第146話 躁鬱
アーク歴1501年 伍の月
大魔王城
走り走り。
ヴェルケーロから遠路遥々…まあこの位は普通の距離か?
1週間ほど毎日ランニングして大魔王城に着いた。
道中の道は悪い。
草はボーボーだし、道はデッコボコだし。倒木とかもあって危ないことこの上なかった。
今考えれば盗賊とかが出てもおかしくない。まあ1300の軍勢…じゃなくても集団に向かって突っ込んでくる勇気のある盗賊は居ないだろうけど。
「とうちゃーく。みんなお疲れ。じゃあ俺は師匠に会ってくるよ」
「お供します」
「あー、んじゃロッソだけ来てもらうか。シュゲイム殿、第一兵団と第二兵団の皆を休ませて。飯食って風呂行って寝ろって言っといて。はいお金」
「有難うございます…皆聞いたか!カイト様のおごりだ!今日は飲んで大人しく寝ろ!分かったな!」
「「「おおー!」」」
かなり疲れた声が響く。まあ一週間も走ってりゃ誰でもヘロヘロになる。
皆の荷物は大きなものは俺のバッグに入れてある。それとケンタウロスに荷車を引いてもらった。道が酷くて何回も車輪を直したが。
アシュレイのバッグは最早俺の、バッグである。
鎧なんかは人数分とても入れてられないから食料と槍とか斧とか。
その辺だけだ。重いからあんまり入らないってのもある。食料が重い説も十分にあるが…。
さすがに一週間走らせたら皆ヘロヘロだ。
今日は英気を養ってほしい。
どんなにヘロヘロでも飲んで寝るだけで幸せになれる。
酒飲みはどこの世界でも一番幸せな人たちなんじゃないかな。
「こんちわー。師匠いる?」
「勿論です。カイト殿、姫をお願いしますぞ」
「ん?うん。」
いつもの門番さんに挨拶をする。
でもなんだかいつもと違う調子で戸惑う。
姫をお願いってこんな事言われたことなかったのにな。
戸惑いながら中に入る。いつものように執務室へ。
「ちわーっす。師匠お久しぶりでーす」
「遅い!」
「ヒエッ」
師匠の後ろからゴゴゴゴゴとオーラが立ち昇っている。
大変お怒りの様子であらせられる。
今まで見たことがない程のお怒りさんだ。
正直怖い。
「カイト!貴様、リヒタール領が侵攻されてから何日経っていると思っているのだ!」
「申し訳ありません。ウチに情報来るのはここからさらに2週間くらいは遅れるので…これでも出発して7日でここまで来たんです。急いだんですけど…」
以前に移住した時にはリヒタールからヴェルケーロまで3か月かかった。その半分以上ある道程を兵を1300も連れて7日だ。十分すぎるほど早いと思う。
情報については商人経由だと遥かに遅い。
行商のついでって感じだから月に一度の定期便のついで程度だ。
忍者部隊の情報は重要なモノならもっと早いが、まあ今回のは実際の所起こることを予想していたから『侵攻してきましたぜ!』『せやな』だけじゃ話にならない。
どの程度の規模で、どういうルートで…と確かめているとそれなりに時間はかかる。
という訳でどうせ開戦には間に合わないし、避難民の受け入れをある程度行ってからこちらに来た。
行軍中に新しい避難民ともすれ違ったのでドンドンこれから増えるだろう…受け入れ大丈夫かな?
「む。だがな、お前はこの事態を予想していたのだろう?ならもっと早く移動できたはずだ」
「それはそうですけど…避難民の受け入れとか、戦いの準備もあります。『疾きこと風のごとく』ですが、それは準備が整ってからの話ですよ。早いだけじゃ女性に嫌われます。」
「んん???女性に??…まあよい。明日出発するぞ!良いな!」
「ええ?師匠行くんですか?師匠は総大将なんだからもっとドッシリしておかないと。それにほら。もし捕まったらえらい目に合わされますよ?」
前に自分が言ってたじゃないか。
エロい目に合わされた後四肢切断して殺されるとかなんとか。
順番は多少前後するかもしれんが、とにかくひどい目に合うって。
「ええいうるさい!お前も爺共と同じことを言う!行くと言ったら行くのだ!」
「はぁ…」
ロッソをチラッと見たが、置き物のようになっている。
お前なんでついて来たんだ。
ついて来たからには一緒に留守番してろって説得しろよ!まったく…!
「…分かりました。兵糧については余剰分をかなり持ってきております。ご安心ください。」
「うむ。期待している」
「師匠はどのくらい率いるので?」
「またこの城にいる戦いたがりの年寄りを連れていく。良いな?」
「はい。では我らの軍は先行します。足の速いのをそろえておりますので」
「分かった。」
何なら師匠やメイドさんたちもケンタウロス達に乗せてもらえばいい。
たぶん乗せる方もいろんな意味で大喜びだろう。
大魔王城を出発し、懐かしのリヒタール領へ。
最後にこの道を通ったときは…あれは裁判の後だったか。
アシュレイが死んで、囚われの身になり…そのまま死刑にでもなるか。
もうどうにでもなれと思っていた日もあった。
まあそれを大魔王様に救ってもらったわけだが…その代わりに慣れ親しんだリヒタール領を取り上げられ、
「どうした?イライラしているな」
「以前にここを通った時にことを思い出していました。その前の裁判とかも。」
「ああ。遠くから見ているだけだったがあの日のお前は…なんというか煮え立つ溶岩のようだった。」
「溶岩ですか?」
「ふっ、可愛い溶岩だがな。いつ爆発してもおかしくないような危うさはあったな…あの危うい子供にはリヒタール領を任せられんと大魔王様の近習もうるさかったのだ」
「…ほう」
「それで仕方なく、という面もある。全てを大魔王様お一人で決めたわけではないのだからな?」
「はい…でもその後も無茶振りは多かったなと思います。まあいいんです。いいんですけどね。」
まあ言いたいことは分かる。
それにそんなに恨んではないし、そう言われたら躁鬱の激しかった裁判中の俺を見て最前線の土地を任せられないと思っても仕方がない。
夜中に奇声を発し、暴れたり。
そうかと思えば飯も食わずに凹んだりとそういう日々だった。
「大魔王様も戦の度に荒れていて周囲は大変だったそうだ。」
「そうなんですか?」
「そうだ。仲間や民が苦しんでいる姿を見るたびに…その、色々と大変だったようだ。」
そうか。
大魔王様も仲間思いだったんだろうな。
あんまり仲間の逸話が残ってない気がするけど…ゲームではどういうストーリーだったのだろう?
1作目の主人公は人間で、何人かパーティーメンバーがいて。
魔王を倒して平和になりました。チャンチャン。って終わり方だったはずだ。
2作目の主人公が大魔王様になるのだけれど、人間に虐げられている所からスタートして。
仲間と一緒に支配というか圧政というか、からの脱却を目指すって話だったと思うが…
うーむ。良く解らん。
大魔王様も若い頃は色々あっただろう。
最近も忙しかったんだろうとは思うけど、だからって領地に着いてやっと慣れてきたころにアレやれコレやれって多すぎない?
新しい料理を食わせろとか、野菜より肉が良いとかは分かるよ。
そのくらいの我儘はいいけど、人間の国に偵察に行って来いよとかさ。
それからエルフの国の防衛に…は俺が勝手にやってたか。
まあ良い。
いい所もあれば悪いところもあるのが人間ってモンよ!…って簡単に納得すると思うなよ畜生!
と、そんな感じで一人浮き沈みを繰り返しながら進んだ。
やっぱり思い出の色々ある土地ってのはいい所も悪い所もあるものだ。
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