第88話 30層ボス戦①

アーク歴1498年 什の月


久遠の塔



久遠の塔、30層。

その最奥であるボス部屋の前に俺たちは来ていた。


20層台に突入して7日目の事である。

いやあ、思ったよりサクサク進んだね。


暦の上ではそろそろ年末もいい所だろう。

金銀歌合戦やいけ年こい年をやっているかもしれない。


そういやずいぶん歌番組も見てないな。

こっちの世界の可愛いうさ耳っ娘や猫耳っ娘を日本に連れて行ってアイドルデビューさせたらオタクがホイホイ貢いでくれるんじゃないか。握手券とか売りまくれそう。まあ俺も貢ぎかねん。

領主(超大金持ち)の本気を見るがいい!とか言いながらな。



俺がメインで使っている武器、ジジイの爪切り用短剣は中々高性能だ。

ここまでに出現したモンスターたちは甲殻や分厚い皮に覆われていても楽々…楽々、後ろからプスプスできる。

ん?正面からやり合う?そんなことやるわけねえ!


「もっと正々堂々とやりなさい」

「ハイ」


…ここまでで出現したモンスターは氷狼にペンギン、氷の鷹にそれからシロクマみたいなヤツに…兎に角寒い、水っぽいもしくは白っぽいモンスターばかりだ。

ダンジョン内部は水ばっかりかと思えばそうでも無い。海岸みたいなところとか、氷山の上とか、案外足場がしっかりしてて助かる。

親切設計である。まあその辺はゲームだしな。そんな無茶苦茶しないだろ。


階段を降りたらいきなり水の中だったりして、水中でほれ、戦えってされても俺なんて陸に上がったコイキングみたいになる。


『はねる』をリアルにやってしまうのだ。

まあ実際には空気を求めてのたうち回るだけだが…ってそれはコイキングと同じか。

やっぱりはねてんだな。




そうこうしている間にボス部屋である。

ボス部屋の扉はご丁寧に『ここがボス部屋だよ』ってはっきりわかる。

扉は通常のモノよりはるかに豪華なのだ。

おっと、ちゃんと回復しないと。ヒール!ホイミ!ケアル!


「じゃあ、開けるぞー」

「おー」


ゴゴゴゴっと音を立てて扉を開ける。

中は氷山と言うかなんというか。

氷に覆われた大地だ。いや、見えないだけで下は海かもしれん。ここは北極か南極か、果たしてどちらなのか。個人的には大地の上に氷があるだけでうれしい。

だって下が海ならワンチャン落ちただけで死ねる。勘弁してくれ。


「かいと!まえ!」

「へ?」


足元ばっかり見てる俺に氷を纏った大きな狒狒が襲い掛かる。


「おわ!ちょま!」


狒狒の持つ棍棒が振り下ろされ、間一髪のところでかわす。


氷が割れて下にある海が顔を出す。


「ぎえええええ!何すんじゃ!正々堂々戦え」

「お前が言うな」


何処からか師匠の突っ込みが入る。

俺はいいんだよ俺は!


「まかせろ!おりゃー!」


アカは氷水に落ちることなんて屁とも思ってないみたいで…そりゃ飛べるもんな!

頭からキーン!と突っ込んでいって狒狒の胴体に頭突きをかました。いいぞ!もっとやれ!


「いまだぞ!」

「おう!ツリーアロー・ストーム!」


雨から嵐へと強化された俺の木魔法を喰らうがいい!


まさしく嵐のように降り注ぐ矢。だが…カンカンカンプスカンプスカンカンカンカン…

と音を立てる。ほとんどは氷の鎧に弾かれてダメージにならない。

ダメージが通ってそうなのは鎧のつなぎ目やアカが頭突きした胸部に当たった矢だけ。うーん、ダメっすなあ。


「ダメだぁ。ダメージ通ってないぽいね」

「カイトはだらしないぞ!」


だが大丈夫。

当たった所から木が成長して拘束する。

そしてあとはタコ殴りにすると言うのがいつもの必勝法だ。ふふん。俺に死角はない。


ベキベキと音を立てて成長する木。

一本の矢程度の太さだった木が、いつの間にやら俺の腕くらいの太さ…細いなあの腕。

ヒョロヒョロだ。うーむ。

寒いから成長悪いのかな?早く大きくなれ俺の腕…


心配になるほど細い腕を見ながら氷の隙間を狙って剣でプスプスする。

アカも蹴ったり殴ったり頭突きしたり。いいぞ!もっとやれ!


「ってあれ?」


いい感じで攻撃していると狒狒が赤くなってきた。

あー、怒って強くなるパターンか。


ふふん、だが怒ったところでもう遅い。

壁から突き出したケツを刺しまくってやるよ!と思うが、不思議な音がして来る。


バキ…バキ…と鳴る音が聞こえる。今回の音は木が大きくなる音ではないようだ。

これは…木をへし折って狒狒が脱出してきている音だ。やべえ!


「うそーん!」

「あらあら、どうしますか?」


どこかから聞こえる嬉しそうな師匠の声。

狒狒のやつはこっちを睨んでいる。

どうやら拘束されていたことが不満だったようだ。まあそりゃ拘束されたままチクチクされたら怒るか泣くかってところだ。


「おい!俺は隙間からプスプスしてただけ!ドカドカ殴ってたのはアカだぞ!」

「アカだぞ!」

「キキイイイイイ!」


甲高い叫び声。

そして現れるボス狒狒を小型にしたような狒狒ジュニアたち。


「取り巻き呼ぶのかよ!」


実にゲームのボスっぽい行動だ。

出て来るゲーム間違えてんじゃないかコイツ!


文句を言おうとしていると、狒狒ジュニアと親狒狒による投石攻撃が襲い来る。


「ぬほおおおお!」

「あぶね!いてて!」

「この卑怯者!」


たくさん飛んでくる石つぶてをかわす、かわす。

大きいの小さいのと掴む端から投げられる石はコントロール抜群。

俺に向かって唸りを上げて襲い掛かる。

ちょっとまて、一面氷と雪のフィールドだぞ。どこから石ころ掘り出してるんだ?と思うがそんな突っ込みは何の役にも立たない。

飛んでくる石、石、石。


頭に来た石をしゃがんで避ける。

すると屈んだところにある頭を目がけてまたぶっ飛んでくる。

右へ飛ぶと右へ、左へ飛ぶと左へ。

終いに避けられなくなって短剣ではじく。子狒狒の投石をかわしてホッとしている所に親狒狒が大きな岩を投石をしようとしている。

やばばばば。


「や、やべえ!アカ!ブレスだブレス!」

「おー!」


アカの口がパカッと開き、凝縮された炎が『ゴオオオオオ』と音を立てて溢れだす。

ボス狒狒に直撃。よっしゃこれで…これで…?


「キキャアアアア!」

「「「ウッキイイイ!!!」」」

「だめじゃん!クソ…アローレイン・トリプル!クワトロブル!」


氷属性の狒狒たちには火ブレスは思いの外、効果が良くないようだ。

プスプスと煙を上げるが、ダメージがすごくて動けない…なんて感じではない。熱いのをいきなり喰らって怒り狂っているって感じだ。


やっぱりここじゃあ火は効きが悪いか。

道中でもちょっと微妙なときはあったし、まあ氷に火で攻撃しても…と言われればそうなんだけど!

仕方なく打ちまくった木矢で雑魚を足止めする。

そして!

「アロー・ペネトレイション!」


貫通矢は装甲を貫通してダメージを与えることを目的としたものだ。

果たして俺の放った貫通矢は氷の装甲を貫き、狒狒にダメージを与えた。


「ウッキイイイイイ!」


与えた…が、どうも余計に怒らせただけっぽい。くそ!


「ペネトレイション!ダブルペネトレイション!」


単発で撃つと避けられた。

しょうがなく2連弾で撃つ。

ダブルにすると消費MPが4倍に、トリプルにすると9倍になると言うクソ仕様のおかげで連打が出来ない!くそ、MP切れだ!こんな所だけゲームに忠実なんだよなあ!


文句を言いながら陰に隠れて回復薬を飲む。アカ頑張って!

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