第87話 順調な探索

20層までは割と自然に富んだダンジョン、そして自然なモンスターだった。


これを言いかえれば属性の無いモンスターが多かったのだ。

攻撃も近距離物理がほとんどで、例外的に20層の氷狼に風虎ペアがいたくらい。

アレは20層ボスの練習だったからしょうがない。


10層毎にボスが居る。

10層のボスは大きなトカゲ。龍ではない。ただのトカゲだ。

20層のボスは大きな氷狼と風虎だ。なんだかなつかしい。



氷に覆われた狼には木矢での拘束時間は通常より短いが、一度捕らえてしまえば後はチクチクすれば終わり…と思っていたらアカがガブッとやって終わった。

凍っていても鎌鼬に覆われていても、アカの口は全く気にせずガブガブと咬んでいた。


ボスドロップは肉と凍った毛皮。


20層以降は今度は水属性が多くなり、寒い所も多くなってくるのに凍った毛皮は有効なのだろうか。と思ったら不思議な事に意外と熱を遮断して熱くも寒くもないらしい。すばらしい。

だが、俺は武器屋で外套を買った所だ。素晴らしいが少し微妙な思いである。


外套の性能は悪くない。

小人族サイズでぴったりなのは遺憾の意を表明したくなるところだが、まあしょうがないと割り切るしかない。


何が性能悪くないって20層台に入ってもあんまり寒くないのだ。


俺とアシュレイがペアで探索していた時は寒さに耐えながらチビチビと進み、25層まではクリアしていた。アシュレイの方は剣や鎧に火が付与されていて寒くないと言っていたが、俺は寒さに苦しんで鼻水をたらしていた。それを彼女に笑われて…そんな思い出がふと蘇ってきた。


「はあ…」

「だいじょぶか?」

「ああ、ちょっと寒いだけ?いや、まあそうでもない。ちょっと疲れたのかな」


曖昧な顔をしながら進む。

何てことは無い。行ってみればダンジョンの構造は案外体が覚えているものだ。

時々、ダンジョンの構造だけでなく…そこで彼女と共に戦い、苦労したことも思い出すのだが。


「はぁ」

「つかれたか?」

「ああ、そうなのかもな…ちょっと休憩してつまみ食いするか」

「おー!」


今日のご飯はサンドイッチとポトフだ。

アシュレイの鞄は中々高性能だ。さすがに時間停止とまではいかないが、時間の進みはゆっくりなので朝作ったスープの鍋はまだ温かい。


ポトフは野菜と塩と、それに少しの肉類があれば何でもいい。

今回は肉がベーコンだったのでお塩控えめに。

コンソメがあればいいが、無いから出汁は特に入れない。

野菜とベーコンの出汁だけである。


「アカ、火」

「おー」


持ってきた薪に火をつけてもらう。

アカも火加減に随分慣れて来た。

最初は鉱石を溶岩のように溶かしていたが、今は薪に火をつける程度の火加減も出来る。

…ダンジョン登り始めの頃は3本ぐらいは消し炭を作ってそれからようやくまともに火が付く有様だったが。


「ふう…美味しいな」

「うまいな!」

「師匠もどうですか?」

「…もう食べているぞ。なかなか美味いな」


師匠はまた急に現れた。この人くノ一か何かなんだろうか。急に現れては去っていくのだ。

カッコイイな畜生!


ポトフは料理下手でも出来る楽ちん料理だ。

材料は大体何でもいいし、適当に野菜をぶち込んで適当に煮ておけばそれなりの物が出来る。

野菜とお肉を適当に刻んで水にぶち込み、弱火で放置しておけば後は出発の準備をしている間にいつの間にやら完成している。

そんなお手軽料理なのに美味いのだ。やはり鍋物は正義だな。


「それにしてもやっぱり寒いもんだ」

「おれはへいきだぞ!」

「羨ましいな。さあそろそろ行くか。この石ちょっと焼いといて」

「おー!ばりばりー!」

「バリバリいらんやろ…」


食後の片付けをしながらアカに石を焼いてもらう。

温石を作っているのだ。暖かく焼いた石をタオルで包み、お腹に当てる。

まあ今でいう所のカイロだ。


重くて貼れなくて冷めるのが早いカイロなのだ。

現代日本じゃ絶対売れない。


「あちちち」


でもコッチ《異世界》じゃカイロなんてものは無い。

そして燃えていてもそこそこ保温性能が高い毛皮を羽織って再スタート。

まあ悪くはない。見た目もちょっとカッコいい。氷雪系魔術師って感じでいい。

俺は氷雪系とは相性悪くてコップに入れたら丁度美味しく飲める程度の氷水を出すくらいしかできないが。畜生。






「ツリーアローレイン…よっしゃ!スラッシュ!」

「ギエエエ!」


久遠の塔・27階層

そこに出現したモンスターは人間ほどの大きさのペンギン、『カチワリペンギン』と氷を纏った鷹『ブリザードホーク』だ。


このへんの階層も樹魔法がもう一つ調子よくない。

寒いためか木の生長が遅く、拘束が上手くいかないときがある。

でもまあ数の暴力で仕留める。


矢が一本で足りないなら2本、3本でもダメなら雨のように降らせればいいのだ。

という訳でアローレインをメインで使うようにしたところ、今までと大差ない狩りが出来た。


アカ?アカさんはなーんの問題も無いっす。

飛んでる鷹も空中でガブガブッとしちゃうし、ペンギンはブレスで丸焼きに。

頼りになる相棒で良かったが、逆にいうとソロでの攻略時はこいつは使えないって事で。うーむ。



個人的な問題点はたくさんあるが、パーティーの狩りで考えると20階層台の探索は格別躓くところは無かった。

マップがないところからは1日1層進めるかどうかという所だったが、1層ずつにポータルがある安心仕様なので死なない程度にゆっくり進めばいつかは攻略できる。

この冬の間を掛けるつもりでのんびり行けばいい…と思うけどまあサクッとクリアもしたい。

そんな微妙なお年頃。


そんな訳でサクサク進んで29層まで攻略した。

明日はいよいよボス戦である。


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