第85話 冬こそダンジョンの時間!
「というわけで大魔王様の所にちょっといってダンジョンいって来る。何なら攻略してしまっても構わんのだろう?」
「それは結構ですがパーティーはどうするのです?一人では駄目ですぞ。わかっていると思いますが危険すぎます」
「そりゃあ…アカにお願いしようと思うけど」
「だそうですが、どう思いますかマリラエール様?」
「まあ…良いのではないか?」
師匠には事前に言ってある。
俺もここにきて一年、背も伸びてずいぶんと強くなった。
師匠と打ち合っても一撃でぶっ飛ばされなくなったのだ。
手加減してもらってるだけ?うっせ
「私は行かんぞ。行っても遠くから見るだけで手伝う気はない」
「勿論です。俺が強くなるための闘いですから。師匠に任せっきりはおかしいでしょう」
「…不安しか有りませんなあ」
うっせえ!
まあ師匠に手伝わせないのは理由がある。
レベル差があまりに大きい人が一緒に戦うと低レベルの者に経験値が入らない仕様らしいのだ。
でもまあ手を出さずに見ているだけや壁や釣りなら多少はいいらしい。謎い。
という訳で師匠と普通に組んで戦っても美味い事は特にない。
アイテムをゲットして金儲けできるくらいか。それはまあまあ美味いな…
その点、アカは俺と大差ないレベルまですぐに上がる。
というかワンチャン俺の方が低いまである。畜生。
「マークスはお留守番だぞ」
「分かっております。私が不安なのは坊ちゃんではなく、あのドラゴンですよ…坊ちゃんには懐いているようですが、うーむ」
「あいつもちょっとは大きくなったがまだまだ子供だからな。ダンジョンで魔力を吸わせればよく成長できるかもしれん。そうすればいい戦力になる…という期待もある」
「それは分かりますが…マリラエール様、我らの坊ちゃんを何卒よろしくお願いいたします」
「ああ。任されよう」
俺ってそんなに不安かね?
まあいいんだけどさー。
と言う訳で師匠とアカを連れて大魔王様の所へ。
もう門番さんはすっかり顔パスである。
「どうもー。あ、これ村で採れた大根」
「おう!いつもありがとな!」
「大魔王様いる?」
「またいつもの書類仕事だよ。大変そうだよなあ」
「そう思うなら手伝ってあげればいいのに…」
『俺は書類仕事をしたくないから武官になったんだ』と胸を張って言う門番さんに別れを告げて城内に入る。
最初会ったときは裁判の後で俺は誰が何やらさっぱり分からなかったが、この門番さんは親父の親戚だったらしい。そういうの先に言ってくれとマークスに愚痴ったのはいい思い出だ。
それからはお土産を何度か持ってきている。
まあ言うて野菜とかだけど。
「お久しぶりでーす」
「おう、よく来たな。まあ座って待て。マリラエール、茶を」
「ハッ」
城内の様子ももう何度も来たからわかる。
会う人に適当に土産を配り、大魔王様の執務室へ。
いつもの様に書類と格闘している大魔王様はこちらをチラッと見て、仕事に戻る。
「おっすだいまお?」
「大魔王様、だ。様を付けろよデコ助」
「さま。アカおぼえた」
うむ。
いまさらだが、敬称は『様』でいいのだろうか、大魔王『陛下』とかじゃないのか?アカン分からんわ。
「ふう、終わったぞ」
どっこいせ、と大魔王様が座る。
「それで今度は…ダンジョンか。いいだろう。まあ好きに入ればよかろう。詳細はマリラエールに聞くように…以上か?」
「はい」
さすが大魔王様、話が早い。
「パーティーはそのドラゴンか…ふむ」
「ダメですか?師匠には相談しましたが」
「まあ良かろう。励め」
「はい」
「ところで今日は泊まっていくのだろう?ならば手伝え」
くい、と視線を書類の山に向けて大魔王様が仰る。
うーん。
正直クッソめんどくさい。
ここは…
「手伝いたいのは山々なんですけど僕には明日の用意がありますので…」
「そうか。お主も領主。忙しいのだな。うむ。そんな忙しいのにダンジョンなどに行く時間は無かろう。春にと思ってた牛と馬もやはりこちらで「さー!楽しい書類仕事の時間だぞ!いやあ、今日も素敵だね!白い肌に黒いライン!まるで芸術ですな!やはり書類は最高だなあ!見てるだけで心が癒されますね!」…そうだろう。そうだろう。さあ、頑張ろうな」
「ハイ…」
師匠にアカを任せ、俺は大魔王様と一緒に書類仕事だ。
うちの領ではマークスがほとんどやってたし、そもそも俺が決裁しないといけない書類自体がほとんどない。なのにここに来ればお手伝い地獄だ…久しぶりの書類地獄はやっぱり最悪だった。
大魔王城のあるレグルス地方は、俺の領地になっているヴェルケーロ領に比べてかなり暖かい。
言うてまだリヒタールに比べるとちょっと寒いが、それほど雪も無い地方になる。
冬の厳しい時期でも積雪することはあっても何十センチも積もって雪かきをしなければならないって事にはめったにならない。そのくらいの緯度だ。
ちなみにリヒタールは雪自体がほとんど降らない。あっちは過ごし易かったなあ。
さて、そんなレグルスのダンジョンは大魔王城から徒歩で1時間ほどの所にある。
近くて便利かと言えばまあ近い方だ。異世界基準でなら。
ダンジョンとは神が設置した世界を維持するための機構であり、深部に行けば行くほど強いモンスターが出現してそれを倒したものにはご褒美が得られる。
あくまで宝物やドロップ品のアイテム類は副産物であり、
ぶっちゃけゲーム世界のご都合だと俺は解釈している。
そしてそれ以上の認識は大して必要じゃないだろうとも思っているのだ。
さあ、そんなことは置いといて、王都レグルスから入るダンジョン入り口前に来た。
以前に1クリアしている所までは入り口からポータルで階層移動できるが、今回はダンジョン初入場のアカがいるからとりあえず最初からもう一度だ。
「おれのせい?」
アカは少ししゅんとしながら言う。
あー、別にそういう事じゃないんだ。
「そうじゃない。アカと一緒に登りたいから最初から行くんだ。これから一緒に頑張ろうな!」
「うん!」
「よーしいくぞー!」
師匠の姿は見えない。
たぶん後ろからこっそりついてくるなんて暇な事をするんだろう。そういう人である。
手伝ってくれる気はなさそうだが、バックアップ要員がいると言うのは頼もしい。
しかも俺より強いバックアップ要員だ。ぶっちゃけこの人に狩らせてお座りしてた方が効率は良いと思うが、そうするといつまでたっても俺自身の強さが付かないからな。
でもその方が楽で…そういう事やっててアシュレイを救えると思ってんのかオレは!
クソが!甘ったれたこと言ってんじゃねえ!
おっと、俺の心の野獣が急に怒り始めた。イカンイカン。
冷静に、でも熱くならないといけない。
アシュレイを救う。
この目的をはき違えないようにしないと。
だが今は…
「…よし行こう」
どうどう、落ち着け俺。
アシュレイの事をふっと思い出したおかげでおかしなテンションになってしまった。
変に緊張したりビビったりするのは良くないが、怒ったり興奮したりするのはもっと良くない。
ビビってる方がはるかにマシだ。
出来ることを一つづつやっていこう。
そしてミスなく、少しづつ成功を積み上げる。それだけでダンジョンはクリアできる。
そもそもゲームに登場するメインキャラなら最低限ある程度はクリアできるように出来るようにできているはずなのだ。じゃなきゃよっぽどひどいクソゲーだ。
大丈夫。
クソゲーじゃないはず。
3作目まで出るようなヒット作なのだ。開発陣を信頼しよう。
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