第156話 帰宅

アーク歴1501年 漆の月


ヴェルケーロ領




「ただいま~」

「お帰りなさいませ、若。また沢山避難民が増えましたな…」



無事にヴェルケーロ領に帰って来た。

道中はアフェリスをかまう事に疲れたくらいで大して問題も無く。

大魔王城も師匠がいないから寄らなかった。


道中でリヒタールからの避難民の集団に追い付いたので、戦況を教えて帰りたい者は食料を分けてリヒタールに帰らせ、そのままヴェルケーロに移住する者は一緒に行動した。

変わったことがあるとすればそのくらいか。と出迎えに来たマークスに馬車を降りながら報告。

あ、一つ忘れてた…


「若と合流した者は1000名程ですな。戦場の方も大きな問題も無く?」

「俺はよく覚えてないんだよなあ…あと、シュゲイムたちは人族だから後方に回された。まあこれもしょうがないと言えばしょうがない。しょうがないと言えばもう一つ…」

「何ですかな?」

「おい、降りて来いよ!」


声を掛けられてしぶしぶと言った風情で降りてくるアフェリス。


「んな…アシュレイ様!?いや、アフェリス様でございますか…お久しぶりです」

「ン…」


ペコリと頭を下げてあいさつするアフェリス。

それを見てにっこり微笑んだマークスはこちらをギロリと見て小声で話かけてくる。


「若!?どういう事ですか?(コソコソ」

「どうって。なんか大変そうだったからこっちに遊びに来させたんだよ(ヒソヒソ」


行きは馬に跨って出陣したが帰りは馬車だった。

でもまあマークスもそこまでおかしくは思っていなかったようであったが、同乗していた者がアフェリスだとは思っていなかったようだ。まあ師匠辺りが乗ってると思ったのだろう。


「王妃様の許可は取ったのですか!」

「獲ってない。だって伯母さん戦場に居たんだもん。いちいち面倒だし。」

「なんという事を…」

「良いんだよ別に。従兄弟の家に遊びに行って何が悪い。そういうことすらできない環境にアフェリスを閉じ込める方がおかしい」

「一国の姫ですぞ!」

「ソダネー」


ぐぬぬぬと怒るマークス。

そして知らん顔をする俺。


「あの…私が口をはさむ問題ではないと思いますが…姫様の置かれた環境は酷いものでした。食事も友人関係も厳しく制限され、おまけにあの教師が…」

「レリラ、貴方には聞いていませんよ」


アフェリス付きのメイド、レリラの言葉を強い口調で遮るマークス。

ちょっといかんじゃろ?姫付きのメイドさんだぞ?と思っていたのだが。


「お爺様、ご無礼は承知の上です。それでも…」

「…待って。お爺様??」

「レリラは私の孫ですぞ。知りませんでしたかな?」

「知らねーよそんなの…」


なんてこったい。

マークスに子供も孫もいて、もうとっくに引退する年だってのは知ってた。

でも魔族は寿命が長いのがいっぱいいるし、どうせ暇なんだから手伝えって事で雇っている。というかまあ、ウチの家臣筆頭なんだよな。そろそろ引退の年かもしれんけどまあそれは何とでもなる。

信○の野望でも死ぬ1か月前まで戦場に行かせたりするし!こんくらいふつーふつー!くらいの気持ちだったけど孫がアフェリスにいつも引っ付いてるメイドさんだなんてことは知らなかった。言っておいてくれそこは。


「…うーんまあ、レリラが孫だってのは知らんかったけど。アフェリスの教師は最悪だったぞ。あんなのに任せて…ほれ、アフェリス。マークス爺に挨拶してみ?」

「ぁ…ぉ…」

「アフェリス様…?これは?」

「コイツ、声も出せないみたいなんだよな」


アフェリスは何かを喋ろうとしているが、まともに声には出来ていない様子。

わずかに聞こえるような聞こえないような。そんな小さな音が出るだけだった。


「なんと…おいたわしや…」


よよよ、と涙を流すマークス。

よし、ここで畳みかけよう


「そういう訳でウチで療養すればいいと思ったのだ。昔のように泥んこになって怒られればいい」

「…そうですな。自然と触れ合うのは良い事でしょう。やり方はどうかと思いますが」

「いーんだよ別に」


まあ昔アフェリスが泥んこになった時、親父に怒られたのは俺だけだったが。


「じゃあそっちは頼んだ。適当に案内してやってくれ」

「ハッ」



アフェリスはマークスたちに丸投げして、俺は工房の方へ。


「ゴンゾいるかー?」

「坊ちゃん…どうなさいました?」


ゴンゾはそうでも無いが、下っ端の若い衆は俺の顔を見るなり、『ゲッ!』とか『ウッ!』とか言いそうな顔をした。

俺なんかやったっけ?


「ゴンゾ、こいつを見てくれ。どう思う?」

「すごく…カッコいいです…」


ゴンゾは夢中になってガチャガチャとフリントロックの機構を弄り回している。

銃身や銃床部分はどうでも良いって顔だ。

まあ、その辺はどうって事ないからな。


「これ何か分かるか?」

「あれじゃろ?弾を打つんじゃろ?前にカイト様が言うとったし試作もしたじゃないか。火縄銃がどうこうって。大砲は出来たけど小さくするのに苦労してその割に威力が出なくて面倒になって放り込んだやつじゃ」

「そうだったっけ」


作るだけ作って、量産は間に合いそうになかったから後回しになってたんだったか。まあ魔族の力を考えたら石投げたほうが早い説は確かにあるからなあ…

でも将来のことを考えるとなあ。ガトリングガンや対物ライフルには負けるし。研究しておくに越したことはないだろう。


「この火打石で打つんだな?確かに火縄よりは簡単だし火に気を付けなくてもいい。雨でも火縄よりはましだろう」

「まあ、とりあえずこれちょっとおなじようなの作ってみてよ。バラしていいから」

「おう。気前がいいな」

「人族がいっぱい戦場に持ち込んでたみたいだな。鹵獲品もいっぱいだ。俺の所にも何個かあるから研究用にもう一個置いて行くわ。」


そう言ってマジックバッグからもう一つ出す。

同じタイプの銃だ。火縄銃もついでに出す。

敵さんもいろいろ研究してるんだろうな。


「こっちは…ふんふん。わし等が作ったのとほとんど同じだな。原始的だが不発の心配は少なそうだ」

「そうだな。火打石なんてアテになんねえよな。俺も嫌い」


カチカチやっても中々火は付かない。

ホントにこんなので火が出るのか?ってイライラして最後は火魔法を使う。

魔族は大体みんなそうやてるんじゃないか。


「人族の火打石は良質なんだろうな。でもこれくらいなら火魔法で着火した方が良いんじゃないか」

「魔法が使えない人向けだろうからな…ここのところの機構が…」

「うむ。上手く使っているな。儂はこっちの…」


ワイワイと楽しく打合せする。

途中で呼んでたゲインも合流。

銃床部分はゲインが作ることになり、また仕事が増えたとぼやいていた。


「あ、それと缶詰の鉛は色々あぶねーから中止な。瓶詰にしてコルク栓にしよう。その方が楽だ」

「ガラス職人が死ぬがな。まあ儂らは楽になるから良いか」

「コルク栓は…儂はやらんぞ!カイト様よ、新築多すぎて部下が何人もぶっ倒れとるわ!もうむりじゃわい」

「あ、ゴメン。避難民に多分大工居るから…そいつら使ってくれ」

「もう使っておるけどいっぱいいっぱいじゃわ…」

「すまん…おちんぎん上げるから頑張って」


避難民たちの家は急造の長屋だ。

いっぱい作ってあったけど全く間に合わんからケンタウロスやミノタウロスさんたちの大きな家に間借りさせて貰ったり、領主館の廊下やら鍛冶場やら…色んな所で寝てもらってるけどとても無理だ。


という訳で新築ラッシュである。

即ち山は禿げ、ゲイン過労で禿げた。

俺はそんなゲインを金でハゲ増した。

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