第98話 ユグドラシル珍道中
アーク歴1499年 捌の月
ヴェルケーロ領
ダンジョンがあれば、そこにはモンスターがいる。
だが、ダンジョンの無いところであっても人の住む領域から出ればそこはモンスターの住む世界だ。
モンスター、魔物、魔獣と色々な呼び方があるが、それらと普通の動物との区別は出来ない。
この世界では皆すべからく心臓の横に魔石と呼ばれる石があり、そこに魔力を蓄えるのだ。
例えばそこらの道行くニンゲンさんも、露店をしているオークのおばちゃんも魔石持ちである。
モンスターを倒すとため込んだ魔力が倒した者に分配されて魔石に魔力が蓄積される。
これが経験値であり、その蓄積した魔力が一定量を超えると起こるのがレベルアップだ。
ってのがこっちの世界での常識。
俺はもう、そんなどうでもいい理屈は気にしない。『敵を倒せばお金と経験値になる』はゲームに馴染んだ世代ならもう何も考えなくても受け入れられる事実だ。
唯一の欠点は倒すとお金がちゃりーんの経験値が○○ポイント手に入れた!にならないところくらいか。
「でも剥ぎ取りはコレはコレでアリだよね。」
「何の話だ?」
「にく!にくくれ!」
そんな訳で俺はアカと師匠とそれと護衛のロッソ、道案内のバラゴ爺さんを連れてユグドラシル王国に向かっている。
今はこちらの暦で捌の月。
夏野菜の収穫も盛りを過ぎ、小麦の収穫作業ももう終わったという時期なのだ。
水車も作ったので小麦粉を作るのは以前よりずいぶん楽だろうし、本格的に秋が来て冬が来る前にユグドラシル王国に行ってしまおう。
というわけで夏の盛りを過ぎたこの時期に出発した。
そして今、道中に遭遇してロッソがあっさり倒した熊のモンスターを解体中だ。
この熊はみたことがある。昔アシュレイが倒した熊の大きい版だな。
まあこの位、今なら俺でも余裕…だよな?
「頑張れば何とかなるでしょう」
「頑張らなきゃダメか?」
「若の攻撃は決め手に欠けますので…時間がかかるかと」
ほーん。
ロッソちゃんは槍で一撃だったんだけどね…
まあそこは気にしないでおこう。
むしろ気にしてはいけないのかも。
案内に連れて来たバラゴ爺さんは
昔は時々ユグドラシルの方まで遠征していたんだと。
途中からは道があるから、そこら辺まで行って大魔王城の方に戻って。
って感じでぐるっと回って獲物を狩って、それを売って村の生活に必要なものを買って帰って…ってルートだったらしい。
猟というより行商のようなものだ。
でもまあおかげで大体の道が分かる。大体の…
「あの崖を見ながら歩くと川がありますのじゃ」
「ほうほう。」
「川を超えると左手に大きな山がありましてな。それを迂回していくと今度は正面に1000年は軽く超えようかと言う古木があります。古木を回り込むと大岩が…」
こんな感じのざーっくりとしたガイドだ。
まあしょうがない。高度が高く、平均気温が低いからジャングルと言うほどではない。
だからと言って森が開けているわけでもなく。立木が無いわけでもない。
というわけで前も左右もまあ木と土しかない。
目印も山や川はまあいいが、巨木や大岩なんていつ無くなっててもおかしくないのも混じってる。
頼りないガイドだが、まあいないよりまし。いないよりは…
というわけで通り道の木を俺がズボズボ引っこ抜いて、ロッソと師匠がでかいハンマーとシャベルで地面を整地しながら進む。
音はあんまり立ててないと思いたいが、地面をバンバンドンドンしたり掘ったり埋めたりするのでそれなりに派手な行進になる。なのでモンスターもボチボチ現れる。
それを主にロッソが、たまに暇を持て余した師匠が狩る。
俺?俺は木を引っこ抜いて枝をきれいにしてまっすぐに整えて道の脇にガードレールのように並べるという作業が忙しい。
道が合ってたら…合ってることを祈るが。
もし正解ルートなら出来るだけ整地しておけば次回からはこの爺さん抜きで来れるようになるのだ。
別にジジイが邪魔って訳じゃない。
でも昔話を延々と壊れたレコードのように繰り返すのがちょっとな。
…ぶっちゃけかなりうるさい。
このジジイのせいでモンスターが寄ってくるんじゃないか。
「今度はイノシシですな」
「おれ!おれがやる!」
「傷あんまりつけんなよ」
「おー!」
皮はいくらあっても良いですからね。
毛皮を冬物の服にするもよいし、敷物にしてもいい。
ノミやダニが酷そうだからそっちの処理をしてからになるが。
寄生虫と言えば当然だが内臓や肉の中も怪しい。だからじっくり火を通したい。
「なまのほうがジューシーだぞ」
「俺は寄生虫が感染ったペットを連れ回すのは嫌だぞ」
「私も嫌だな」
「自分も生は控えるであります…」
ロッソも生食派だったみたいだ。
大人は色んな生が好きだからね。しょうがないね。
でも色々危ないからちゃんとしないとね。
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