第24話 許嫁


当然だが風呂から出て飯を食っても特に何事も起こらなかった。

普通に寝て普通に起きた。

朝、ややアシュレイの機嫌が悪かったが…気のせいだろう。


「王妃様は早めにこちらに来られるとのことです。恐らくはもう出立されているかと」

「「はあ?」」


子供たちの様子を見に行きます。とだけ言って出て来るらしい。

そんなにフラフラして大丈夫かと思うが、王妃自身も実力のある冒険者だし、護衛も選りすぐりだろう。

そこらの盗賊相手なら楽勝ってなモンだろ。

だからまあ俺の今考えることは、王妃の旅の無事なんかじゃなくて…


「おい大丈夫かアシュレイ?」

「わ、私は全く問題ない!それよりお前はなぜ夕べ…」


何故、『昨夜俺がベッドに忍んで来なかったか』と怒るアシュレイをどうやってなだめるか。

それを俺は悩んでいる。


何やら途轍もなくイケない行為に及ぶことを恐れたり望んだりしていたみたいで…俺が一人いつもの様にグーグー寝ていた事が許せないらしい。

そんなこと言ってもな。


「まあ落ち着け。俺は俺なりに考えているのだ」

「何をだ?」

「何をって。俺たちが一緒にニャンニャンするだろ?」

「ニャンニャン…ぐふ」

「グフでもドムでもねえよ。兎に角、お前はお姫様なんだから婚約も交わしていないうちに他所の男と一緒にあれこれするのは不味いだろうが」


常識的に考えると一国の姫が婚前どころか婚約もしていないのにアレやコレに挑んで妊娠したとでもなったらどうだろう。

あー、でも俺らまだガキンチョだからその心配はないっちゃないのか。

でも外聞てものが…うーん。

まあもともと従兄弟だし、少々良いっちゃ良いのか?


「そうだろうか?母上も父上と…叔父上と叔母上だって結婚前に「ストップ。そこら辺の情報は別にいい。」…そうか?」


やめろよ。

他人の所の夫婦生活なら結構興味あるけど、自分の親父とお袋のアレやコレやなんて誰が聞きたいんだ。ってかお前は何で知ってるんだ。


「そんなに遠慮しなくってもいいのよ!あなた方がサクッとくっついてかわいい孫を見せてくれるなら私は言うこと無いわ!」

「お母様!」

「オバちゃん…なんでここに」

「まあ、伯母ちゃんなんて。お母さんとでもママとでも呼んでくれていいのよ!」

「伯母上…何故こちらに?」

「そりゃ、もちろん鳥が届いたからよ。あんな良い知らせを聞いて待っていられるものですか!パパの飛竜で飛んできたのよ!」



ああ飛竜で。

そりゃ早いわ。


それはそれにしても良い知らせって…まあそれはそうだろうけど、マークスは一体どんな形で連絡したのだろうか。そもそもアイツに任せたことが間違いだったんじゃなかろうか。


「それはそうと、カイトちゃん何か言う事は?」

「あー、はい。…僕とアシュレイは出来れば結婚したいなと思います。伯母上にそのお許しを頂ければ幸いです」

「わ、私も同じです!いいでしょ母上!」


真っ赤にしながら伯母上にお願いするアシュレイ。

うんかわいい。


「そうね…どうしようかしら」

「お願いします!」

「ママお願い!」

「どうしようかなー?ウフフ」

「あ、ママだ!ママ―!」


伯母上が焦らしてるからアフェリスが出てきちゃったじゃん。

さっきまで部屋で寝ていたみたいだが、俺たちの話声が聞こえてきたのだろう。

今頃のように起きてきたアフェリスは伯母上を見つけてうれしそうに階段からのジャンピングアタックを喰らわせる。そしてそれを難なく大きな胸で受け止める伯母上。

うん、こう見ると足腰しっかりしてるわ。


「どこを見ておるのだ」

「ん?アフェリスが飛びついてもビクともしない。やっぱり丈夫な下半身だなって。やっぱり元冒険者だけのことはあるって思ってたんだけど…悪いか?」

「い、いや。ならば良い」

「ウフフ。アシュレイちゃん。ママに嫉妬しちゃって…こうやってどんどん女の子になっていくのね。嬉しいような悲しいような」

「は、母上!」

「冗談よ。さっきの話だけどとりあえず婚約という事でしょう?結婚はそうね…お互いが成人してからね。少なくともあと10年はお預けかしら」

「はい。」

「はい…」


当然の事だ。俺たちまだまだ子供だからな。


「孫はその前にでもいいのよ。ウフフ」

「は、母上!もう!」

「今のは冗談じゃないわよ?じゃああんまりからかうと怒られるから、私は帰るわね。近いうちにお城にいらっしゃい」


そう言ってサクッと飛龍に乗って帰って行った。今度はアフェリスを連れて。

『お邪魔になるといけないから』らしい。まだ当分問題ないっつってんだろ…言ってないわ。

それにしても嵐のような来訪だったな。疲れた。


「疲れちゃったな」

「ああ…」

「ダンジョンは良いにして畑仕事して寝るか」

「お、おう!」

「あー…せっかく意気込んでるみたいだけど。暫くただ寝るだけだぞ」

「うん?」

「いや、普通に寝るだけだから気合い入れたり緊張したりしなくていいよ?」

「ん?…うん?男女が一緒にならんで寝ると子供が出来るのだろう?」


あー、そこからか。

ここはアレだな。

オトナの保健体育の授業が必要なのだな。


「あー…マリア、コイツにいろいろ教えてあげてくれ」

「はい。畏まりました」

「やりすぎないようにな」

「何のことでしょう?ウフフ」

「あくまでほどほどに、だ。俺は自分で仕込むほうが好きだぞ」


色々と仕込み終わっているのは楽でいいだろうが、俺好みに染め上げることこそ至高である。

紳士諸君、そう思うだろ?


「さすがカイト様でございます。では…アシュレイ様こちらに。」

「なんだ?」

「淑女のためのお勉強でございます」

「ダンスか?テーブルマナーか?どちらも私は得意だぞ!」

「似たようなものでございますよ」


マリアはもともと伯母上の所から来たメイドだし、アシュレイたちの教育係の一人でもある。

丁度いい人材がいたものだ。

さて、俺はサクッと畑に行こう


「若にはその辺りの教育は必要御座いませんか?今なら領内の美人メイドが選り取り見取りですぞ」

「む」


そりゃ素敵な提案だが…


「残念だがそんな暇はないし、まだ体も出来ていない」

「左様ですか」


死亡フラグ回避はまだまだできてないはず。

原作のカイトだってアシュレイと婚約したりしてなかったりしてもおかしくないのだ。

つまりアシュレイと婚約や結婚することは何の保証にもならない。



この世界は思っているよりはるかに野蛮で、血にまみれた世界のはずだ。

今の平和は仮初めだと考えなければ…まあそれはそうとして内政だ。

内政と言っても今すぐ俺が手を出せるのは…農作業だ。



もうそろそろギフトの効果でステータス補正が強化されてもいいと思うんだがな。


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