第110話 ユグドラシル防衛戦 10日目 夜~


「…それで、バラゴ殿に気付いたのにどうして私には気付かなかったのだ?」

「いやあ…何でですかね?やはり上空なので、下からじゃ見づらかったのではありませんかね?えへへ」


頬を膨らませ、ぷりぷり怒る師匠。

俺は直接顔を合わせるまでまーったく気付かなかったが、増援部隊には師匠もいたのだ。


領地からの増援は先頭にケンタウロスの長に乗ったバラゴ爺さんがいた。

他にも領内の主だった武闘派はほぼ連れてきてもらっていた。


例外は体のおもたーい種族の奴らだ。ケンタウロスが幾ら体力有っても限界はある。

トロル種の奴らなんて乗せて何日も走れるわけがないのだ。というわけでベロザたちは領内でお留守番。かなり来たがったらしいがまあ無理なものは無理。

マークスとリヒタールから連れて来たロッソの部下たち、それに人族の騎士達はいっぱい来た。

ただし移動を重視して武装は最低限だ。後で荷駄隊も追いかけてきているらしいが。



一方の大魔王様からの援軍は魔王軍最速の飛竜部隊だった。

飛竜の方がはるかにケンタウロスより移動速度が速いが、そもそもの距離が遠い。到着したのが一昨日で昨日の朝出発したらしい。

…でもまあ1日で到着してしまえるあたり、さすが飛竜である。


んで、その先頭には師匠がいた。

俺が師匠に気が付いたのは飛竜部隊が空を飛ぶトンボや蜂の魔物を駆逐し終わってからだ。

何やらこっちに手を振りながら降りてきた人物に見覚えがあるなあと思ったのだ…ごめんなさい。


「私の扱いが軽すぎないか!?」

「いやあ。僕も体力の限界でフラフラしてたんですよ。申し訳ない。まあ、もう謝ってるんだからいいじゃないですか」

「その態度が気に食わんというのだ!」


プリプリ怒っている。

でもそう言われてもなあ。マジでこっちも大変だったんだ。

申し訳ないと思ってるから一応謝ってるじゃん?


…でも師匠は許してくれないんだなこれが。


「それにしてももう下層のモンスターが出てきているのだな。もう少し余裕があるかと思ったが」

「そうですね。1か月くらいかかるかもと爺さんたちも思っていたようなのですが、思ったよりだいぶ早いみたいです。あ、あそこにいるみたいですね」


師匠を連れて爺ちゃんエルフ王の所へ。

援軍の代表としてきたからちゃんと挨拶するのだと。


「おお、マリラエール殿、援軍忝い。」

「不詳、マリラエール・ラ・ルアリ。大魔王様の名代として援軍に参りました。」

「ルアリ…もしやとは思っていたが大魔王の所の姫君ではないか。先に名乗っていただければ良かったものを」

「先日はリヒタール卿の護衛として参りましたので…」


護衛じゃなくて教師というか見張りなんじゃないのかと思うが。

まあそれはいいか。


「飛竜部隊は取り急ぎ先行してまいりました。後続もすでに出発しております。」

「ありがたい事だ。防衛隊が十分な戦力になればダンジョン内部に入り込みたいと思う。そちらの方で志願者がいればまとめておいて頂きたい」

「はい。選抜しておきます」


おお。

ダンジョンのスタンピードを起こしている最中に突入するのは漢のロマンだ。

ごっちゃ混ぜに溢れ返っている中でドッカーンと突入して大暴れしまくる。これほど愉快なことがあるだろうか。いやない(反語

という訳で。


「はいはい!僕も!僕も参加します!参加したいです!」

「駄目だ」「駄目です!」

「なんでや」


あっさり却下。

こんな時は二人息バッチリやね。




11日目が始まった。

と言っても増援が魔力ポーションを持ってきてくれたし、魔石の地雷も仕込みなおせたし。

飛竜隊は上空からブレスをポイポイ撃ってケンタウロスは城壁の上からどえらい威力の矢を撃つ。

ヘロヘロだったエルフたちと一緒に援軍の部隊が出ている。

平均レベル的には少し下がったとおもうが、数と士気が全く違う。

つまり今までの防衛力とはえらい違いなのである。


落ち着いたところで昼過ぎに招集がかかった。

爺さんとエルフの国の魔法使いに弓使いが数名、前衛はロッソと師匠、それに魔王軍の増援からセドラル卿という魔族の騎士がダンジョンに行くことになった。

全員が久遠の塔70層以降に入ったことがあるA級冒険者以上の戦力であり、普通に考えて十分すぎるパーティーなんだと。


ほーん。


んで、俺とアカはお留守番で正面部隊で抑える役になるんだと。

ほーん…

お留守番か…


「俺も行きたいいいいい行きたいよおお(ジタバタ」

「我慢しろ」

「…はあ。まあ、まだまだ戦力として未熟だとは分かってますけどね。けどね。」


突入メンバーはレベルが300以上の強者ばかりだし、経験も豊富だ。

まあ言うて俺はやっと100台ってとこだ。

防衛戦でモリモリレベルが上がったが、まだまだって所ではある。

ギフトもまだまだ完成度が低い。


『カイト・リヒタール』は大器晩成型のキャラクターなんだし、ここからだって事くらい自分でも分かっているんだけど…

分かってんだ。

でも、分かってるからってそれでいいかと言えばもちろんそうでも無いのだ!


「やっぱり行きたい!行ってレベルガッツリ稼ぎたい!」

「駄目だ!」「駄目です」

「おれもいきたいー!」

「アカ殿は…」「アカ殿なら…」

「駄目だ!絶対ダメなんだからね!」


師匠とロッソには口をそろえて反対される。

その後で二人ともアカには行っても良さそうな空気を出されたが、俺が却下した。

主人の俺が弱くてお留守番なのに、ペットは強そうだから大丈夫。なんてそんなの許しません!





「では行ってくる。後は頼む」

「がんばってー」


そんな訳で爺さんたちはお昼から夕方の間、3時のおやつって時間に飛竜に乗って出発。


このタイミングが一番ダンジョンからモンスターが出てきているし、楽らしい。

ただし急がないと戻ってくるのに巻き込まれるんだと。


「そんな豆知識より連れてってもらって経験値が欲しかったなあ」

「おれはつれてってもらえそうだったぞ?」

「せやな。だが許さん」


経験値は基本人数割りだ。

そしてその中でもレベルが高いものには割合が多くなる。でも低レベルの人はちょっとの経験値でレベルが上がるから一緒と言えば一緒なんだけど。


防衛部隊の方は人数が半端じゃないから割る数も増えて一人当たりの経験値はどうやっても少ない。でも全体にかなり強くなれる。

一方で突入部隊は少数精鋭である。

経験値も人数が少ない分、一人当たりはいっぱいもらえてしまうのだ。


経験値がいっぱい。

なんと羨ましい事か。


俺の分がなくて悔しいけどロッソにはいっぱい経験値をちゅーちゅー吸い取ってもらって大きく育っていただきたい。そして俺はいずれ強くなったロッソや師匠にパワーレベリングをお願いしたい。

是非そうしよう。



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