第107話 ユグドラシル防衛戦 9日目
防衛の準備を整えて9日目を迎えた。
9日目の今日も快晴の防衛日和である。
晴れであることは実にありがたい。
魔物は雨も晴れも大して関係なく攻めてくるが、防衛している人間サイドはそうでも無い。
当然雨の方が疲労し易く、体も冷えて病気になりやすい。
手が滑り、槍や弓矢を取り落としそうになる。
胸壁から落ちるかもしれない。
そこまでいかなくても大事なところで滑って転ぶかも。
などなど、雨のもたらす悪影響は挙げて行けばきりがない。
あんまり暑いと熱中症の危険も出て来るが、エルフの国は割と北の方にあるのかそれほど暑くないのだ。まあ、南半球なら南のの方かもしれんが俺はその辺の調べ方をよく知らないから分からない。まあどうでもいいか。
兎に角、晴れは良い。
アカの火魔法も通りやすいし。
まあ敵モンスターに壁越しに火を使われると乾燥もしているので民家がちょっとやばいが、今のところ火を使ってくるモンスターは出てこない。(フラグ
でも他にも大きなメリットがある。
援軍の移動が早くなるのだ。
だから出来るだけ毎日晴れて欲しい。
快晴であることに越したことはないのだ。
「来ましたぞ」
「さて今日は…ああ、また虫系統かあ」
またしても虫さんだ。
木には虫が多いという事なのだろうか。
ユグドラシルダンジョンから出て来るモンスターは虫系が多い。
子供の頃はカブトムシを平気で触っていたが、大きくなるとちょっと苦手になった。
何でかなと思っていたが、近所の子供曰く『あんなのゴキブリと大差ない』だ。
ある意味納得。
虫嫌いになったからか、出てくるなら獣とか鳥の方が良いと思う。
食べるところも多そうだし、再利用もしやすそうだ。
そう思っていたが、甲虫の甲殻は防具の材料になるし、カマキリの鎌は武器になるし。
割と使い道が多いみたい。
おまけに昆虫の肉も割と食用でイケるって…うへえ。
「カイト様、地雷はどうなされるので?」
「まだ温存しよう。先頭を倒すだけならいつもの方法でいいしね…よし、行くぞ!ツリーアローストーム・ダブル!」
またいつものように先頭集団を狙って拘束し、後続に踏ませる。空高く打ち出した矢は飛んでるハチやトンボもついでに巻き込んだ。ナイス。
そのまま落ちて踏まれる個体もあれば、フラフラと飛ぶ個体もある。まあフラフラしてる奴なんてエルフの弓兵隊からすれば何てことはない。あっと言う間に射落とされてぺったんこの仲間入りだ。
おっ、レベル上がった。
とまあ、最序盤の流れはいつもと同じ。
そこからはごちゃごちゃの総力戦だ。
「アローストーム!アローストーム!ええい!くそ!」
「若!最奥の方が!」
「ロッソ行け!こっちはアカと俺でいい」
「ハッ!」
俺たちの守る西側の最奥は山肌が露出している。
そこを虫たちは登りながら攻めてくるので当然防衛部隊は重点的に配置しているし、丸太や落石なんかの罠も防衛用の兵器もたくさん配置してある。
でも限界はあるのだ。
連日の戦いで罠はほとんど破壊され、バリスタのような防衛兵器も段々と壊れていった。
そしてついに決壊を…迎えさせないためにロッソを送ったわけだが。
「アカ、お前もあっち方面にいっぱい打ち込んで」
「おー!」
アカも火球をバンバン打ち込む。
そう言えば火球の速度も威力もいい感じで上がってきているように感じる。
体も一回り大きくなった気がするし、ドンドン強くなって頼りになるのだ。
ただし、激戦で体の緑色の塗装部分はかなり剥がれてきて、赤い体色がたくさん表に出てきている。
でも周りのエルフは全然気にしてない。さすがにもうみんな薄々分かってんだな。だよな?
「アローストーム!アローストーム!…あれ?」
2発目のアローストームが発動しなかった。
あれ?と思ったらMP切れだ。
やばい。
気が付いたらものすごく気怠い。
「しんど…ゴメンMPきれた。不味いの飲むわ」
「おれも、もううてなくなってきたぞ。つかれた。」
MPポーションは1本飲めばMPを50回復する数字固定の回復薬だ。
ダンジョンでは使うことが多いしスタンピードの時も大活躍だが、味が悪い。
すごく不味い。
HPの方はほとんど緑茶なのにMP回復薬はなぜ紫色でジャ○アンシチューを彷彿とさせる色合いなのか。見た瞬間に食欲が失せる。
「ゴクン…おげえ、まっず!……ええい、アローストーム!…アカ、火!」
「もえろ!…あれ?でない」
「お前もか…これであと1本しかないぞ」
不味い紫色の汁をアカの口にねじ込む。
イヤイヤしてちゃんと飲まないが知ったこっちゃない。
「いや!いらない!」
「はやくのめ!おら!」
「まじゅいいいい!いらないいい!」
「うるせえ!」
「ぼげええええ。ぐえええええ!」
俺は無事にミッション、『子龍に紫汁をねじ込め!』に成功した。
アカは不味い味を払拭するように盛大に火を吐いた。
気のせいか、炎には紫色が少し混じっているように感じる。
う~む、やはりどこの世界でもクスリがキまると素晴らしいな。
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