第89話 30層ボス戦②


「グガアアア!」

「いやあああ!まってええええ!」


久遠の塔30層、ボス部屋での戦いは終わらない。

陰に隠れてこそこそと回復薬を飲み、戦線に復帰。

アカにも回復薬を無理やり飲ませ、さあ元気になった所でボコボコにしてやんよ!


と意気込んでいると、ドカドカと酷かった投石がやんだ。

ようやく終わったか。よっしゃやるぞ!…と思っていたところに本体が突っ込んできた。


狒狒は改めてみるとかなり大きい。

アカが初めて現れた時のサイズくらいで…


「お前そういや巨大化できないのか!?」

「むり!まりょくたりない!」

「なんで!」

「かいとがひんじゃくすぎてむり!」

「なんだと!」


ふぁー!

俺が貧弱だから巨大化できないってなんじゃそりゃ!


アカと言い争いをしてる間にも俺のピンチは続く。右手に持った電柱のような棍棒を振り回し、左手に持った石を投げてくる。避ける!かわす!石は弾く!


電柱は俺の力じゃ弾けない。

どうにもならんから諦めて必死に避ける。


かわし、凌いで後ろへ回る。


「これで!アローストーム・トリプル!」


残りの魔力を振り絞って3重の矢嵐をぶつける。

親狒狒を中心に、巻き込まれた子狒狒と…アカまで拘束してしまった。


「ひどいぞ!」

「ごめんって。今はずすから…ら?」


何千本もの矢の嵐、そこから生まれる木による拘束は並みじゃないはず。

なのに親狒狒の所からはバキ…バキ…と音が聞こえてくる。はわわ。


「やばい。アカ早く出て来い」

「うごけない!カイトうちすぎ!」

「外すから…動くなよ!」


アカの近くに行って拘束している木に魔法で命令する。

拘束が外れ、動けるようになって…バキバキバキバキ


「ギリセーフ!頑張れアカ!」

「おれもうげんかいちかいぞ」


マジかよ。

ブレスをもう一発撃ちこむが、倒せない。くそ!やるしかない。


フルスイングの棍棒をかわし、右足を短剣で薙ぐ。

ガキイッと氷の鎧に阻まれる。ダメージが通ってる感じがない。くそっ!


まずいまずいまずい。

何度かかわし、受け流して斬りかかるもダメージが与えられている感じはない。

反対側にいるアカの方はまだ牙が刺さり、爪が鎧に傷をつけている。だが致命傷には程遠い。

深さが足りないのだ。くそ。もう一歩踏み込んで…「危ない!」


ドンッという衝撃。


「え?」


3mほど吹っ飛ばされた。なんだ?

くらくらする頭でアカと戦っている狒狒を見ると、尻尾を使っている。

クソっ。狒狒が棍棒と尻尾とで攻撃してくるようになってる。


尻尾と言っても大きい。

俺の腕で大きく丸を作って…そのくらいの太さの尻尾だ。

つまり俺の胴体よりデカいくらいの太さ。


「んなろー!」

「ガガァーッ!」


急いで回復薬を飲んで戦線に復帰。

もう腹がタポタポだぞ!


振り下ろされる尻尾を捌き、横薙ぎに払われる棍棒を受け流す。

反対側ではアカが石を持った左手と左足をかなり傷つけている。

もう少し、もう少しで足を壊し、踏ん張れなく出来るはず。

バギン!よし、膝関節が壊れた。これで!


「ウキョキョワアアア!」


足を壊され、追い詰められた狒狒が大きく叫ぶ。

何かと思ったら、また新しく子狒狒を生み出したようだ。それも5匹も。

くそ!何匹出てくるんだ!


「くそ、大人しく拘束されとけ!アローストーム!」


新たに生まれた子狒狒を拘束するためにまた矢嵐を生み出す。


「よし!」

「カイト!ぼう!」


つい子狒狒を気にして親狒狒から目を離してしまった。

アカに言われて慌てて振り返ると上段から目の前に迫る棍棒。

マズい。避けられない!防げ!


とっさに短剣を盾に、両手で掲げて棍棒を防ぐ。

重い。でも耐えろ!

耐えられないとペシャンコになるぞ!


「ぐぬおおおおお!」

「ウギイイイ!」

「こら!やめろ!」


俺は何とか力を振り絞って潰されないように耐える。

頑丈な爪切り短剣は折れない。問題は俺の力だ。

アカが左手と左足をほとんど潰してくれている。

おまけに今も頭をガジガジして妨害している。

そのおかげでたぶん本来より力が入ってない。でも重い。ぐぎぎ


「ふんぬぬぬぬ!ぐぞおお」


段々と押される。まずい。潰される。

俺じゃ力が足りない。くそ。


まだたかが30層。

俺は80層まで独り行かなければならない。

敵はこれからどんどん強くなるってのに俺は、俺はタカが30層のボスに力負けして…クソ!畜生!

悔しさに目から変な汁が出てくる。

でも、それでも。


「うおおおお!こんな所で負けてられっか…この!こん、の―――あれ?イケる?」


突然棍棒の重みが減った。

アカがどうにかしたのか、それとも師匠か?と思うが両方とも違うみたいだ。なんだ?


「分かんねーけど…まあ良い!せい!」


突然軽く、力強く動くようになった体。

上段から押されていた力を跳ね返し、懐に入って氷の鎧の上から右拳で殴る。

さっきまでは切っても蹴っても鎧に弾かれて全くダメージが通ってなさそうだったが今は違う。

胸の氷にヒビが入り、今にも壊れそうだ。


「グギャ?」

「よっしゃいける!」


棍棒をかわし、あるいは弾き返す。

なんだろう。速度も腕力もまるで違う。


「ツリーアロー・オクタ!」


いける。何でも出来そうだ。

8連オクタで木矢ツリーアローを放つ。

以前はできなかった8連射も余裕でこなせる。

何じゃこの体!これはあれだ、死にかけて覚醒したってアレ!


「いやっほーい!」


やばいこれ。

今までできなかったことが出来る。まさに溢れだす。なにが?何が溢れんの?

分からんがイケる。これはやれる!


「行ッくぞおおお「うほほ!ちからあふれる!とりゃあー!」…え?」


強化された木矢で拘束した狒狒に止めを刺すべく近寄る。すると何故か俺より元気いっぱいそうなアカが吹っ飛ばされた狒狒に近寄り、ワンパンで頭を吹っ飛ばした。


「おお…?えええ?アカ??」

「やったーたおしたぞ!おれつよい!なんかきゅうにつよくなった!」

「せ、せやね」

「カイトみてたか?おれつよいぞ!いまならまえみたいにおおきくなれそうだぞ!」

「…うん。でも俺も強くなったように思うんだ。」

「そう?あんまりかわらん?」

「…そうか。…そうかもね」


何とも言えない気分になった時、頭を吹っ飛ばされた狒狒が消え、同時に取り巻きの子狒狒が消えた。

ボスドロップはあいつが持ってた棍棒。こんなでかいの使えねえ。売るか。はぁ。


「はいお疲れさま。何やら突然強くなったたように見えたが?」

「そうですね。俺もそう思ったんすよ。なんでだろ?」


ピンチの時に突然強化。

こりゃ俺に隠されていた真の力が目覚めて何ちゃらかんちゃらってやつに違いない。


でもそんなイベントが雑魚オブ雑魚として名高いカイトにあるだろうか。

それはない。

断言できる。

不思議に思ってステータスを見てみる。



カイト・リヒタール

リヒタール伯爵家 嫡男 15歳

Lv38

職業:ヴェルケーロ領主


HP  146+8

MP  242+72

STR   56+25

AGI   84+16     

VIT   54+10

INT   147+29  

DEX   86+17  

LUK   63

  



ATK 157

MATK 211

DEF 127

MDEF 19


固有スキル

樹魔法Lv3 鑑定Lv1


ギフト 

富国強兵Lv1


武器:アルカネイオスの短剣

防具:風霊の鎧 エアリスの外套




ふむ。

なんかいっぱいステータスに加算が付いている。

何じゃろ?と一瞬思ったが心当たりはある。


ここに来てようやく俺のギフトが機能し始めたのだ。

何で今?何でこのタイミングで?

…と思うが、まあ助かる事なので喜んで受け取ろう。


それに、アカまで強化されたっぽいのはうれしい誤算だ。

だがそのおかげで俺の見せ場を華麗に奪われた。ぐぬぬ。



まあかなり強くなったような気もするが…そうでも無いっちゃそうでも無い。

ゲームでのくそチート野郎である魔王アシュレイ様はLv30ならHPMPが2000、ステータスは平均500くらいはあったはず。


そしてレベル自体もポンポン上がっていくのだ。うーむ、妬ましい。

何で死んでもうたんや。チクショウ。


とは言えとりあえずこれで30層はクリアである。

一回帰って魔王様に報告して…そろそろ領地に帰るか。

あっと言う間に2か月近く空けてたからな。


楽しいダンジョンの時間は終わり。

これからは楽しい?内政の時間だ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


読んでいただいてありがとうございます。

補足ですが、カイトのギフトが発動したのは年が変わったからです。


領地を得ていないと駄目、領地が発展していないと効果が微弱と縛りのキツイ能力ですがその分効果は大きく、後半になればなるほど莫大な恩恵を得られる、そんなギフトなのですが、いわゆる1月1日に前年の状態を参照してギフトが補正されるようなシステムになっています。


という訳で今までは恩恵ゼロでした。

弱い筈だよね…



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