第147話 三倍リヒタール拳
アーク歴1501年 伍の月
ヴェルケーロ領
「おっす。お久しぶり~」
「お久しぶりです、カイト様」
「あ、こちらは大魔王様の…何になるんですか?」
「大魔王代理のマリラエール・ラ・ルアリだ」
「こ、これは大変失礼を致しました!」
「そんなに緊張しなくてもいいよ」
「お前が言うなお前が!」
アークトゥルス城についた。
通常なら徒歩10日の距離を5日だ。
ずーっと走ってたからかなり疲れた。もう限界に近い。
師匠お供に引っ付いてきているメイドさんや執事も一緒に走ってきたが、元気いっぱいだ。
まあメイドさんたちはケンタウロスが時々嬉しそうに乗せていたってのはある。
アイツら鼻の下伸ばしやがって…俺だっておんぶして運ぶくらいやろうと思えばできるぞ!
門番さんは昔アシュレイと遊んでた頃に見たことあるオジサンだ。
よくオジサンの目を盗んで二人で外に出て遊んでいたけど、今考えたら気付いてて見逃してくれてたんだろう。もしくは俺たちを止めろとそもそも言われてなかったか。
そのいつものオジサンは師匠を見て大変恐縮している。
つーか大魔王様の孫とかひ孫とか、あるいは娘とか??そういう返事を期待したのに帰って来たのは『代理』だった。うぬぬ。
門をくぐって城下へ。
城下町は戦時下だとは思えないほど平穏だった。
案内された兵舎へ皆と移動し、俺と師匠はお城の方へ。
城下町を二人と案内の門番オジサンと一緒に歩く。
町の人たちも見慣れた顔が多かった。
ここはリヒタールの次に子供時代によく遊んだ街で…良くここらでアシュレイと買い食いしたりしてたんだよな。いろんな人が声をかけてくれた。懐かしいな…でもアシュレイは隣にいない。
まあ師匠に文句があるわけじゃないけども。はぁ。
またしても浮き沈みを繰り返しながら城に入り、城内を歩く。
城内も変わらない。
事件が起こるまではよく遊びに来ていたし、ここに住んでいた時もある。
角を曲がるたびに懐かしい思い出が蘇る。
応接室のようなところに案内されるのかと思っていたが、通されたのは伯父さんが使っていた執務室だ。
「失礼します!ウラザ・ガイムルです!マリラエール・ラ・ルアリ様、カイト・リヒタール様がお越しになられました!」
「どうぞ」
ドアを開けたのは伯母さん本人だ。
椅子から立ち上がっておれたちを迎えた伯母上は相変わらず美人だが、どことなく疲れた顔をしている。
「マリラエール様、カイト殿、ご無沙汰しております。」
「お久しぶりです。アークトゥルス女王」
「伯母さんおひさしぶり。ちょっと疲れてそうですね」
「ええ。大魔王様のご崩御以来、ゆっくり休めたことがないわ。」
「分かります。ここしばらくは本当に立て続けに色々と起こって。」
「あー、俺も……?」
ん?そういや俺はバタバタしてるときはしてるけど、後は普通に領主生活して修行して、風呂入って腹いっぱい食って寝てるな。特によく寝てる。
まあ、寝ないと身長伸びないっていうし??
じ~~…っとこちらを見る2方向からの視線を感じるが、まあ気のせいだ。そうだろ?
「俺も…の続きは?何やら忙しそうでもないな。もっと仕事を振るべきか?」
「はあ、カイトは相変わらずね。」
「なはは」
「…では本題に入りましょうか。」
「大魔王城からの援軍3500、および近隣領主から5000を連れてきました」
「こちらもヴェルケーロから援軍を連れて参りました。総勢1300です。ああ、兵糧になるものもいっぱい持ってきました。後で試しに食べてみてください。ビックリしますよ」
「有難う御座います。助かります。」
本当にホッとした表情を浮かべる伯母さん。苦労してたんだな。
それからは色々と雑談を交えながらの情報交換になった。
ヴェルケーロ領はすでに城門を越えられ、領主館付近は奪い取られた可能性が高いと。
何てこった。
という事は俺たちの作っていた畑はもう駄目になったのか…と一人違う感想を抱きながら話を聞く。
一般の領民は恐ろしい人族に捕まると何をされるかわからんと俺が散々昔から言いふらしていたせいか、ほとんどが無事に逃げ出しているらしい。
逃げ出す先はこのアークトゥルス城、大魔王城、それにヴェルケーロ領が大半で後は親族を頼ってあちこちに散らばっているらしい。
つまりは旧リヒタール領の総人口、30万人に近い難民が発生している。
うーむ。
ウチではとりあえず5000を受け入れ、その後も沢山受け入れは増えそうだなと思っているが、30万はとても無理。まあ伯母さんの所に逃げるのも多いだろうし。せいぜい1万~1万5千くらいになるだろう?そうだろ?
「ヴェルケーロには最終的に3万ほどの避難民が流れつきそうですよ。」
「3万!そんなに!」
人は石垣、人は城だ。すっごく偉い戦国大名もそう言ってた。
人が増えるのはすごく良い事だ。
んなことは分かってるけど、そんなに急には無理だ。
総人口の3倍だ。
日本に3億人の外国人が来たらどうなるか想像してみろって。
いやまあ、どっちかというと自国の民だからウチの市町村に3倍の移住者が…うーん、無理だ。
受け入れる土地も家も食料も、服もお店も…なにもかもがたりない。
でも受け入れないと、彼らも困るだろう。
参ったなこりゃ。
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