第105話 ユグドラシル防衛戦 8日目
8日目からは大型モンスターと中型モンスターがメインになっている。
もう小型はあまり出てこない。
出てきているけど踏み潰されているのかもしれないが。
飛行タイプはまだ弱いのしか出てこない。
だから何とかなっているってところはある。
空飛んで来られると城壁はほとんど意味ないからなあ。
師匠とバラゴ爺さんはそろそろ着いただろうか。
大魔王城方面とヴェルケーロ方面だが、両方とも途中まではかなり道はいいはずだ。
バラゴ爺さんの方は途中から山道だが、かなり整地したので順調に進めば昨日今日くらいには着いているはず。爺さんの尻の皮はかなりヤバい事になっていると思うが…
師匠の向かう大魔王城方面はまあ普通にそこそこ道が良いだろう。
あっちは知り合いもいるだろうし、通った町や村で馬を替えることもできると思う。
かなりいい馬を借りたがさすがに人一人をいつまでも一頭で乗せられるものではないからな…こっちは普通に考えたらもう援軍が出発してると思うが。
出来れば飛竜部隊みたいなのを送ってほしい。速くて強いのでオナシャス!
「どうだ、状況は」
「お、爺ちゃん。うーん、俺らはボチボチだけど周りのみんなはだいぶ疲れてるよ」
「そうか…」
俺のフォローに回ってくれているエルフの部隊長、ライルさんもかなり疲れた表情だ。勿論その部下たちも…エルフは基本的にVITが低くて耐久力や持久力に欠けるからな。
まあ俺もか。
だからココで一番数の多いエルフにとってこういう終わりの見えない戦いは一番苦手なはず。
その点で言えば、ウチの領に多い鬼さんや巨人族たちは動きも遅くて遠距離攻撃にあんまり向いてないし、基本的に魔法は下手だけど適当に肉と酒与えとけばいつまでも頑張れる。スタミナと耐久力だけは他に追随を許さないのだ。
ロッソなんてまだ開戦当初と大差ない動きをしてる。
それどころかレベルが上がって喜んでるくらいだ。
アカだって『きょうのひはきのうよりおおきいぞ!』って喜んでる。まだまだ元気いっぱいだ。
俺?俺だってそりゃ喜んでるよ。
レベルは上がりに上がってもう90を過ぎている。
言うて99カンストじゃなくて200でも300でも上がるからまだまだなんだけども。
でもそんなことよりやっぱステの伸びがうれしい。
物凄く伸びないけどそれでもやっぱり低いよりは高い方が良いに決まってる。
「まあ俺らは元気いっぱいだけどね!そっちは!?…うるさいな!アローストーム・ダブル!」
足元で虫がガサガサいってるのがすごーく煩い。
折角の爺ちゃんとの会話が成り立たんほどだ。
そういう時は樹で拘束してアカに丸焼きにしてもらう。
虫は不味いというか気持ち悪いからこんがり焼けても俺は絶対食べないけど。
「がははー!くらえくらえー!」
火球というにはやたら大きい火の玉が口からポイポイと放り出され、城壁の向こう側はあっと言う間に火の海になる。それにしても地を這うタイプの虫ばかりで助かる。
炎もいい感じで燃え広がって臭いキャンプファイアーみたいなもんだ。
でも、もしこれで飛行型がモリモリ出てきたらかなりヤバい事になる。
なんだかんだ言っても上空のモンスターは迎撃が難しいのだ。
そう思っていると。
「ドラゴンフライが来たな」
「」
言わんこっちゃない。
これがフラグってやつだ。飛行型は苦手なんだよな。
地上にいる敵と違って面制圧ってのも難しいし、土があるところじゃないと俺の打つ木矢から枝が伸びて敵を拘束する能力も勢いが悪い。
「ふむ。儂が落とそう…ウインドトルネード・オクタ」
爺ちゃんがトンボのいる方に手をかざし、魔法を放つ。
8つ産まれた竜巻はこちらに向かっていたトンボ型モンスターはもちろん、地上のモンスターも空高く打ち上げ、地面に叩きつけた。すごい威力だ。
「うおお、すげー!」
「フッ…お前も精進しろ。ではな」
爺ちゃんはドヤ顔で去っていった。
カッコイイなチクショウ。
細マッチョイケメンエルフは何やってもカッコイイ。
鼻で笑う感じも実にサマになる。
カッコよくて強くて魔法もすごいのだ。
チクショウ!くやしい!
ジジイのおかげで何とかお昼前の襲撃は防いだが、夕方には飛行型モンスターもドンドンと増えてきた。
飛んでる奴には矢も投石も火球も相性がいまいちだ。
飛行高度が高くて届かないわけではない。
純粋に当たらないのだ。
エルフの魔法部隊の人たちが何とか凌いでくれているが、どう見ても厳しい。
上に注意をすると今度は下からの攻撃に対する対応が遅れてしまう。
そんな時の事だった。
「カチ…キチキチ……ガチガチガチ!」
新たに増えたスズメバチ型のモンスターが城壁の上の兵士を襲う。
「うわあああ!スラッシュ!」
襲われた兵士は何とか手持ち武器で追い払うが、
がぶり。
背後から登ってきたクモに頭から丸かじりにされてしまった。
「くそ!ツリーアロー!ダブルスタブ!」
木矢で牽制して槍で仕留める。
兵と一緒に落ちていくクモを目で追いながら下を見ると、続々と城壁に張り付く昆虫たち。
「おわあああ!アカ!火!!ロッソ!石!!!空は俺がやる!ツリーアロー・ストーム!」
空のスズメバチとトンボに矢の嵐を降らせ、アカとロッソには城壁に群がる虫たちを倒してもらう。
「もえろ!えい!とりゃー!」
「フンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフン!!!」
毎日のレベルアップで昨日よりさらに大きな火を噴くアカと、こちらもレベルアップのおかげかさらに球速を上げ、時折不思議な曲がる球や分裂する球を投げるロッソ。なにあれ?どうなってんだ?
まあロッソは何か投擲系のスキルでも取れたんだろ。そういう事にしとこ。
今それどころじゃねえしな。
「アローストーム・トリプル!アローレイン・クワトロブル!アロートルネード!…はぁはぁ」
あっ、アカン。
フラフラしてきた。魔力切れだこれ。
不味い魔力ポーションを飲む。飲むと余計に喉が渇く不思議な飲み物だ。
味は…青臭い泥?
ドンドン増えるトンボに蜂。
死者は辛うじてさっきの一人だけだが、どんどん増える怪我人、見るからに押されている防衛隊。
やばい。このままじゃ崩れる。
「ええい!もう少しだ!踏ん張れ!」
「「「おう!」」」
周囲を鼓舞する。
俺と同じような表情でクソ不味い魔力ポーションを飲んでいる魔法使いばかり目に入る。
後は城壁の上から槍を突きだす兵たち。
地上に向けて弓や投石を行う者はほとんどいなくなった。
もう槍が届くところまで登られているという事だ。
「ぬおおお!」
ロッソが愛用の槍に持ち替えた。俺が送った朱槍だ。
やっぱ武人と言えば朱槍とか赤揃えだよね~と言いながら試しに作った品。
ゴンゾが親父サイズで作ったので俺にはどうしようもない程大きかったが、思ったより出来が良かったらしいからロッソにあげたのだ。
ロッソは槍を振り回す。
スキルを使うMPはどうも切れているみたいだが、鋼の肉体にはスキルなど必要ない。
カマキリの鎌と首をまとめて切断し、ムカデの足をまとめて叩き切り、ゴキブリは穂先で刺して放り投げる。ゴキブリが落ちた先にいた虫がつぶれた。
うむ、素晴らしいな。
「おっと、危ない」
首を落としたカマキリがまだ動いていたので拘束してそのまま突き落とした。
虫系モンスターは倒したと思った後が厄介だ。
ウゴウゴしているだけでも、元のサイズが大きいのでうっかり傷を負いかねない。
「若、申し訳ない」
「気にすんな。次が来てるぞ」
次、というかその次もそのまた次も来ている。
いくらでもかかってこいこいだ。だが、俺たち3人のいるところはそれほど問題ないが、すぐ近くの区画でもかなりピンチになってきている。そう思っていると、
「キシャアアア!」
「うわあああ!」
「壁を越えてきたぞ!ふせげええ!」
「やべ。あっちフォローしてくる!」
50mくらい離れたところで虫が1匹壁を越え、3人兵隊さんと押し合いになっている。
今のところ押し負けてはいないがすぐ下に別の個体が。
そう思いながら走っているが、到底間に合いそうにない。
次の個体が上がって来た。
カマキリのモンスターが3人のうちの一人を頭から齧りつこうとしている。あぶない!
(矢じゃダメか!)
今のあの位置から木矢で拘束してもそのまま体を伸ばしてガブリだ。
レベルも散々上がった。
火魔法の訓練も積んでいる。
それに、アシュレイを見送ってから火魔法の適正は上がっている…今こそ火の魔法を使う時だ
「アシュレイ、俺に力を…フレア・ミサイル!」
火魔法、バレット系の上位であるミサイルを使う。着弾で吹っ飛ばすためだ。
狙うのは当然頭部。
的は小さいが、ミサイルなので追尾性能がある。ちゃんと発動すれば問題ない。
アシュレイに力を借りる気持ちで放った『
「よしっ!後は…ツリーアローストーム・ダブル!」
後は登ってくる虫たちとそのさらに下にいる虫に対して木矢で拘束する。
そして、
「アカ!火!」
「まかせろ!がおー!」
いつもの火球ではなく、火炎放射器のように『ボオオオオオオ』と長い火を噴く。
拘束していた木に良く燃え移り、拘束された沢山の虫たちを火あぶりにした。
「ナイス!」
「でへへ…」
ぐっじょぶなアカをなでくり回す。
いやあ、俺らもしかして相性抜群じゃね!?
木+火がこんなに相性いいとは。
……ああ、俺はアシュレイとも相性抜群だったんだ。
そうだったんだな…
一つの事実に気づき、上がったテンションが一気に下がってしまった。
はあ…。
「まだきてるぞ!ぼーっとするな!」
「あー…分かってるよ」
城壁の上をあっちに行ったりこっちに行ったり。
俺が拘束してアカが火を噴いて、流れが分かってしまえばあとは何とかなる。
そうこうしているうちにまた夕方になり、波は去っていった。
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