ユグドラシル道中記

第97話 隣国ユグドラシルへ

アーク歴1499年 捌の月


ヴェルケーロ領



昨日師匠がダンジョンから帰って来た。


ダンジョンが楽しかったみたいでニコニコしていた。

何よりである。


1000万くらい稼いできてちょ!ってお願いしていたが、短期間で5000万以上のお金を稼いできてくれた。これで冬を越そう…じゃなくって。このお金をモリモリ投資して儲けよう。


投資は重要だ。投資とはギャンブルではなく、将来のために資金を投入する事。

今有る金を食いつぶしてしまったらそれでおしまい。そりゃ只の浪費だ。


金で金をどうやって増やす、産み出すかを考えねば…

そう思って頑張っても失敗して有り金全部失う事にもなる可能性はあるけど。




まずは予定通りに牛と馬。そして羊も飼おう。

幸いなことに平地がなくて山ばっかりな地形だ。放牧するにはいくらでも土地はある。

まあこれは、まーったく『幸いなこと』じゃなければ、勿論丁度いいって訳でもない。



だって平地でも牛馬は何の問題もなく飼えるんだもん。

畑だって田んぼだって、街だって何でも作れる。

山じゃそう簡単にいかないから仕方なく放牧でもするかって話だ。


本当なら米や麦をワッサワッサ作って日本酒や麦焼酎やら加工品を作って儲けたいんだ、俺は。

まあ無い物ねだりをしてもしょうがない。

新領の方でそれは頑張ろう。


「牛と馬、それに羊を飼おう。牛は牛乳が欲しいから乳の出が良い種類が良い。そういう品種…分かる?」

「私は何とも。マリア殿は?」

「ユグドラシル王国の牛は乳の出が良いと聞いたことがありますが。しかし連れて来るのはいかにも遠いですよ」

「だよなあ…」


俺はまだ一回も行ってないが、母方の祖父が国王をしているらしいユグドラシル王国は俺の領地と隣接している。隣接はしているが行き来はほとんどない。

まーったく人が住んでいない山を掻き分けて15日くらいかかると聞いた。

もう一本の正規ルートは、一度大魔王様の所に行ってそっちから山を迂回して…こっちは20日くらいかかるってよ。


山を掻き分けて15日だから、道が整備出来ればそれほど遠距離じゃないのかもしれない。うーむ。

しかし、人間だけで15日かかる所を帰りは牛を連れて…うーむ。


「15日…ウーン…あちらから買い付けるか…いや、いっそユグドラシルの方へ道を付ければどうだろう。貿易も出来るし、援軍も呼びやすいと思うのだが」

「援軍が敵軍になる可能性もありますがな」

「それは…無いと思うがなあ。一度挨拶に行くべきかな」

「そうですな。どちらにしろそれが良いでしょう。手土産は何にいたしましょうか」

「そりゃうちの領特産の…野菜はダメだな。そういや酒はどうなった」


生野菜を15日もかけて輸送したらそりゃ大抵何でも駄目になる。

勿論加工してない肉類もだ。

腐ってどうしようもなくなって…運ぶ途中で投げ捨てることになるだろう。

熟成肉だ!と言い張ってもいいがどうか。


熟成って大体どうやってさせるんだ?塩漬けとはまた違うよな??

現代に居た頃、ゆーちゅ~ぶで熟成肉を食べるところを見たことがあるが、アレは素人がやってはいけない種類の物だろう。明らかにマズい色をしているのだ。

外側きって芯だけ食べればいいって言われても…あれをよく食べる気になるなあと思ったモノだ。


いっそ罪人に食わせて実験するという方法もあるが、そういやまだ死刑になるほどの罪人を見たことがない。酔っぱらって喧嘩したくらいで死ぬかもしれないようなものを食べさせられない。ダメだ。


肉や野菜は諦めるとして。

お酒はやや重い事を除けば特に問題ない。


大昔の航海では水も悪くなるのでわざわざ葡萄酒の樽を積んでいたくらいだ。

ウチでは酒はベロザが主体になって作っていたはずだ。どうだろか。


「やっぱ酒かな?出来はどうなんだ?」

「よろしいと思います。酒は蕎麦と麦から作った物が出来ております。透き通る奇麗なお酒ですな」

「味はどうだ?」

「私の感想で良ければなかなか良いかと…リヒタールで作っていたものと大差ないか、それより上です」

「ほう。じゃあ土産物はそれでいいか。」

「ただ、重いですぞ」

「そうだな…まあ俺が一緒に行くなら問題なかろう。アシュレイの鞄があるからな」

「そうですな。ですが交易の度に若が出かけるのは問題ですぞ」

「だなあ」


交易の話はまた今度考えよう。

道が良くなればもっと早いだろうし。




こっちに来て1年目の収穫で得られた蕎麦と麦からさっさと酒造りは始まっていた。リヒタールでも酒を作っていた経験から、ヴェルケーロの村の若い衆と一緒に飲んべえ連中は昼は畑仕事に土木仕事、夜は酒造りと頑張ったらしい。


完全な時間外労働だと思うが、本人たちが望んで趣味の酒造りをしているのだから仕方ない。

俺は強制してない。こいつらが勝手に仕事してるだけだ(ブラック領主


実際まだ出荷するほどの量は無く、領内でほとんど消費されちゃってるし…来年はもっと仕込む量を増やさないと。消費量が多すぎて全然足りないのだ。

俺の所には貢物みたいに何本か、何樽かもらったがほとんどそのまま置いてある。まあ熟成していい感じになると期待。その頃には美味しく飲める年になっているだろう。



まあそれはそうと。

大量に作って売って儲けようとなると、今度は運ぶ手段を考える必要が出てくる。


全部行商に売りつけてもいいが、その場合は儲けのほとんどが商人に掠めとられるだろう。

息のかかった商人にだけ売ってもいいけど、そうするとあそこは良いのにウチはどうしてダメなんだと揉められても困る。


だが輸送するとして、例えば大樽で運ぶとなると…道中で壊れたりこぼれたりしそう。道も悪いし。ガッタガタの山道だからなあ。

普通はマジックバッグなんて持ってないからな。そういうの持ってる商人に売るか?今度は独占されてややこしい事になりそう。儲けも減りそうだしなあ。うーむ。


となると、小さい樽を複数にするとか、あるいはビンとか。

ビンは厳しいかもしれんなあ。そもそもガラスづくりの技術もまだまだ。

ガラスの材料である石英はたぶん鉱山から出てるとはおもう。後は灰と石灰石があればいいんだっけ。

…まあ頑張れば何とかなるな。


ビンが出来ればコルクは何とでもなる。

つーか、たぶん俺が作れる。


いや、そうだな。ビンづくりか。

瓶詰が出来れば食料の保存にもいいし、戦場への携帯食にも素晴らしい。

戦場で味噌を塗りたくった腰縄を喰うとかいう意味不明な事をしなくてもいいのだ。


ただまあ、とりあえず今ユグドラシルへもっていってお土産にしようと思うと樽だな。

ガラスなんてすぐに作れるわけない。


「小さめの樽に入れて持っていこうか。俺が行くならマジックバッグを使えばいいし。」

「ハッ」

「あと、ガラス工房も立ち上げたい。マークス何とかしてよ」

「職人もいなければ材料もありませんな」

「あー、やっぱりこの山の中じゃあ色々不便だなあ」


ガラスの欠点は何と言っても割れることだ。

高級品で知られる切子ガラスをこの世界で作ったとして。

今度はどうやって割らずに何日もかけて運ぶかってのを考える方が大変そうだ。

もっとぶ厚くて頑丈な酒ビンでも割りかねんというのに。


あー。でもあれか。

ガラス運搬もマジックバッグさんを使えばいいのか。

ガラスみたいに高級で割れるモノを運ぶのに最適じゃないか。


でもそうすると俺がガチで輸送担当になってしまうわけだが…まあそれは今の所仕方ない。

もう一つどこかでマジックバッグを見つけるまで我慢だな。

その場合誰に使わせるかが問題になりそうだけど。


「ふむ。今のうちにガラスを作れるようにしたいな。誰か暇そうでガラスに興味ありそうなのいない?」

「残念ながら皆それぞれ忙しそうですぞ…」


まあそうか。

うちの領は兼業農家ばっかりだ。そしてほぼ全員が畑を持ち、畑作をしながら大工をしたり、機織をしたりしている。畑の内容は人それぞれで、普通に麦やソバだったり、季節の野菜だったり、それから麻や綿花を育てている者もいる。


移住者はまだまだ自分たちの家もない。共同住宅どころか工場の片隅や体育館みたいなところで寝起きしている。この真冬にだ。凍え死なないか心配になる。ガラス工房を作れば排熱で暖かいかもと思うけどまあそれどころじゃねえか。



しかし、ガラスは良い。

器や領内の窓に使うのはもちろん、ガラス温室を作る…ハウス栽培が出来るのだ。


現代ではハウスと言えばビニールハウスだが、別にガラスだって当然同じことが出来る。

重量ではビニールに劣るが、光の透過率はビニールよりはるかに上じゃね?ハウスでイチゴを作ってシーズン前に出荷するのだ。

クリスマスのようなイベントを作ればイチゴでザックザック大儲け出来そうだな。げへへ。


他にも温帯ならではの物がこの山地で栽培できるようになる。とかもあるが…輸送コストと相談しなければならない。やっぱりネックはそこやな。それとガラスハウスの問題は地震や台風の時とか。

ビニールハウスならビニールが捲れて飛んでいって。

まあそれは大変だけど作物は死んでも農家や周辺の者たちの命に即座に刺傷は無い。ダジャレか。


でも飛んでいくのがガラスならどうか。

板ガラスが空を舞うと被害が大変なことになるだろう。

大きな一枚サイズなら人の命を簡単に奪うし、割れて散らばったガラスは集めるのも一苦労だ。

うーむ。とりあえず出来てから考えるか。



「まあガラスは保留でいいや。小さな樽と同行要員の選別をしておいてくれ。勿論俺も行くぞ」

「それは…はい。仕方ありませんな」

「そーだろ。仕方ないんだよ。アカも連れて行こうか。エサいっぱい用意しないとなあ。」


あいつはいっぱい食うからな。

でもあえて食糧少な目にしたら道中で魔物や猛獣の間引きをしてくれるかも。

そうすれば俺たちも助かる…けどもし獲物が取れなかったら悲惨だな。やめとこ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る