第148話 メープルシロップ
避難民が沢山…なんてモンじゃない。今までの人口の3倍ほど避難民が漂着する可能性があるらしい。そういや道中もチョイチョイ避難民とすれ違って食料分けたりしてたわ…
という訳で、足の速い奴にマークスへと伝令を頼むことにする。
・もっと沢山難民が訪れると思う事。
・山を開発…はもう限界近いから、田んぼを作っている平野部をもっと開発しまくるように。人族と喧嘩とか言ってる場合じゃない。
・平野部に長屋を出来るだけたくさん作って、道も整えるように。
…ってここまでは出発前に言っていた事だ。
5000の難民が来ると予想してて、その倍くらいは受け入れられるようにしようと相談していた。
一応準備はしているが、1万と3万だとえらい違いである。
3倍の人口を養うには3倍の建物、それに3倍の食料に3倍の教育施設に…とにかく全部をかけてお前を上回る1200万パワーだ!などと頭の悪いことを供述している暇はない。
具体的な金策を考えないといけない。
食料は何とか自前で増産するのが一番だ。
ちょっとした隙間にソバや枝豆を植えるとか、山肌でも育つサツマイモやジャガイモなんかの作付けを増やすとか。部屋でモヤシでも作るとか?
まあそういうちょっとした小細工も必要だ。
でも、もっと根本的に食料を。お金を儲けないといけない。
そして儲けた金で食料を買う。しばらくすれば難民も農民になってくれると思うからそれまでにパパっと儲けてパパっと金に換えて…それでいて敵国に渡っても特に問題のない物がいい。
でもそもそもどうやって儲けてどこから食料を買うのか。
うーむ、難しいな。
パッと思い浮かべたのは酒と甘味だ。
酒は既に作っているが、アレは良い。あれはいっぱい儲かる。
甘い物は作っていないがどう考えても高く売れる。
というか『女性が好きなもの』は男性が貢ぐから高く売れる。
人間も動物も、世のオスどもはメスに好かれるために涙ぐましい努力をしているのだ。
うーん…甘い物甘い物…
砂糖、ケーキ、生クリーム、イチゴ…
なんとなく頭に思い浮かべたのはイチゴショートだ。
やっぱケーキと言えばイチゴショート。最高だよな…とは思うが。
まず、砂糖はこの世界じゃクッソ高い。
というか中世だと砂糖も塩も香辛料も高いのだ。
サトウキビを育てようかと思っていた時期はあったが、アレは沖縄や奄美みたいな暖かい、水の多めにある地方で作れる物だ。
日本でも四国や静岡あたりだと作っていると聞いたことがあるが、ヴェルケーロじゃ無理だな。
ヴェルケーロのような寒いところでも採れる砂糖となると『てん菜』だ。
ビートとも呼ばれるこの作物は北海道でも栽培されているもので、ヴェルケーロ地方でも栽培が可能だと思われる。
でもまあ、これも頑張れば高く売れるようになるが…実際のところすぐ金になるかと言えばまあ微妙だ。そもそも何処にあるのかもわからない。見つけ次第量産しようとは思っているが、鶏と同じく捜索中だ。
…砂糖は諦めよう。
という訳で、じゃあ塩かというと。
何だか変わった地層の有る山肌を見たこともあるし、たぶん掘れば岩塩くらい出るんじゃないかとは思うが…岩塩を掘り当てて、出荷できるような状況にして…というとすぐ金になる産業だとはとても思えない。
後は…香辛料はとても無理。胡椒とかインド周辺だったと思う。気候が全く合わないのだ。
そもそも寒い山ばっかりの地形で儲かるモノ…
あった。有ったわそういや。何で思い出さなかったんだ。
領内には山がいっぱい。そして当然その山には樹がいっぱいである。
特に気にせずにあらゆる樹を掘り起こして木材にし、掘った地面を耕して畑に変えていた。
でもそう言えば樹から採れるモノでいい金になる物があった。
一回思いついていたけどサボってすっかり忘れてたモノが。
「楓の木を探してくれ。そして木にドリルで…ちょっと大きめのキリで穴をあけて、ストローを差し込んで、駄目だこりゃ難しいな」
「はぁ…?」
伝令に使おうとしているのはマリアの部下で、所謂忍者部隊の若者だ。
サルンという名の彼はまだ20代で魔族の中ではヒヨッコもいいところである。
ちなみに俺はヒヨッコどころかまだ近所の小学生みたいに扱われている。
だが待ってほしい。ちゃんと俺も成長してきて今や身長は160を超えようとしている。
一気に背が伸びた。他にもちゃんとあっちこっち二次性徴をしてきているのだ。
うっかり師匠がいい匂いを発して来たら前かがみになる程度には。
「いや、今前かがみは良い。あー、ちょっと手紙と絵を描く。待ってくれるか?」
「???はい。」
少し混乱しているサルンは放っておいて。
内容は簡潔に書いた。
まだまだ避難民が増える見込みで、3万は覚悟するように。
あらゆるところに避難所を建てて、畑も田んぼもガンガン広げるように。
メープルシロップを採ろうと思うから、蓋の出来るいい感じの桶とそれにつなげるストローを作るように…これは図付きで説明したからわかってくれると信じたい。
「いいか?カエデの木に穴をあけてストローを刺して…」
「はい。…ストロー?ですね?」
「うん、まあそういう事だから。今の説明を何となーくマークスに伝えてくれ。あっちで何となーくやってくれると思う。ストローは俺の小指くらいの太さで中に穴が開いてる…鉄板を巻けばいい長ければ切ればいいから長い目にしといてって。何十本とか?もっとか?要ると思うからいっぱい作っておいてって。頼むぞ」
「畏まりました!」
サルンを見送る。
大丈夫かな?伝わるかな?
まあ最悪ストローを作っておいてくれれば問題ない。
そうすりゃ樽くらいは何とでもなるし。
ああ、いい感じでシロップが取れたら煮詰めるために鍋やら燃料がいるが…まあそれこそ何とでもなるだろう。
それにしても樹魔法で木を育てて、それから樹液を抜いてまた魔法で育てて。
こうすりゃ幾らでも採れるんだからさっさとメープルシロップ思い出せばよかった。くそう。
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師「カナダあたりじゃメープル植えすぎてメープル花粉症になってるらしいぞ」
カ「杉よりマシじゃないっすか?」
師「大差ないだろ…」
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