第102話 迫る影

ユグドラシルダンジョンは独立型ダンジョンだ。


この世界のダンジョンと言えば久遠の塔である。

世界各地に久遠の塔に繋がるゲートがあり、ダンジョン攻略と言えば久遠の塔攻略を指すことが多い。


だが、久遠の塔とはまた別のダンジョン群もある。

それが独立型ダンジョンである。


独立型ダンジョンは複数あり、俺の領地であるヴェルケーロにも同様のダンジョンがある。

将来的に久遠の塔80層ソロクリアが目標だが、独立型ダンジョンを制覇するとそれはそれでいい装備も貰えるし、経験値も良いらしい。


お金と経験値を稼ぐには独立型ダンジョンなのだ。

だからそのうちクリアしてやってもいい(謎の上から目線



だがまあ、独立型ダンジョンではスタンピードが起こることがある。

スタンピードの際にはダンジョン特有のモンスターが多く現れ、通常より強化されている。

つまり強くて、多い。ヤな感じだ。


でもスタンピードであふれたモンスターは何故か死んでも消えない。

ダンジョン内だと倒しても魔石になるだけなのに外に出てきたら消えないのだ。

つまり魔石だけじゃなくって素材も落とす。

数が多くて経験値も稼げるしお金も稼げる。

めっちゃええやんけ。



これがレベルも上がって軍勢も揃っているなら『強いのがいっぱい来たらレベル上げ祭りだ!』と張り切るところだけど、俺個人も弱いしこの国の戦力もどうなんだろって状況ではなあ。


城壁からは土煙が見える。

どうもかなりのモンスターの群れがこちらへ向かってきているようだ。


モンスターはユグドラシルの樹の根元にある『ユグドラシルダンジョン』から出てきている。

もうすぐ足元にまで来る。思ったより早い。


避難は割と順調のようで、ユグドラシルダンジョンの有る城壁の正門の方からはどんどん人が流れ込み、そのまままっすぐ進んで裏門から避難している。

話を聞くと避難訓練を定期的に行っていたようであり、中々に動きはスムーズだ。


さて、俺はどうするか。

とりあえず、援軍要請をしよう。

そうしよう。


「バラゴ爺さん、悪いけど今からヴェルケーロに戻って援軍かき集めてきてほしい。」

「それは良いですが間に合いますか?」

「間に合うかと言われれば…アカンかもな。でもまあないよりマシだろ?」


ここユグドラシルからウチの領地ヴェルケーロ領まで行って帰って大体1か月近くかかる。

スタンピードは長い時は何か月も続くとはいえ、下手すりゃ終わってる事もあるけどどうだろうか。

『終わってる』がモンスターを討伐し、平和的に終わるか…街が壊滅して終わるかは置いといて。


でもまあ、こんなレベル上げイベントに自分の所の戦力を参加させないでいるアホがいるだろうか。

いや居ない(反語


まあそれに何より、道中の村にも危険を知らせる必要もあるし。

避難指示はやらないよりはやった方が良いに決まってる。


「バラゴ爺さん馬は乗れるよな?」

「乗れますじゃ。これでも昔は軍属でしたからのう。」

「じゃあ王様に頼んでいい馬を借りよう。伝令って事にしてできるだけ走ってくれ。俺は今から王様に面会してくるから。旅の準備しといてくれ」

「はいですじゃ。」


城壁には王様の姿が見えている。

何やら忙しそうだが、伝令のためと言えば馬くらい貸してくれるだろ。


「爺ちゃん、ウチの領と魔王様の領に伝令出すから馬貸してくんない?」

「何を言い出すやら。到底間に合わんのではないか?」

「駄目なら駄目でいい。とりあえず馬を2頭お願いしたい。どうせ防衛なら馬はあんまり使わないでしょ?」

「…良かろう。今ならまだ裏門から出られる。ウチの者も付ける。領内の伝令に使うのでな」

「お願い。10分後くらいでいいかな」

「ああ…聞いていたな。伝令の準備を」

「ハッ!」


俺は俺でお手紙を書く。

一方はマークス宛てに。もう一方は大魔王様宛にだ。

マークス宛ての方は稼ぎどころだから、足の速そうなの送って!って。

大魔王様宛にはスタンピードだってお。お手伝い部隊送ってあげてね。って内容で。


「じゃあバラゴ爺さん。お願いします」

「はいですじゃ。命に代えましてもお届けしますじゃ。」

「命には代えなくていいよ。そこそこ頑張るくらいにして」

「ははあっ」

「じゃあこっちは師匠お願いね」

「わ、私か!?」


当然、この流れなら大魔王様の方は師匠に行ってもらう事になる。

俺の方ではそう思っていたのであるが、師匠の方は正に寝耳に水という驚き方だ。


「師匠以外に誰が伝令に行くんです。俺ですか?」

「ロッソ殿がいるじゃないか!」

「ロッソは大魔王様に会ったことないです。それにデカいから馬にも乗れないし足も遅い。…マークスがいれば頼んだかもしれませんが、ここは師匠しかいません。頑張って足の速いの連れてきてください。出来れば飛んでってほしい」

「すまんが今は飛べないのだ。その、装備を修理に出していてな…」


ぐぬぬ。

肝心な時にこのポンコツは…!


「そうなんですか…じゃあ馬でお願いします。なるはやで」

「私もレベル上げを」

「お願いします、ね!」

「そんなぁ…トホホ」


師匠は80年代の漫画のようなセリフを残してトボトボと用意し、バラゴ爺さんと一緒に出て行った。

なかなかいい馬を貸してもらったようで、ゴブリンのバラゴ爺さんは荷としても軽いからホイホイ進めそうだ。


さあ、こっちは迎撃の準備だ!




迎撃の準備だ!と言ってみたものの特にすることはない。

あえて言うならば城壁の打ちやすそうなところから矢をポイポイ撃つ係になる事だ。


ゲームでは、通常は自分の所属するパーティーが倒した経験値はパーティーメンバーに均等に配分される。

スタンピードの場合は自分の支配下の軍勢が倒した敵の経験値が配分されるのだが、それが均等だったかどうかは覚えてない。何せ1周のプレイの間にスタンピードにあったのは2回しかなかったのだ。


まあ、全く同じ仕様だって事はないだろし、ヤレるだけヤルのみよ!


先頭はスライムや蝙蝠、それに小さな虫などだ。

これは低層のモンスターがほとんどだってことだな。

群れの中に中層以降に出現する大型モンスターたちはまだ見えない。

こりゃまだ余裕だな。


…と思って余裕ぶっこいてると段々厳しくなって決壊するってパターンだろう。

気を引き締めてかからなければならない。


「あれくらいよゆうだぞ!がははは~!」

「雑魚ばかりですな!ガッハッハ!」


アカとロッソは謎の高笑いをしている。

…ダメだこりゃ。

誰だ脳筋ばっかり残した奴は!

俺だよ俺!俺俺!


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