第144話 避難民

アーク歴1501年 肆の月


ヴェルケーロ領



アルスハイル帝国から宣戦布告が行われ、ほぼ同時にリヒタール領が侵攻された。

そのニュースが俺の耳に入ったのは侵攻開始から2週間後の事だ。

もうこの分ならリヒタール領はボロボロかもしれんなあ…


それにしてもマリア達の部隊を使っても情報が届くまで2週間か。

この時代の、このタイムラグが痛いわ。

うーん、飛竜でも雇うか…でも連絡のためだけにってのはなあ。

伝書鳩とかでもいいけど…うーむ。この魔物いっぱいの世界でハト…無理じゃねえかなあ。


情報伝達についてはどう考えても要改善だと思うが、2週間もの時間があればもう敵軍は自陣の奥深くまで入り込んでいることだろう。

…と思うけど実際どうだったっけ?ゲームの時だとカイトはあっさり死ぬけどその後の侵攻は割と緩やかだったような。なんでや。


「何ですぐ攻めてきたんだろうなあ」

「何がですかな?」

「いやまあ…俺そんなに人間界と接点ないよな?」

「今はそこそこ有るではありませんか」

「まあそうだな」


少しだけど貿易もしている。

言うて陸路の貿易だからホントにタカが知れてるが、特産品の輸出はしているのだ。

布とか、貴金属とか酒とか。

まあ武器になりそうに無いのを細々とやってるだけである。

まあ細かい事言うと布も貴金属もは戦略物資には十分なり得るけども。


「…俺ってリヒタール時代に恨まれてるようなことあったか?」

「いえ。あちらにいた時はまだ野菜を作っていたくらいでしたから…ああ、収穫量が上がりすぎて羨ましがられてはいたようです。お父上もあちこちで『ウチの息子が作った物だ』と自慢されておりましたので」

「親父そんなことやってたのか…」


思わず親父を思い出してジーンとしてしまった。

あの親父が俺の作った物を…いや、割と喜んで自慢してそうだな。

酒いっぱい飲みながらこの酒はウチの領で作ってうんたらかんたら…って絡んでそう。

めんどくさい絡み方で。うん、やってそう。


てか人間と飲み会やってたのか。

そういうモンなの?と思うけど聞いてみたら割と交流有ったみたい。

領主同士でもそこそこあったし、一般市民とかはもっといろいろ交流があった。

そうでも無きゃ混血とか産まれないって話はある。


何せ、停戦からもう1000年以上たっているのだ。

殆どの種族で戦前生まれはもう残っていないだろう。

竜族の一部とエルフの一部が生き残っているようだが、それももうヨボヨボのジジババだ。

人間なんか生き残ってるはずない。平安時代の人がいま生きてたらどう思う?ってなもんだ。


なもんで、魔族と人族の混血はたくさんいる。

その勢力を取り込めるかどうかが今後の鍵になるんじゃないかな?とは思うんだけどなあ。




リヒタール領の続報が入って来たのは肆の月も下旬になってからだ。

続報をもたらしたのはリヒタールから逃げて来た避難民だ。

まあ事前に忍者部隊からも情報を得ていたが、避難民たちにも知り合いはいっぱいいた。

懐かしい顔だ。


「みんな元気…ではないな。まあ無事でよかった。」

「おお、カイト様!」「あの腕白坊主が立派になったものだ」「坊ちゃん!相変わらず可愛い!」

「…まあ皆、ここまで大変だったろう。当面の食料に付いては心配しなくていい。今日は風呂に入って飯を食って寝ろ。話は明日からだ。」

「「「はい!」」」

「ああ、怪我や体調の悪い者は申し出るように。遠慮はいらんからな!」


リヒタールからはるばる避難してきたのは大凡1000名程もいるだろうか。

中には子供もいるが、こちらも老人はほどんどいない。老いたりとは言え魔族、人間の侵攻に対して殿しんがりとなって避難するものを守るのだそうだ。


「マークス、これからも続々と避難してくるだろう。避難民たちの住居を確保しておいてくれ」

「ハッ」

「皆はいつも通りの作業に戻ってほしい。食い物を優先的に確保するように。猟の方も頑張ってくれ」

「ハッ!」

「マリアはこちらへ。確認したいことがある」

「はい。畏まりました。」


ざっくりと指示を出すとみんなが動いてくれる。

出来る部下って素晴らしい。


んで俺は美人秘書?マリアと密室で密着して密談だ。

勿論、いわゆる大人の三密、濃厚接触ではない。

仕事の話だ。


「避難民はあとどれくらい来そうだ?」

「第2陣、第3陣と続けて来ております。全体で1万人は超えるでしょう。もっと増える可能性もあります」

「それほどか…こんなに急に人口が増加して大丈夫かなあ?」

「今回の避難民はリヒタール出身の者が多いですので、カイト様への忠誠心は高いかと。ただ、人族との争いの直後ですのでエルトリッヒ公国からの移住者と喧嘩にならないかという心配はあります」

「ああ…」


俺が会った人族も魔族も、個人で見たら大体いい人ばっかりだ。

でも集団になったりイデオロギーが絡んだり、それに仇がどうこうとなってくると急に扱いが難しくなる。酒場で喧嘩が起こるくらいなら大した問題ではないが、刃傷沙汰になるとどうか。うーむ。


「とりあえずは法を再度布告しよう。喧嘩両成敗、目には目を、歯には歯をだ。当然だが住民の身分は問わない。魔族も人も老いも若いも『人間』だ。その上で血の気の余っている奴は兵にしてロッソに鍛えてもらって夜は学校だ。そうすりゃみんな大人しくなるだろ」

「はい。」


何とも原始的な法だが、殴ったら殴られるって事くらいはっきりしておかないと。


ちなみに、騎士として人間代表のシュゲイム君はロッソのハードトレーニングに耐えた後、さらに夜のハードトレーニングをこなす。

その結果として美人の奥さんは無事二人目を妊娠中だ。


顔だけじゃなくてスタミナもパワーもSS+どころかUGだな。ちくしょう。

イケメンもげろ。

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