第94話 じゃないダンジョン
アーク歴1499年 参の月
ヴェルケーロ領
まあ200名とは言え、家族の分も合わせてほんの60軒くらいの家だ。
大したことは…ことは…死ぬわ!
一気にやらせるな!死んじゃうだろ大工衆が!
え?おれ?俺は…通常進行だ。
まあ、今まで散々山から木を採って住居や工場、学校に今度は体育館まで作ろうかと言うウチの大工衆だ。ちょっと大きなサイズの家くらいはどうって事はない。そうだろ?
だから多少ブラックな命令で徹夜しても大丈夫。
俺一人でこんなのやれって言われたらハゲ上がるよ?
後は…大きくなったアカ用の犬小屋でも頼んでみようかしら。
山は禿山じゃいろいろ不味いから頑張って植林しないと。ブドウにリンゴは植えた。
ここらで蜜柑でもダメもとで…と思うけど普通に杉やヒノキがいいのか?
あー。カエデをいっぱい植えてメープルシロップっててもある。そっちがいいかな?
でも杉もヒノキもカエデも、増やしすぎると花粉症になるんだよな。最悪だよな…
なんて思ってると、玄関が大きな音を出して開いた。なんだ??
「行って来たぞ!これでいいんだろこれで!」
「はい?」
少し薄汚れた師匠が執務室に入って来たかと思うと、机にジャラジャラと金貨をぶちまけた。
一体何の話か。と思ったけどそういやお金の話してたわ。
「すごく多いんですけど…どうやって稼いだのですか?まさかいかがわしい方法で…」
パッと見てだけど、1000万zくらいあるんじゃないか。
ちょっとやそっとで稼げる額じゃないのだ。うーむ。
まさかとは思うが師匠がそのバインバインを使って合法と非合法の狭間で稼いだのでは。
何故か音楽が鳴り始めると急に暑くなったような気がして女の子が服を脱ぎはじめたりだとか、或いは偶々お風呂で出会った二人が突然恋に落ちるという無理のある設定の、やたら入浴料の高い風呂屋に勤めたりとか…
「バカ!そんなわけあるか!ダンジョンに行ったんだよダンジョンに!私くらいになると1週間もすればそのくらいは稼げる!」
「ほー」
そりゃいいこと聞いた。
以前にリヒタールで豚を買った時の経験からすると、豚は大人を5~10匹くらい買っても100万もあればいける。そうすりゃ半年もすれば倍々ゲームが始まるのだ。よっしゃ。
「有難う御座います。このお金は立派な豚ちゃんになって、皆の食糧事情の改善に役立つでしょう」
「そうか!」
「さすが師匠。それで、次に牛と馬をと思っていますので、また追加で稼いできてもらえますよね?」
「ん?」
「いずれ俺も一人でそのくらいホイホイと稼げるようになります。そうすればお返ししますからちょっと稼いできてもらっていいですか?」
「え?ちょ?」
「有難う御座います!マークス!師匠にお風呂とゴハンの用意を!すぐにまた出発されるぞ!」
「ハッ!」
「え?いや、私はお前の師匠としてだな…」
「我が師匠として立派な稼ぎを見せてくださるとの事!このカイト、師匠の立派な姿を瞳に焼き付けます!」
「ん?そうか?」
「はい!よろしくお願いします!」
「しょうがない。なら行ってきてやろう!マークス殿、飯も風呂もいらぬ!カイトに我をよく見ておくように言っておいてくれ!ではな!」
ワーッハッハッハと変な笑い声を上げながら師匠は去っていった。
チョロイ。
ウチの師匠がこんなにチョロくていいのか。
正直、この一週間師匠がいなくて領地は平和だった。
俺の朝夕の特訓という名の地獄のシゴキもなく、いい感じの訓練も出来た。
それに空いた時間で開拓も進んだ。
人が増えてもやはり俺がいないとどうにもならないこともあるのだ。
その辺をモリモリ進めることが出来たからな…よし。
「マークス!豚の手配だ!」
「ハッ!」
「ついでに牛と馬も5頭ずつくらいは買ってしまおう。」
「ミノタウロスとケンタウロスに世話をさせるので?」
「あいつらがそれを望めばだけどな…どうなんだ?牛に牛の世話をさせていいのか?」
「気にせぬと思いますが…」
首をかしげるマークス。
でも実際の所彼らの仕事は今のところない。
ミノタウロスは力が強そうだから耕夫や鉱夫に向いてるかもとは思うが、体がでかいから小さな所には入っていけなさそう。まあ坑道を作らずに思いっきり露天掘りする分には問題ないか。
ケンタウロスはもっと困る。
あいつら種族としてちょっとおかしいから普通の仕事が難しいんだよな。
座っても場所を取るから機織なんかもしづらそうだし、足元の草刈りやらせてもかなりつらそう。
高いところの果物の採取なんかは良さそうだが…
ただ、戦いになればものすごく優秀な弓騎兵になる。
人馬一体と言う言葉があるが、ケンタウロスなんて一体どころの話じゃ…いや、あれこそまさに人馬一体か。そうだな。
戦闘面では優秀なのでとりあえず狩りでもしてもらおう。
野生動物も魔物もヴェルケーロ領ではそこら中にいる。
と言ってもケンタウロスに向いているのは山より平原での狩りだろうし、猟師ならではのポイントもあるのでいきなりこっちに移住してきたものには厳しいところもあると思うが…
まあそうも言ってられんからな。
農業の適正はどうなんだろ?どう見ても狩猟の方が向いている気がするが、別に農業出来なくないだろう。土を起こしたりだとかはむしろ得意なはず。
機織や糸績だって場所は取るけど別にできるはず。
まあ、こっちに来た以上色々と試してもらってどうにか職に就いてもらうしかない。
「というわけで個人の好みをできるだけ尊重するように」
「はい。」
「俺はトレーニングに戻る。この近くにダンジョンあればなあ」
「ありますぞ。ヴェルケーロ鉱山ダンジョンですな」
「あんの!?」
「おや、若はご存知かと思いましたが…鉱山にダンジョン入り口が現れたと報告があったではありませんか」
…あったっけ?
掘れば掘るほどモンスターが出てくるってのは聞いたと思うが…
「あれってダンジョンが出来てたって事?」
「と言うよりダンジョンを踏み抜いてしまったという事ですな。久遠の塔につながっていない独立型ダンジョンのようです」
「独立型ダンジョン?」
「久遠の塔へと各地のダンジョンは接続されておりますが、稀に全く別の独立したダンジョンがあります。出現するモンスターも独特で、そこにしかないレアな装備などもありますな。時間の流れも異なる場合と平地と同じ場合があります」
「へー。じゃあ頑張って通わないと!」
きた!
俺の貴重なレベル上げの時間が来たのだ!
「マリラエール様は今まさにその鉱山からダンジョンに出かけておりますな。鉱山前に作った宿場もドンドン栄えてきております。もう少しで町と呼べるでしょう」
「ほう」
さすが有能執事マークス。
いつの間にやら鉱山前に町が出来てきているようだ。
そうだ、そうしよう。そして俺はダンジョンに行こう!
「じゃあ俺ダンジョンでレベル上げしてアシュレイとキャッキャウフフする予定だから」
「その前にこの書類を片付けて頂いてからでいいですかな?」
「ハイ…」
ダメだった。
ちなみにアカはしれっと師匠に引っ付いて行って
俺はジジイと書類仕事≪オシゴト≫だ!クソっ!
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