第84話 冬こそ内政の時間?
お金の出入りを計算した結果、出費で大きいのは領民への給料だ。
収入で一番多いのは前年度の繰越金…つまりリヒタールから持ってきて売りさばいたお宝の金だ。
…こっちに来てからの収入はまだほとんどない。
鉱山も農作物も繊維産業も、まだまだ金になっていないのだ。
これまで物々交換が主流だったところに貨幣経済を浸透させるにはどうするか。
まずは領民たちにお金を持たせ、金で交換させる、つまり売り買いさせる習慣をつけなければならない。
というわけで。労役と言うかお手伝いや工場での仕事が終わればお給料としてお金を渡し、その金で行商から買ってもらう。
何せ今までは行商人が来ても毛皮や野菜なんかの現物で交換してもらっていたらしい。
どうも話を聞くとそれほどボッタくられたりしていたわけでもない。
商人たちもこんな所じゃ儲けにならんってわかってて半ば慈善事業のような、それと上から言われてしょうがなく来ていたって所もあるみたいだ。
ならボッタくれんわな。
行商に来ているのは今までもヴェルケーロに訪れていた者たち以外にもご新規さんで行商にきている組もたくさんある。
新規は今まで来ていた連中に宣伝しまくった成果と、それと俺のルートで旧リヒタール領から来ている連中。
これは他領へ行く奴らもいるし情報収集がてらにリヒタールの商人に頼んでたんだけど、なんだか行商が本業になりそうだ。それと最後に、大魔王様の伝手で来ている者たちもある。
この者たちには魔王城からの伝手で様子見がてらに来ているので、そこそこいい物を交換で渡さないともう来なくなる可能性もある。
まあぶっちゃけると。
旧リヒタール領から来ているのは行商っぽい移民だったり、移民っぽい行商だったり。そして移民する者たちが必要になるだろうなーってのをいっぱい運んでくる。
儲け無視で移民を運んできているようなものなのだ。
当然、俺がその商人たちに対してある程度金を払う必要がある。まあこれについてはしょうがない。
移民は将来の働き手なのだ。むしろいくらでも来てほしい。
できればリヒタール領以外からもいっぱい来てほしい。
ほとんどすべての領地で住民が減ると領主は大変困る。
だから大っぴらに募集しづらいところはあるが、今生活が苦しくてたまらんって人は是非!
是非このリヒタール領…もといヴェルケーロ領に来てほしい!
とまあ、行商人を通じて移民を唆し…もとい、勧めてもらったところ。
ヴェルケーロ領の人口は1500人に増えた。
元々が1000人だったのに一年で5割も増えたわけだ。
これは当然食料や金銭を巡っての争いが起こる。
…と思ったけどほとんど起こらない。あれ?
まあ、念のために若い男を集めて警察のような部隊を作った。
ヴェルケーロ警備隊と名付けたその部隊は俺の所で兵士長をしていたロッソが初代の警備隊長である。
つまりは警視長官の役割なわけだ。
今の所犯罪検挙率は0%だ。だって犯罪がないんだもん。
警備隊の仕事は10割が畑仕事だ。よーし、今日はあっちの区域だぞー!
…とまあ、これが先月までの状況。
それからいきなり5000人も移住者が増えたのだ。
しかも余所者どころか他種族の、それも人間族の。
そんなの揉めること間違いなしである。
「犯罪ないのに警備隊いらんくね?と思ってたけどこれからどうかなあ」
「今までは警備隊の恐ろしいまでの訓練のおかげで、犯罪が起こらないと言う者もおりましたな」
「なるほど」
移民の最初の仕事は警備隊だ。
鬼族のロッソの、まさに『鬼のような』訓練のおかげで鍛え上げられた警備隊という名の軍隊は恐ろしいまでの規律を誇る。
そして何よりきちんと給料が出る。食事も出る。
俺に対する過大な忠誠心もセットで叩き込まれ…気が付いたらすっかり洗脳された立派な兵士…もとい、警備隊員(兵士)の出来上がりなのだ。
様々な人種が混在したリヒタール領でもほとんど大きな犯罪が起きなかったのに、ここはもっと山奥の平和な村だ。元々こちらにいた根が善良な魔族たちは余程生活に困らなければ盗もうなどという発想は起こらないらしい。腕自慢たちの小さな喧嘩はあるけど。
ましてや今この領内は空前の好景気に沸いている。
ほとんど金も使わない自給自足と交換で成り立っていた生活に突然外から大量の人と金と物をぶち込んだのだ。
金の良いところはモノの量が増えることにある。
実際には全く増えていないが、モノとモノを交換していることと比べ、モノをカネと交換して、カネとモノを交換することで間に挟まるモノが一つ増える。
実質的に一つのモノが増えたような状態になる。
先物取引や仮想通貨でもこれと同じような事が起きているが…まあそのへんはいいか。
まあ、領主的には税を数える方はすごく数えやすくなるというメリットもひそかにある。
〇〇さんちは小麦1袋、××さんちはリンゴ5袋、△△さんちは鉄鉱石10キロ…なんて税の取り方だとまとめる方も大変なのだ。
でまあ、こっちでいろんなお手伝いをしてもらって給料として支払ったお金は、わずかな貯蓄を置いてほとんどが実質的に俺が経営している行商部隊で使われる。
ぶっちゃけると俺のところにお金が帰って来るわけで。金が減っているのはどうしようもない仕入れ費用や消耗品、追加で呼んだ職人家族に払ったお金なんかもある。
つまり、資産はだんだん目減りしているがそれほど悪い状況ではないという事で。
収穫物や製作物、鉱山から得られた鉱石なんかをこれからどんどん金に変えていく。
やっとそういう段階まで進んできた。
そして今は寒い冬。
冬と言えば農閑期、領内の住民たちは去年まで寒い冬には肩を寄せ合って寒さをしのいでいた。
だが今年の住民たちはストーブを付けた工場で糸つむぎから機織のコンボで大忙しである。
鉱山は厳冬期には閉めることにした。
山小屋も立派なのを建てたし、寒さに強い種族の兵に交代で番をさせることにはしたが…だからって採掘の継続はさすがにな。
冬に入ったあたりで起きてきたアカは少し大きくなった。
柴犬がハスキー犬くらいの大きさになっただろうか?まだそこまで行ってないかって程度かな?
良く寝たから何かに目覚めるのかとすごく期待したけどまったくそういう雰囲気はない。畜生、期待させやがって…
というわけで住民たちは忙しいが、俺はもうすることがない。
樹魔法は真冬にはほとんど活躍できない。
木材加工も落ち着いてきた領内では大工さんたちで事足りる。
新しい移住者の方も特に問題が無ければやる事はない。
警備隊の方は人間の新人もたくさん入ったみたいで、彼らとの種族差、特性の差によって最初は苦労すると思うがまあそれは時間をかけて慣れてってもらわないと。
…という事で、特に内政でやることがなくなった俺はダンジョンでレベル上げの旅に出ることになったのだ。
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