第155話 拉致



「はあ、カイト殿はお元気そうで何よりという所ですかね…」

「あ、マナト先生お久しぶりでーす!」


久しぶりにアシュレイの妹であるアフェリスに会った。

10年ぶりくらいか…?と思ったけどまあそこまでではない。ほんの4~5年か。

そしたらイライラする教師がいたので、そのアフェリスの教師の……名前も知らんクソをぶん殴ったのだ。


そうこうしていると、昔世話になったマナト先生と衛兵が一応話聞きたいからって事で腰を低くお願いされたから、まあ了解して。そして事情聴取みたいなことを受けることに。

まあ、俺の知ってる顔のおじさんの衛兵さんで…あの教師がいかにアフェリスを酷く扱っているのかと力説されてしまった。


「何でマナト先生じゃなくってあんなのが教師やってんの?レリラが言ってた大臣のごり押しって本当?」

「私には正確な情報は分かりかねますが、アークトゥルス城内ではそういう話が一般的です」

「ほーん…」


何とも歯切れの悪い言葉だが、まあ断言することも難しいだろう。

つまり―――あの教師はただの下っ端で、アフェリスを苦しめようとした奴が他にいるという事か。


「で、そいつ誰?」

「財務大臣とも外務大臣とも言われております。軍務大臣の名も挙がったことも…」

「わかんねーんじゃん」


どうしようもねーわ。

うーん、そうだな。


「じゃあアフェリスは俺が連れてくわ。安全なヴェルケーロ領で勉強させるから」

「は!?カイト様それは!?」

「じゃあオッサン今のままでいいと思ってんの?えーっと」

「グルマです」

「グルマさん、俺はあいつの兄だよ。今迄もこれからも、そう思ってるし何としてもそうする。悪いようにはしない。絶対に。マナト先生もいいでしょ?」

「…私の一存では決められませぬ」

「私にもそんな権限有りませんよ。有るわけないでしょう?」


そりゃそうだ。

だから、こうする。


「分かってる。カイトのせいだって事にしていいから。」

「カイト様…何を?」

「何って…?」


グルマさんの座ってる椅子はちょっと良い木の椅子だ。

潤沢な魔力を纏った、高級な椅子。

まさに王城にふさわしい逸品である。

そしてその潤沢な魔力を纏った木は、俺にとってはものすごく使えるものだった。


「ごめんね、ツリーアロー」

「なっ!」


指先から生まれる小さな矢。

身構えるグルマさんには当たらず、椅子に当たる。勿論椅子を狙っての事だ。


「カイト様、何を?…おおおおお!?」


互いの位置は小さな机を挟んだだけ。1m程度しかない。

この距離で外れる魔法は無い。という事はわざと外した、だが何故?


訝しそうに外れた矢を見たグルマはその直後に自らの椅子から生えた樹によって拘束された。


「カイト様!これは!」

「すまんな。俺はアフェリスを強引に連れだした。何なら攫ったって事にしても良い。伯母上にも政治が面倒でイヤになったらウチか実家に避難しろと言っておいてくれ。それから人族は恐らく何度でも来るぞ。お前も死にたくなければ訓練しろ」

「カイト様!」

「ちゃんと訓練しろよ。ダンジョンにも行けよ~?」


グルマはいい加減オッサンだが、まともな魔族なら怠けて無ければあの程度の拘束は抜けられる、はずだ。もがいているが解けないのは怠けてたって事。

マナト先生は始めっからこういう風になるって思ってたみたいで溜息を吐きながらこちらを見るだけ。


「くれぐれも、姫に傷などつけぬようにお願いしますよ」

「あいよ!」

「あ、傷物にするなという意味ではありません。そちらはむしろ問題ないかと」

「ねーよ」


何言ってんだマナト先生は。

軽くスルーしてアフェリスのところへ。


「アフェリスー!俺の領地に遊びにいくぞー!」

「カ、カイト様!」

「あ、レリラも一緒に来い。アフェリスの面倒見る奴が要るからな」

「カイト様!?」


強引にアフェリスとレリラを連れだし、シュゲイムと合流して出発!

微妙に抵抗する二人を軽く縛り、拉致されたって体に。

美女メイドを縄で縛って拉致である。


なんかもう、縄が食い込んでエッチいアレやコレやみたいな構図になって色々捗るが…まあそれどころではない。

それに引き換えアホの子は相変わらずアホの子だ。食い込むところもない。貧相な体である。まるでカイトのように貧弱な棒のような体だ。ってやっかましーわ!



さ、気を取り直してサッサと帰ろ。


こうして無事にアフェリスをゲットした。

コイツも頑張って育てれば立派な戦力に…はならないか。

アホリスだもんな。どうしようもないわ。

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