第101話 対二日酔い魔法
宴会場はエルフの皆さんと現地に住んでる魔族と人族でいっぱいだ。
というか、おれを歓迎するための宴会、というよりは普通にお祭りみたいだ。
お城の中だけじゃなくって外でも盛り上がっているらしい。
何やら盛り上がりの中にやたらとやる気のありそうな声も聞こえるが、エルフの習わしなのだろうか。
鬼族のようなヤケクソ気味な飲み方である。どうなんだアレは?
お祝いに花を添えるというか。
出されたお酒の中のかなり高い割合でうちの領で作られた酒がある。
試しに作ってみた、蒸留を繰り返して、火をつけると燃えるほどになった酒をロッソが飲む。
俺が舐めた感じだと只々きついだけの酒だが、そこに独自の工夫をして飲むのが良いらしい。
さらに火をつけて飲むという宴会芸を教えたらあっさりとマスターして、今ではその高級な酒を飲みまくるようになってしまったのだ。
ロッソは酒を正に浴びるように飲む。
普通の酒を何倍にも濃縮して…何倍にも値段が上がっている酒をだ。
で、肝心の味については全部『うまい!』だ。何の参考にもならん。
「ロッソ、エルフの酒はどれがうまい?」
「全部です!ガハハ!」
いつもこうだ。
俺が持参した酒とエルフ側の酒と両方を飲み比べさせていい物を作る技術を盗んで帰ろう。
そう思ってどれがうまいか聞いてみたんだが…人選が悪かったな。
だが、火を噴いたり、火のついた酒を飲むという宴会芸の方はなかなか好評だったみたい。
エルフの中のチャレンジャーが何人か挑戦している。
きつい酒をわざわざ火をつけて飲むのだ。
止めとけよ。
絶対健康に良くないぞ?食道も爛れるだろうしロクな事ないぞ?…と思うけど酒飲みは知ったこっちゃない。
酒が体に悪い位子供でも知ってる。
知ってるけど飲むのだ。
まあ好きにすればいいさ。
「どのくらいで買ってくれる?」
「そうですな。このワインはこれくらい…蒸留酒はこれくらい…あの燃えるお酒はこれくらいで…」
「あー、じゃあついでにこっちも…それと俺らは牛と馬と…」
「よろしいですな。それでは…」
現地の商人と商談もする。
こっちに運べば輸送費込みでこれくらい。
買い付けに来るならこれくらい…って感じで値段を大体設定。
この酒に対してこの値段。ってのが相場的に高いのか安いのかは正直よくわかんねえ。けど、麦や蕎麦の原材料から考えればとんでもなく高いことだけは分かる。
やっぱり儲けるには加工品を作ってナンボだよなあ。
「こっちに来る道もある程度作ったからさ、時々行商に来てくれよ」
「では帰りにご一緒させてもらっても良いでしょうか」
「もちろん。珍しい物はウチも大歓迎だ」
話の流れでエルフの商人とそこに来てた人族の商人も帰り道に同行することになった。
めでたしめでたし。
「なんだ、残らんのか?」
「王位の話ですか?俺も一応あっちで責任ある立場ですから。」
「ふーむ。ならば仕方なし。帰るなら早く帰れ」
「はあ。」
「邪魔だという意味ではない。
「ほー」
良い事聞いた。
ゲームではスタンピードは良い稼ぎ場だ。
ダンジョンは久遠の塔に繋がっているのがほとんどだが、中には何ヵ所か全く独立したダンジョンもある。
ウチの領にもあるが、ユグドラシルにあるダンジョンも独立したダンジョンだったようだ。
んで、その独立した何ヵ所かは定期的にお掃除をしないとだんだん溜まった
それがモンスター・スタンピードだ。
ダンジョンの中にこんなにモンスター居たっけ?ってくらいの量が溢れ、せっかく開発した都市がめちゃくちゃになる。まあ、他国で起こった分には兵力が減って侵攻するいい機会になったりする。
災害で困っている相手を攻める。
何て外道だ!なーんて思う奴はゲームじゃいない。現実はどうだろな。
でまあ。自国の場合は武将を、兵を集めて防衛する。
同盟軍からも援軍を呼ぶ事も出来る。
何がおいしいかというと討伐に参加させた武将には経験値が入って育成ができるのだ。
というかかなり育成が捗るイベントだったのだ。
チッ、おしい事した。
もっと戦いに適した人材を連れて来るべきだった。
ベロザとかそうだ。
動きは重くて遅いが、パワーはある。盾役なんかには良いだろう。
探索だと足も遅いが、防衛ならアッチから来てくれる。言うことないんだが…。
まあロッソと師匠はその点育成には文句なしだが、うーん。この二人今更育成か…感はある。もっとレベル低そうなの連れて来たかったんだよなあ。適当に石投げるだけでレベル上がりそうなの。
レベルは低そうだけどバラゴ爺さんはなあ…
だがまあ、それはそれ。これはこれ。
稼げるときはしっかり稼ぐ。そうしないとどうにもならんわ
「スタンピードがあるならば残ります。俺も一応王族ですから、責任は果たします」
「ほう。良い心がけだ。」
爺ちゃんはこの後、幾分機嫌がよさそうになり。
酒もハイペースに進んだ。こんなに飲んで大丈夫かな?
次の日、王城に泊まった俺たちは何やらバタバタする音で目が覚めた。
「どうしたんだろ?」
「坊ちゃんお目覚めで…ああ、頭が痛い」
「こっち来いロッソ…ヒール!」
二日酔いを治すには体内に残って未だ分解されていないアセトアルデヒドを分解すればよい。
体内にアルコールを摂取すると、まず消化器官から吸収されたアルコールが血管内に入り、心臓から全身へ送られる。
脳へ送られるアルコールによっていわゆる『酔う』ことになるわけだが、残りは全身を回り、肝臓で代謝されたぶんを除いて再びアルコールとして全身を回る。
一方で代謝の方だが、肝臓でアルコールを分解してアセトアルデヒドへと変え、そしてアセトアルデヒドはさらに分解されて酢酸へと変わり、排出されるわけだが。
このアセトアルデヒドが残っているといわゆる二日酔いとなるわけで。
たくさんアルコールを摂取すると当然代謝に時間がかかって分解は遅れ、二日酔いになりやすくなる。
という訳で俺はヒールによってアセトアルデヒドを無理やり代謝させて放り出すの術を覚えた。
このヒールという呪文は唱える時に念じる内容によって効果が変わる、とんでもない魔法なのだ。
アシュレイ蘇らせたら俺医者になって食って行こうかな。歯医者でもいい。
二日酔い専門の医者とかも…とか思ってたらロッソが復活した
「大変です!スタンピードが!」
「昨日も来るって言ってたじゃん。対策してあるだろ?」
「ですが王様が動けなくなって混乱してます!」
「ええ…爺ちゃん何やってんだ」
「二日酔いですよ!!」
…何やってんだあのジジイ。
いい年なんだから自分の飲む量くらい把握しておけよ。
仕方ないからジジイの所へ。
『いたたた』『このような時に…』『なんという事…これは魔王軍の仕業か』『いや、卑怯な人族の仕業かも…』『おのれ卑劣な…』
玉座の間にはオッサンどものうめき声が聞こえる。
それと奥様方の怒りの声も聞こえてくるが。
「何言ってんだよ。ただの二日酔いだろ!飲み過ぎだ!ヒール!ヒール!ヒール!」
当たり構わずヒールをかけてアセトアルデヒドを中和していく。
すぐにおしっこをしたくなるし喉が渇くだろうけどまあソレはいいか。
「治った?スタンピードきてるって聞いたよ!みんなシャキッと動く!」
「おお!」
「さすがは若!」
「王よ!いい跡継ぎを得ましたな!」
俺はエルフの王族なんか継がねえって言ってんのに何言ってんだコイツら
「カイトよご苦労。皆、決められた配置につけ!」
「「応!!」」
武将たちは我先にと外に飛び出していく。トイレは大丈夫か?
ユグドラシル王国の武将はエルフばっかりかと思うとまあそうでもなく、魔族も人族もいっぱいまざってるようだ。
閉鎖的なエルフじゃなくてよかった。
エルフばっかりだと弓兵だけやたら多い変な部隊ばっかりになりそうだからな。
さあ、俺も城壁まで急ごう。
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