閑話 そのころ人間界は②


少し短めです。敵国から見た今回の状況になります



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アーク歴1501年 漆の月


エラキス教国領

スラサム・ガエル枢機卿


「負けた…ですか?あれほどの軍で?」

「ハッ…」


軍を率いて出陣していた聖騎士団長、ガエルム殿からの伝令が来た。

他国でいう軍務卿である対魔王軍特別顧問の私の所に来るまでいったい何度早馬を乗り換えてきたのだろう。


私には教皇様にその伝令の持っている書状を渡す前に先にチェックする役目がある。

そこに書かれているのは先日のリヒタール占拠の報せとは全く反するものであった。

教会の鍛えた勇者3名、ダンジョン60層を軽々と攻略できるほどの聖騎士団を我々教国は派遣した。

アルスハイル帝国もそれに負けじと軍を、選りすぐりの冒険者たちを派遣したはずだ。


魔界への橋頭保であるリヒタールこそ帝国と共同統治にするが、そこから先の魔族領は切り取り次第という条件だったのだ。出来るだけ多くの軍勢を派遣するのが当たり前である。

両国合わせて10万を超える大軍だったはず。


練度とて決して低いものではない。

さらには新兵器まで…


だが、万全を期して出陣した結果、齎された報告は連合軍の敗北。

そして大量の武器弾薬を鹵獲されたということだった。



「この、黒炎とは一体?何なのですか?」

「分かりません。まともに敵影を視認できる距離まで近づいた者は皆、地獄のような炎の柱に…おお、神よ…」


ブルブルと震える伝令。

これ以上の事は聞けそうにない。

使えぬやつだという思いが沸くが、出来るだけそれを抑えて告げる。


「分かりました。ですが、教皇様への報告には貴殿も同行していただく必要が有ります。隠し事など一切せずに、ありのままを話すように」

「ハ…ハッ!」


そのまま伝令と共に教皇様の元へ。

教皇様の執務室は身分にそぐわぬほど質素なものであり、必要な物しか置かれていない。どこぞの枢機卿とは大変な差があるというものだ。


二、三話すと私は退出させられ、教皇様は伝令と二人のみになった。


防音のしっかりした部屋では何を話しているのかさっぱり分からなかったが…入室した時には青い顔をしていた伝令も出てきた時はスッキリした顔だった。

どうだったかと聞くと『君は任務を果たしたのだから胸を張れ』と言われたと。

恥ずべきことではないと…


そうだ。

教皇様の仰るとおりである。

この伝令一人の責任で負けたわけでも何でもないのだ。

彼を責めるのはおかしい。

そんな当然の事に考えが至らず、私も伝令に対して厳しく当たっていたように思う。


さすがは教皇様だ。

チラリと見えたお顔は、この敗戦の状況であっても微笑んでおられた。

まことにお優しい方である。


このお方ならどこまでもついていける。

そう感じるに十分なお人である。



こうしてこの日から我らは本格的に軍備の拡張に取り組んだ。

戦死したと思っていた我が国の勇者3名が帰って来たのは行幸であった。

どうやら我らの軍のうち精鋭部隊は当日、リヒタールの街から少し距離を置き、魔王領内部に浸透している作戦の最中であったようだ。


おかげで兵の損失だけで済んだ。

それならなんと言う事は無い。兵など幾らでも沸いて出て来るのだから。


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