第109話 ユグドラシル防衛戦 10日目
10日目の朝が来た。
今日も快晴である。援軍はまだか。
またも夜明けとともに訪れるモンスターの大群。
「夜の間にサクッとボスみたいなのやっつけてくんないかなあ」
「そう言う猛者もかつてはいたようですがな…まあ今の若では厳しいでしょう」
「だよね」
まあちょっとだけ考えた方法だが。
スタンピードの途中にダンジョンを攻略して、その最奥にいるボスを倒すことができればスタンピードは止まるはずだ。
でもなあ。
今外に出て来ているモンスターも、タイマンなら倒せるが何匹か一緒に来たらもう危ないんだもんな。
ダンジョンに乗り込んで囲まれるとそれだけでもう無理。
ボスなんか倒そうと思ったら取り巻きはいっぱいいるだろうし、本体はどう考えても雑魚より強いだろうし…無理無理。このプランは破棄で。
「まあ真面目にやるしかないか」
「いよいよ危なくなれば担いで逃げますぞ」
「ははっ。またまた」
「本気ですぞ」
「…わかった。そうならないように気を付ける」
「…ハッ」
「いつもの様に行くぞ…アローストーム・トリプル!」
3方向に矢の嵐を巻き起こす。
前は
何時もの様にモンスターの戦闘集団はこれで排除できた。
最初はこのタイミングでMP使いまくってもすぐレベルアップしたが、もうあまり上がってくれなくなってMPが回復してくれなくなった。
敵モンスターも強くなって経験値も増えているはずだが、俺も防衛に参加しているメンバーの平均レベルも高くなってきたからなあ。
昼前にはかなり状況は不味くなってきた。
すでに東と正面は3つ、こっちは2つ地雷を使っている。
今日は昨日より多く、5個設置したが…どうだろな。
地雷はあんまり多く設置しても誘爆して一度に消費してしまうので設置できる数が決まっている。
5個はその上限で…ぶっちゃけこのペースだと危ない。
そう考えていると中央から伝令が来た。
「国王様より伝令です。カイト・リヒタール卿は撤退するようにとの事です」
「断る」
「しかし…」
「クソジジイにこの程度でガタガタするなと伝えろ。行け」
「…はっ」
伝令の若者は感動したような顔で去っていった。
強がってみたが実際かなり厳しそうだ。
ジジイも同じように思っているのだろう。かなり厳しいと…
「ご立派です、カイト様」
「ふん、次が来るぞ。メイヤ、地雷起動の用意を」
「ハイ!」
状況は、悪い。
すでに城壁の上で戦えている人数は朝の2/3ほどだ。
地雷の起動は2日前に助けた3人のうちの一人、メイヤちゃんにやってもらっている。
メイヤちゃんは見た目はJCかJKってくらい。
茶色っぽい髪でパッチリしたお目目がとっても可愛いのだが、年を聞くとメイヤちゃん(86)だった。
メイヤちゃんじゃなくってメイヤ婆さんじゃねえか。エルフパネエわ。
そのメイヤば…メイヤさんの撃った矢は群れの切れ目にスッと入り、目標に着弾して地雷を起動。
ドオオオオオオン!という爆発音とともに火柱を上げた。
また命中である。寸分たがわぬ射撃だ。凄いね。
ねえ君、俺のパーティーに入って一緒にダンジョン踏破しない?
「よし、行くぞ皆!踏ん張れ!もうすぐ援軍が来るはずだ!」
「「「応!!!」」」
銘々にスキルを放つ。
風の刃に炎に雷と様々な属性魔法が目の前に溢れ返る。
朝から何度も繰り返されてきた光景だが、もうこの光景も見納めに近い。
あちこちで『もうだめだ』『MPがない!』『もう打てない!』という声が聞こえてきた。
かくいう俺も今日はかなりケチケチした戦い方をしていたが、もう何発か打てばMPがなくなる。
設置してある地雷はあと2個。
さっきの使者には強がりを言ったが、実際もう無理かもしれん。
今考えりゃ、エルフの国はゲームじゃヨワヨワだったんだけど今は割と戦力整ってるからおかしいなと思ってたんだ。つまりスタンピードにまともな戦力が踏みつぶされてヒィヒィ言ってるところでゲーム開始になったって設定だったんだな。
クソ。そういうの先に言えって!
走馬燈のように今までのことを考えながら魔法を撃つ。
フラフラしてきた。ああ、いよいよ俺もMP切れ間近だ。
アカン。やばい。
「うおおい!」
フラフラしながら片手槍を構えたところに前から1mくらいのゲジゲジが突っ込んできた。
気持ち悪い!とっさに柄でしばき倒したものの、そんなんじゃどうにもならん。
きちんと構え、穂先で突く。突く!
押し返したゲジゲジを横からロッソが突いて止めを刺した。あぶねえ。
「はぁはぁ…ロッソ、助かった。」
「若!もうかなり厳しいですぞ!」
「おれももうむりかも…」
状況は悪い。
城壁の上にはすでに虫さんがいっぱいだ。
さらに、空を飛ぶタイプの虫は城壁を超え、内部に入り込んでいる。
今も城壁の下で矢の補給をしようとしていたおばさんの頭上からトンボが飛来し、頭だけ齧り取っていった。
「だーくそ!ツリーアロー・トルネード!」
眼前に木矢の竜巻が現れる。
今日覚えたてのこのスキルはMP消費もすごい。
残りMPが0になったが、目の前のモンスター群は奇麗に竜巻に拘束されて穴だらけの木だらけになった。
「ああ、もう俺もMP切れだ…」
「若しっかり!槍を持って!」
「ああ…」
倦怠感に苛まれながら槍を持つ。
普段持っている短剣に比べ、リーチを重視した槍は俺の右腕にはあまりにも重く感じられた。
くそう。いくらリーチが長いからっていつもの短剣より槍を選ぶんじゃなかった。
重い。重くて無理。
マヂむり。もうだめぽ
「あー、もうダメかも」
さっき目の前にいたモンスターの群れは木に拘束されているが、また新しく群れが補充されている。キリが無いとはこのことだ。
なるほど。
こうやってスタンピードは人の心を折るのだなと変な感心をしながらヘロヘロと槍を振るう。
もう城壁の上も下も、皆が諦めかけたその時だった。
「援軍だ!援軍が来たぞ!」
その声に驚きながら振り返ると、そこに見えたのは空を飛ぶ飛竜の群れ。
それと地を走る馬の…馬…?違う!あれは!
「ケンタウロスだ!」
「先頭にいるのはバラゴ殿ですな!」
「よっしゃ!間に合った!うおおおおおおお!」
援軍を呼びに行ってもらったバラゴ爺さんは一番前のケンタウロスに乗せてもらってこちらに手を振っている。
あれは移住してきたケンタウロスのリーダーのツヴェルクさんだ。早い!往路だけで1週間くらいかかると思ったのに10日で往復を…!
「若!」
「おっと!」
援軍を見て途端に力がみなぎって来た。
俺の頭に噛り付こうとしてきたトンボを薙ぎ払い、そのまま下の方で矢を運んでいる女性に向かっていた蜂を仕留めた。
「さあ!ここからは俺たちのターンだぞ!」
「「おおおう!」」
援軍を得て元気いっぱいになった俺たちは10日目の防衛を無事に終えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます