第100話 俺色に染めてやんよ
「ところで、若君はこちらで暮らすことになされるのですかな。現在、若君が継承権一位でございますぞ。」
「んん?俺が継承権一位?ですか???」
ムキムキと細マッチョと、どちらが良いか。
脳内でムキムキ悪魔鬼と細マッチョイケメンエルフが喧嘩をしていた。
無事細マッチョイケメンが勝った所で、王様から少し下がった所にいるお爺さんエルフが話しかけてくる。ラム爺と呼ばれていた枯れ木のようなエルフだ。
大臣か相談役か何かだろうか?
そして俺が一位だと。ふむ?
…まあそこは惚けなくても良い。どう考えても王位継承権の事だ。
でも俺の母ちゃんは家を勘当に近い扱いで出たって聞いたような。
それに伯母上のところにはアシュレイはいないけど妹のアフェリスがいる。
他にも爺ちゃんは子供がいるだろうし。何で俺が一位?
「む?帰ってくるつもりでは無かったのか?」
「はあ。あくまで我が領であるヴェルケーロとの交易の申し込みと、街道を整備したいとそれだけのつもりでした。母は勘当に近い扱いだったって聞いてますし」
「勘当などした覚えはないがな…それにしてもヴェルケーロ?どこだ?」
「魔王領の東にある村です」
「リヒタールはどうした?」
「その…ウチの親父が暗殺されて、色々あって転封されました」
「むう。我が孫を訳の分からんところに飛ばすとは…大魔王め…」
「訳の分からんって…まあド田舎ですけど…(ボソボソ」
ヴェルケーロは最初は㌧でもねえド田舎だと思ったし今もかなり酷い田舎だが、頑張って開発しているからそれなりに愛着がある。
それを悪く言われてもさあ。
爺さんはちょっとイライラっとした表情だが、俺にはまあどうしようもない。
でも大魔王様は悪い人じゃない…たぶん。
俺には色々と優遇してくれているような…?
ん?あれ?ホントにそうか??
まあとりあえず喧嘩しないでほしい。
その配下までは知らんけど。
「まあいい。ところでそこのドラゴンはお前の従魔か?」
「そうです。ご挨拶して」
「うん。アカだぞ!よろしく!」
アカの頭を掴んで軽く下げさせ、挨拶を促す。
ちょっと抵抗しながらもぺこりとするアカ。かしこいぞ!
「レッドドラゴンはここではあまり受けが良くない。我が緑に染め上げてやろう」
「えっ!?」
「おれみどり?」
「そうだ。春の新芽のような色にしてやろう。それ!」
爺さんが手をかざすと、そこから何やら魔法が放たれ…俺とアカの周りに葉っぱが舞う。
周りからは『おおー!』なんて歓声が聞こえてくるが、葉っぱの竜巻の中にいる方はたまったもんじゃない。
「うえっ!げほっ!カイトたしゅけて!」
「わっぷ!これは酷い!青くっさ!ヴォエ!」
「いたた!ひりひりする!おまけにくさい!」
「何だこの汁!
一人と一匹、大騒ぎしているとやっと緑の台風が終わった。
賢くしてたのに何でこんな目に!ウエッ!ぺっぺ!
そう思って横を見たらアカは草の汁っぽいので緑色に。
うーん、緑ドラゴンに見えなくもないが…
「カイト!みどり!」
「何言ってんだ。緑はお前だろ…ってまさか!」
アシュレイの鞄をあさる。
あいつも女の子だったようで辛うじて鏡はあった。化粧道具なんかは無いが。
「ほげ!」
鏡に映ったのは緑色の髪に緑色の顔をした俺だ。ちなみに服も全部緑。
俺は爺ちゃんに緑色に染め上げられてしまったのだ。
なんだこれ…ふざけんなよジジイ…
「『俺色に染めてやんよ!』の効果はどうだ?以前の勇者が使っていた魔法を復刻させたのだ。その時は金色だったらしいがな」
「こ……こんなクソ魔法は初めて見ました(プルプル」
「そうだろう。やはり異界の勇者はおかしい。」
「それで…何で俺たちに…このクソ魔法を使ったのですか…?」
ブルブルと怒りを抑えて話す。
いくら王様でお爺ちゃんだからって緑のペンキぶちまけられたら俺だってブチ切れるよ。
返答次第で『お前の顔、鼻血で染め上げんぞ!?』ってなモンだ。
「赤龍はわが国では縁起が悪い。次から入国する前に緑に染めてくるように」
「え?」
「いやだー!」
「立ち寄った村から赤い龍が来たと知らせを受けている。これは不味いと思ったから俺が出迎えたのだ。そのくらいの事だ」
「ああ、はい。」
いくら孫を迎えに来たからっておかしいとは思った。
道中の村で笑顔の間にチラチラとおかしな視線を感じていたが、どうも赤龍というのはよほど不味いらしい。
「エルザ。後でコイツに史書を渡すように」
「ハッ」
「それで…交易だったな。お前の所はどういうものを出せるのだ?」
「あ、お土産に持ってきてます。これとこれと…」
売り物に出来そうな土産物をいくらか持ってきた。
麻布の良くできたのと、それを染料で染めたもの。
それからお酒。
お酒はワインとウィスキーと…ホップを発見して完成したビールと。後は焼酎をもってきた。
蒸留装置はあっさりと出来たんだけど、量がない。
器具や燃料の問題はない。
それは酒飲みたちが勝手に増やしたのだ。
そもそもの酒の量がまだ無いのに、さらに蒸留して総量が減るわけだ。
ロスなく100%蒸留できればアルコール分は変わらないはずなので、アルコール量ではない。見た目の酒の量が減る。だから少ない。
まあソレはしょうがないかと思っていたら、出来た端からちゃんとできているかチェックすると言って飲むアホがいるのだ。
飲んだアホの分は日給無しにしたので、上機嫌で酔っ払って帰った所で母ちゃんにめちゃくちゃ怒られたらしいが。
「これがワインでこれは蒸留酒で、これが…」
「分かった。酒は今夜宴会で出してもらおう。布は…麻か?良くできているな。」
「布工場を作ってあります。もっと増産しようと思っていますが…そう言えば蚕を知りませんか?蛾の幼虫で蛹になるときに糸を出して繭を作る生き物なのですが」
「蚕だと…」
蚕知らないって聞いた瞬間にザワザワとする室内。
それまではフレンドリーな雰囲気だったのに…?
「それはお前の母から聞いたのか?」
「いえ、母上の記憶はありませんので。」
「ならばどこで…まあいい。蚕はいる。」
「おおっ!」
「だが駄目だ。蚕と絹は我が国の機密事項よ。持ち出しは許さん」
「おお…」
「蚕がそんなに欲しければお前が王になればよい。そうだな、そうしよう。むしろそうしろ。うん、良いな」
「えー?でもそれはちょっと。」
「不満か?ふむ。まあ良い。ではまた夜に」
爺さんはさっと去っていった。どうも忙しいみたいだな。
そういや心なしかみんなバタバタしている。何があるんだろうか。まあ、また夜に教えてもらおう。
この後俺はエルザさんという美人のお姉さんエルフに連れられて図書館へ。
ユグドラシル王国の歴史書を見せてもらった。
大体魔界にある文書で知っているような内容だったが、そのもっと昔の内容もあった。
その本によると、はるか遠くから現れた恐ろしい赤龍がユグドラシルの町と世界樹を一度燃やしてしまったらしい。
そういやそんな話有ったっけ。
昔、アークトゥルス城で大量に読んだ本の中にあった。
まあしかし、あのドラゴンは最終的にお姫様にテイムされてお供になったはず。お供になったならいいんじゃねえかと思うんだけど。
まあ、それ以後赤龍は好ましい物とは思われていないようだ。
「そういわれてもアカとは関係ないのにな」
「そうだぞ!ひどいぞ!」
「まあでも多分ちょくちょく来ないといけないからお前お留守番か緑に塗るかしような」
「カイト!なんてこと!ひどい!おれはあかにぷらいどがあるのに!」
「そんなプライド捨てちまえよ。俺色に染めてやろうか?(ニチャア」
「やだ!きもちわるい!」
赤色にプライドがあっても特に意味ないだろと思うが。
赤いからって3倍で動けるとでも言いたいのかと。
しかしまあ、忌み嫌われてるってのはわかった。
緑色になってから図書館に来るまでは今までの変な視線も感じなかったし、しばらくアカにはこのままでいてもらおうか。
まあ俺はすぐに洗い落とすけど。
夜、宴会になった。
勿論俺は宴会の前に風呂で奇麗さっぱり緑を落とした。アカはそのままだけど。名前もミドリちゃんに変更しよっかな?
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