第108話 ユグドラシル防衛戦 9日目 午後
昼過ぎになっても攻勢は収まらない。
勿論敵のだ。
午前中にMP切れになってしまった俺だが、昼前にレベルアップして全快になった。
おかげでいい感じで撃ちまくってたらまたMPが心もとない。
足止めの木魔法だけじゃあダメかと思って火魔法も撃つようにしているわけだが。昔よりははるかに威力の高い火魔法を撃てるようになったが、やはり消費MPが多いように感じる。
消費MPが多いのがどういう状態かというと…簡単にいうと疲れやすくテンションがダダ下がりになるのだ。
だからってあの不味い汁を飲む気はあんまり起きないし、そもそも補給を受けてもあと2本しかない。
これじゃ明日から耐えられないんじゃないか。
「ぬおおお!トルネードスピア!」
ロッソがトルネードスピアは槍をグルグル回し、敵を切り払う。
間合いの外の敵もその風圧で切り裂かれるという槍の上級スキルだ。
まあ俺は使えないけど。片手じゃ槍が上手く回せなくて…。
交渉までの往復の間に土木工事をさせようと思って連れて来たロッソは今日も順調に大暴れしている。
心なしかいつもの仕事より楽しそうだ。
防衛の最初の方は石ばっかり投げてたが、今日は途中から槍ばかり使っている。
槍の方が強いスキルも使えるし、ただの薙ぎ払いでも威力は高い。
でもそういう事じゃなくて、槍の間合いにまでモンスターがうじゃうじゃ近寄ってきているって事なんだよなあ。
「うーん、いい加減やばいな…」
「おれもうあのマズイしるはイヤだぞ」
「ポーションは俺も嫌だ。」
どうも紫の汁は軽いトラウマになったみたいだ。
今度は砂糖でもぶち込んでから飲ませようかと思ったが、砂糖は高い。
ウチの領地じゃ寒いからサトウキビなんか取れないし、テンサイ?ビーツ?はどこにあるのかわからん。
つらつらとアカをどう扱うかについて考えていると、『ドオオオオオン!』という大きな音が遠くからした。
驚いてそちらを見ると東門の少し離れたところから火柱が上がっている。
ありゃ地雷を使ったな。
今日あれを見るのは3回目だ。
また貴重な魔石がお亡くなりになってしまった。
金は損するし経験値は入らないしでゲーム的にはクソ効率の悪い倒し方だが、威力は中々素晴らしい。
火柱に巻き込まれて大型モンスターが10匹以上消し飛んだし、脚が取れて動けなくなった個体もある。さらに衝撃波は後ろのモンスターの勢いを止めた。
前のモンスターは爆風でやや加速した感があるが、後ろにスペースが出来たので攻撃を集中できる。
東門の方はこれで2回、中央は1回地雷を使っているわけだ。
こっちもいい加減限界に近い。そろそろぶっ放すか…
「こっちもそろそろ地雷使うか?どう思う?」
「私はまだまだ余裕ですぞ!」
「おれもまだまだだぞ!」
「僕らはもうだめですぅ!」
ロッソとアカは余裕そうだが、エルフの隊員はヘロヘロらしい。
昨日助けたマイヤ、カイヤ、メイヤの3人もだいぶ辛そうだ。もうゲロまずポーションは残ってないらしいし、矢も尽きかけらしい。
しょうがないか。
「アカ!地雷に火噴いて!」
「どこだったっけ?」
「あのへんだよ!」
「うーん??わかんない??」
駄目だこれ。
「良いから俺の指さす方にポイポイ撃ってみて!あそこあそこ!」
「うーん?えい!」
ボウッという音と共に放たれる火球。
ここに来る前よりはるかに大きくなった火球は旗が経ってたところをはるかに通り過ぎた。OBだ。
「あれ?」
「外したんだよ!もっと手前!あの蜘蛛の辺り!」
「こっち?」
「ちがう!もうちょい左!」
「これ?」
「遠くなった!」
「えーもう!ぜんぶもえちゃえ!」
全然狙ってるところと違う場所に打ち込みまくるアカ。
そしてイライラする俺。適当に撃ちまくった火球はどうなるかというと…
ドオオオオオン!ドオオオオン!ドドオオオオオン!
やりやがった。
爆音とともに立ち上がる巨大な火柱。
アカは西側に設置してあった地雷3個を一気に全部起動してしまったのだ。
お前、あれだけの魔石でトマトやキュウリが何箱買えると思ってんの!?
俺がチビチビ苦労して買ってる牛さん豚さんたちが何匹…畜生!
9日目はその後大した問題はなく終わった。
問題があるとすれば盛大に上がる火柱を見て勘違いをした中央の爺さんから援軍が送られてくるし、東の部隊からも問い合わせが来たことくらいだ。
「失敗したなあ」
「魔石は倒したモンスターから回収できます。良いではありませんか」
「良いような悪いような」
ロッソは慰めてくれているが、悪いのはこのへっぽこドラゴンに起爆を頼んだ俺だ。
そのドラゴンさんは虫の肉を貪り喰い、出っ張った腹を上にして寝ている。
虫の肉だが、これが不味いようで意外とうまい。
蜘蛛なんて大体カニなのだ。まあ海の風味が無いからその辺はだいぶ違うけど…
「しかし、ポーションもなくなったし、いよいよヤバいな」
「そうですな。傷だらけの者も増えてきましたな…」
当初は若い男女だけが戦力に選ばれていたが、怪我人も増えて今は正に総力戦だ。
回復魔法は怪我の大きいものから順にかけるので表面のかすり傷やちょっとした浅い傷なんかはそのまま普通に消毒して終わりだ。
消毒はアルコールをぶっかけて布を巻く程度。
最低限の治療だと思うが、馬の糞よりはだいぶマシだ。
もう老若男女問わずに参戦する、せざるを得ない事態になっているが、言うてエルフのお年寄りは肉体は兎も角、魔力はあまり衰えていないからかなりの戦力になる。
後方支援や回復薬にはもってこいなのだが…城壁の上で何時間も立ってたらそれだけできつい。
年寄りは背筋を伸ばして立つだけで疲れる生き物なのだ。
子供のエルフはさすがにただの子供だ。
という訳で子持ちのエルフは自分の子供を後方から避難させ、安全地帯に送ってから帰ってきて防衛しているらしい。まあそこら辺は勿論エルフ以外の種族も同じ感じ。
何やかんやでいま防衛に参加しているのはエルフと他種族が2:1くらいかな。
「援軍まだかなあ。援軍来る前に終わらせちゃうぜ!とか言ってたけどどうも厳しいなこりゃ」
「ポーションもなくなる有様ですからね…他の部隊はどうなのでしょうか」
「爺さんに聞いたけど他所も厳しいみたいだよ」
東も正面も魔術師に配布したMPポーションは無くなり、今日の夕方は魔法使いも投石したり弓を使ったりしていたそうだ。まあ無いよりましだな。
「飯食ったらお片付けの手伝いに行こう」
「ハッ」
西門の前にはまだまだ死骸の山がある。
どれもこれも大型の昆虫で気持ち悪いことこの上ない。
ウゴウゴと動いているのもいて危ないし。
ロッソは大きな荷台に山積みにして運び、俺はアシュレイ袋にホイホイと放り込んで門の中へ。
門の中ではおじいさん連中と避難しなかった中学生ぐらいの子供たちが、解体作業と並行して使える矢や石を集めていた。これも明日の戦いへの貴重な物資だ。
荷運びがだいたい終わったら、俺は折れた矢をまたまっすぐに直す係になる。
樹属性の魔法使いはエルフでも貴重なようで山積みになった折れた矢を直し、それをお手伝いさんたちが運んでくれて、一つの山が消えたら新しい折れた矢の山が出来…を繰り返す。
勿論同じ作業をする知り合いも増えた。すっかり顔なじみだ。
戦い終わって何時間か働いたらやっと睡眠時間だ。
体感では夜の12時くらいか。風呂に入りたいけど風呂も無い。
服はとりあえず着替えるがもう着替えも無い。汗臭いのを我慢して戦うしかない。
まあ寝れるだけマシだ。
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