい!」「すごいね!私ご領主様のお嫁さんになる!」「俺は騎士になるぞ!」
ふーむ、子供受けは良いみたいだが…
「うーむ、ご領主様の功績はものすごいものだ」「大魔王に即位される日も近いだろう」
ならねーよ。
…ってか何でこんな子供だましに大人まで騙されてるんだ?
しかも
大人向けの銭撒き大会も終わったのか。
それでこっちに流れてきたってのは分かるんだけど…うーむ。
「子供向けではありますが、一般市民向けでもあります。」
「プロパガンダってやつ?まあ程々にな」
「…はい」
戦意高揚は必要だが、ヤリすぎると戦時中の新聞みたいになる。
今だと大本営発表なんて嘘ばっかりだと思うし、マスコミの言ってることもまともな人は話半分に聞いているだろう。ネットに乗ってる情報だってまあほとんどネタだとして受け取ってると信じたい。
ところがこの世界の民衆はスレてないと言うかなんというか。
こうだと言えば間違えてても信じるのだ。
うーん、もうちょっと人を疑った方が良いんじゃないか。
狼少年のように敢えてしょうもない嘘をつきまくってみるか…いや、ロクな事にならんな。
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