第95話 ヴェルケーロ列…山改造論

マークスに言われて久しぶりに書類と格闘した。

おかげで村の状況が色々とわかった。


また大魔王様に報告しないといけないからこういうのは助かる。

やっぱ偶には書類仕事もやらないといけないな。やりたくねーけど。




報告書は書式をできるだけ統一させたがまだまだバラバラだ。

そもそも識字率がそれほどでもないのに、報告書の書体もクソも無い。

仕入れや経費の計上についても、できればエクセルくらいは使いたい。

せめて表計算だ。

簿記の資格は取っていないが、複式簿記の事くらいはうっすら分かる。


というわけで税関係や収入、支出に関係する書類。

それから野菜の出来やら鉱山からの採取物については今年から表にしてまとめることにした。

と言ってもまあ集計も大変だったようだし、苦労の後はあちらこちらから見てとれる

だが、来年はもっと楽になるだろう。


でも俺はやりたくないな。

まとめたくはないが、最終的に数字をチラッと見る程度は領主としてやらないとまずいな

…と改めて思ったカイトであった。まる。


「出来ればもう少し机に座っての仕事もしていただきたいのですが」

「それは、そうかも知れんがそうでも無いのだ」

「はあ。」

「大魔王様はいつ見ても書類に埋もれているがあれは間違っている。本来なら信頼できる秘書官が控えていて、あらかた大事なところを見終わったところで大魔王様に報告するべきだ。そうだろ!」

「…その場合その『信頼できる秘書官』とやらが裏切り行為をした場合になかなか気付くことが出来ませんが」

「マークスはそんな事しない」

「…そうですな。私は若を裏切る事はしないと思いますが…」


しない。するわけもないし理由もない。

子も孫ももう巣立っているのだし、今更小金をチョロまかしてどうしようと言うのか。


それに給金以上に金があってもこのド田舎じゃあ使い道がない。

ああいや、使い道は増やさないといけない。

隊商もっと誘致するか?うーむ。

いっそ俺がバリバリ店を開くか。


リヒタール商店にリヒタール食堂、リヒタール銭湯にリヒタール劇場に…そしてリヒタール夜のお店。大人な二人がちょっと休憩できるリヒタールホテルなんてのも必要かもしれん。


うん、名前は完全にアウトだが、内容はアリかもな。

給料として配った貨幣を回収してまた配って、と循環させないといけないからな。


でもこの小さい村で夜のお店に行くとすぐに母ちゃんにバレて怒られる馬鹿が多そうだ。

まあそれは別に領主様オレが知ったこっちゃないか。

各ご家庭でどうにか問題解決してくださーい。ってなモンだ。



現代社会じゃ金は紙切れと数字だ。

金本位制でもないから金と交換もできない。

信用だけのモノで、逆にいうと信用があるならいくら刷ってもいいという事になる。


だがコッチ異世界じゃ全然話が違う。

貨幣はあくまで物質の量に左右される有限の物資なのだ。

どこかで流れが滞ると世界中で困ったことになる。

『金なんて刷ればいい?お前それサバンナ異世界でも同じこと刷ればいいって言えんの? 』ってなモンだ。



ため込んでしまうのも困るが、逆に言えば貴重で有限な資源を俺らの息のかかってない行商がフラッと来て、貨幣だけ持って帰られても困る。

身内でグルグル回してこそ値打ちがあるってものなのだ。

いや、いっそ新しい貨幣を作るってのもアリか。

そうすりゃなくなりゃ作ればいいじゃないって言い張れるな。


「…若。それでも書類仕事は重要ですぞ」


ああ、話の途中だった。


「…ああ、まあ言いたいことは分かる。出来るだけ今より見る時間を増やそう。所で、話は変わるがそろそろ店を開こうかと思う。はじめは商店とかからだな。食堂や公衆浴場も増やさんとな。いくら水魔法があると言っても冬も水浴びや一軒しかない風呂屋に入って雪の中歩いて冷えて帰るのはちょっとな。」

「はあ。また書類仕事が増えそうですな」

「そうだな。領民の衣食住が落ち着いてきた以上、次は町を栄えさせることを考えよう。」

「良き考えかと」


よし、話は書類から離れた。

領民の衣食住が落ち着いたのは間違いない。特に食糧事情がかなり改善されたからな。

秋の収穫も順調だった。穀類も大豆も沢山採れたから冬場の貯蓄もたぶん問題ないと。

実際今まで特に問題なさそうだったし。


書類から話が離れた以上、後は仕事内容を指示していけば勝手にこいつがどうにかうまく回してくれる。そう祈ろう。


「道もちゃんと整備していかないとだし。鉱山が開発出来てダンジョン入り口も出来たとなればその周辺は必然的に賑わう。街の入り口から領主館を通って鉱山の麓までをメインストリートにして、その周りに商店街を作ろう。工場と学校は領主館のすぐ横にあるから、仕事帰りに買い物して帰るってコースだ。防壁も築く必要があるな…最初は土壁と柵で構わんから開拓して囲ってしまおう。」

「宜しいですな」

「そうだろう?ではそのようにして…「そのように計画をきちんと立てましょう」お、おう。」

「ではマリア殿、黒板を」

「はい」


スッと手持ちの黒板を差し出すマリア。

書いたり消したりには便利なんだよなあ。

って、マリアはいつの間に来たのかな?


「ここが領主館、学校に工場、それからこの辺りがギルドになります。よろしいですな?」

「うん」

「今行商人たちがバザーを開いているのはこの辺りで…ここが…」

「じゃあこの辺に店を…」


俺たちの直営店を開かないと。

行商人向けの宿も必要だ。それから民の必需品にお勉強のための文房具のお店やらも必要だな。

もういっそまとめてコンビニでも作るか。7時から11時くらいまでの…


「私どもも一軒店を持ちたいのですが…」

「ああ、じゃあこの辺りにでもどう?」


ああ、マリア達もお店が欲しいよな。

いつも行商をお願いしているが、拠点となるところがある方がそりゃいい。ってか今までは行商人の拠点が領主館だったから一寸おかしかったんだよね。


「若、これでは公衆浴場の敷地がなくなりますぞ」

「むむ。ならこの店はギルドの反対側にしようか。いや、風呂屋は住宅地に近い方が良いか?何軒か立てるというのが一番正解だとは思うが…ああそれと、いずれ第二工場や第三工場が…」

「ふむむ。ならば…」

「いやここは…」


そんなこんなで翌日までかかって町の開発計画が出来た。


ヴェルケーロ列島改造論だ。

周囲は山ばかりで全然列島じゃないけど。

そして徹夜になってしまったので、師匠を追ってダンジョン…は無理だった。


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