第157話 アフェリス

アーク歴1501年 玖の月


ヴェルケーロ領



アシュレイの妹、俺の従兄妹であるアフェリスはこちらの暮らしに馴染んできた。


朝夕の畑仕事に家事炊事、手が空いた時には機織。…とヴェルケーロの一般女性と同じ暮らしを堪能している。

どうやらアフェリスには機織について才能があったようで、始めて2週間ほどで工場長に就任しているベリスちゃんにもう教えることがないと言われた。


ホントか?

人が農作業している横で泥団子を頭に乗せて、『どこまで落とさずに歩けるかチャレンジ』をやっていたアホとは思えん。


収穫の際にはトマトを握りつぶし、キュウリでチャンバラをし…釣りをしては自分の針に釣られ、挙句にアシュレイが釣った魚を逃がして怒られ…碌な記憶が無いな。

まあそんなクソガキも今ではすっかり大人になって?

畑仕事では相変わらずミスをするが、機織が上手くなってくれてよかった。


これでアフェリスもいつお姫様じゃなくなっても食っていける。

手に職があるってのは良い事だ。

おっと、縁起でも無い考えだったな。



あの後、一度大魔王城から使者が来た。

アークトゥルス女王様が大変お怒りだって事だけど、その後師匠がこっそりと送って来た手紙によると『そちらで暫く匿ってほしい』とその女王様から頼まれたとの事だった。


娘なのに『匿ってほしい』、か。

誰から匿うかわからんが、伯母さんも色々大変なんだなってことは分かった。


コッチからも『アフェリスの織った布です。機織りも随分上手になりました。』と返事を出して、アフェリスが織った布を贈った。喜んでもらえるだろうか。




「かいと!はらへったぞ!こいつもはらへったっていってるぞ!」

「あ…」

「おう。飯にしようか」


夕暮れ時、アカがアフェリスを連れて飯に誘いに来た。

逆か?アフェリスがアカを連れてんのか?

あの二人の関係性はよーわからんわ。


アフェリスがこちらに来て、それからはアカがずーっと引っ付いている。

なにやらアカは大変アフェリスを気に入ったようで。アフェリスもアカが気に入ったようで。

俺は既に飼い主として見做されていないのか?


まあそれは良いが、アカは通訳としても役立つ。

アフェリスは喋れてないのに言いたいことは伝わっているようだ。何でじゃろね?


「うーん、俺はBセットかな。アフェリスは?」

「ぇ…」

「こいつはえーせっとだ!」

「オバちゃんAセットとBセット1つづつ!それとアカ用の肉!」

「あいよ!」


夕飯時はみんなで食堂でご飯を食べる。

大きな机で離れて食べる、所謂貴族のようなイメージの食事ではない。

領主館で働いている皆や警備している兵は勿論、隣の機織工場や商店を開いている連中も出入り自由の食堂である。


今日のAセットはとれとれお野菜たっぷりの野菜炒めとパンにスープ

Bセットは唐揚げとゴハンに味噌汁…Bセットはいつも和風メニューで、最初はみんな戸惑っていたが慣れてきたようで最近はよく売れていると。

俺だけが食う特別メニューみたいにならなくてよかった。


「いっただきまーっす」

「…す」

「うまうま!」


ガツガツ食いはじめる俺とゆっくり食べるアフェリス、そしてもうとっくに食べ始めていたアカ。

今日のアカの飯は…ウルフ系の肉か。


ウルフ系は総じて硬いから人族にはあんまり人気が無い。

オーガ種なんかはその硬さがちょうどいいらしい。食べごたえがあっていいんだと。歯が割れるぞ。

ミノさんやケンちゃんは元が草食動物だからなのか、肉をほとんど食わない。

まあ好みは人それぞれだからなあ。


アカはそのウルフ系の肉の…皮を剥いだ後ろ足をそのままガジガジしている。勿論骨ごと。

いつ見てもワイルドな食べっぷりで…逆に俺の食欲は減退する。

胃にやさしい日本食がちょうどいいのだ。


アフェリスは野菜炒めをパクパクと食べている。

コッチに来たすぐは慣れない食べ物ばっかりだからか食もあんまり進んでいなかったが、今ではバクバクとよく食べる。

よく運動して疲れた体に美味い飯をいっぱい。

これで元気にならないわけないと思うのだ!


昼飯が済んだら俺は修行か執務か。

今日はお仕事が午前中に片付いたのでロッソと訓練だ。


「どりゃあ!」

「甘いですぞ!」


俺は木剣、ロッソは手甲のみの装備だ。

おっと、裸マントは標準装備である。


どうもあの裸マントにはおかしな効果があるようで、ある程度の魔法はキャンセルできるようだし矢なんかの飛び道具もほぼ防げるようだ。

試しに俺も同じ格好をしてみたけど効果なかった。鬼族や巨人族だけにしか装備できないチートアイテムのようだ。


その代わり、装備している側も脳筋攻撃しかできなくなるようで剣や槍は持てないようだが…


「どっせい!」

「まだまだあ!」

「おわ!痛ってえ」

「だい…ぶ?」


ちょっとぶっ飛ばされて転がってたらアフェリスが回復してくれた。

この位なら自分でやるんだが…まあいいか。


「おお、スマンなアフェリス」

「カイト様、早くお立ちなさい。続けますぞ」

「おう、望むところだ!」




アカとアフェリスは見学している。

アフェリスは最初、俺たちの訓練に混じっていたが…まあ思い出すのもつらい。


誰からもボコられ、ひたすら自分で自分を回復していた。

アカなんて気に入ってるのに戦いになればボコボコにするからな。もうちょいどうにかしてやれ。


おかげで回復魔法の熟練度は上がっただろう。

立派なヒーラーの出来上がりだと思う。

棒立ちのヘイト管理の出来ない回復魔法だけは一人前のヒーラーだ。

ダメだこりゃ。

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