第23話 やりましたな
何やら話の流れで『結婚』する事になってしまった。
結婚は人生の墓場か、それとも素晴らしき薔薇色の生活になるか。
それはお互いの相性や金銭的な余裕によるところが大きいだろう…と、日本にいたころの隣人たちを見て思う。
同世代でも上の世代でも、上手くいってる家庭はい~っぱいある。
もちろん、上手くいってない家庭もいっぱいある。
そもそも何で結婚したんだろ?って二人が仲良かったり、案の定揉めてたりするのだ。
翻って俺とアシュレイはどうか。
今のところガキンチョ同士だからってのもあるが、ケンカみたいな空気になったことはあるけどそれ以上に発展したことはない。
というか殴ったり殴られたりは色々危ない。
俺は冒険者にしては腕力は弱い方だが、それでも変な事故が起こらないとは限らない。
勿論アシュレイに本気で殴られたらワンパン終了だって説もある。たぶん大丈夫だと信じたいが。
そんなことを考えながら狩りを続行。
俺もなんだか浮ついているが、アシュレイは俺よりよっぽどひどいみたいだ。
「おいアシュレイ、来てるぞ!」
「え?うわああ!」
さっきと同じように3体出現した
さっきはまあまあ楽勝だったわけだが。
で、俺は何とか2体を拘束。
さあ、って時になってアシュレイはまだ動いていない。
襲い掛かってくる風虎を剣で迎え撃つことも魔法を撃つことも出来ず、棒立ちのアシュレイ。
何やってんだ!って言いたいけど多分何も考えられない状況なんだろうな。しくじった!
「どりゃあああ!」
竜牙の槍を投げつけ、怯んだところに
「ツリーアロー・クアドラプル!」
4本の矢を放つ。とりあえず捕まえてしまえば問題ない。が
「グルワアアア!」
「クソっ!避けるな!おいアシュレイ、シャキッとしろ!」
アシュレイの肩をゆすって声をかけるも、顔を真っ赤にして『へ?カイト?ちょっと今は心の準備が…』なんて間の抜けた声を出すだけだ。
「ええい!ツリーアロー!ツリーアロー!だー!くそ!」
風虎は木属性と相性がいいのか、それともただ動きが速くて追い付けないだけなのか。
とにかく矢が当たらない。一発当たると拘束できるのに…こうなると消費魔力が多くて使いづらいのを使うか。
「喰らえクソ虎!ツリーアロー・レイン!」
「グル!グア?」
雨のように大量に落ちる矢。
一本一本の威力は大したことない。でもこれだけ数があればどうか。
「グルル…フシャアアア」
怒りのこもった眼差しをこちらに向ける風虎。
だが全身は樹で何重にも拘束されて身動きは取れない。
悔しそうな視線をこちらに向けるが…悔しかったら抜け出してみろ!バーカ!バーカ!お前のカーちゃんでーべーそー!
「おいアシュレイ。止めさすぞ」
「え、うん?今からか?」
だめだこいつ。
今回はまだ20層に来たばっかりだった。
20層のボスまではいきたいなー。
できればもうちょっと狩りを…と思ったのだが、アシュレイが思った以上にダメ。
浮ついて危ないことこの上なかったのでサクッと切り上げて帰ることにした。
「帰ろ帰ろ。帰って畑いじくって飯食って寝るか」
「ね、寝る!?お、おう。そうだな。婚約者だからな…」
「お、おお…」
イカン。
こいつマセガキにもほどがあるだろう。
まだまだ俺たちはガキンチョだ。
近年、性の低年齢化がどうとかこうとか言われて問題になっている。
だが、あんなモンは人類というか生物の歴史を無視したアホの所業だと俺は思っている。
人類の歴史上では13や14くらいになったら嫁入りは普通の事だ。
だが、それにしても俺らはまだまだ体が出来ていない。
体が幼いうちだと母体は出産の時の負担が大きい。
下手をすれば死んでしまうこともある。
それがあるからある程度の発育で…というのは分かる。分かるんだけどね。やっぱ年齢で区切るとな、発達の早い遅いもあるしなあ。
まあ年齢が低いで言えば前田家の肝っ玉お母さんという例外もあるが、そういう一部の例外を一般化してはいけない。あくまで個人の発達具合を確認することが大事なんじゃないか。
ってことで俺。
エルフと魔族の混血のせいか…まだ俺は人間なら小学校の低学年くらいである。
小学校の低学年で何が問題かというと、アレやコレに必要な機能が不十分もいい所なのだ。
つまりはアレがきちんと大きくならない。
勿論、老化してダメって訳じゃない。
つまりまだ二次性徴が始まっていないのだな。
アシュレイの方はどうかは知らん。
この耳年増がどの程度どうかと言えば…まあまだまだガキンチョ感が溢れてるから無理だな。
こいつも同年代の中では多分大きい方だろうけどやっぱり小学生感が溢れている。
はいはい。ガキンチョガキンチョ。
つまり男女が一緒に寝ると言っても、とっても健全な保育園のお昼寝的な事にしかならない。
…と思うんだけどな。
そう頭ではわかってても…隣で真っ赤になっているのを見ると、ちょっと変に意識してしまうのだ。
そうやってお互いを意識しながらも何のトラブルもなく帰還し、無事にいつもの様に…いつもよりはややぎこちない会話を交わしながら畑仕事を終わり、領主館に帰ったのだった。
「ただいまーっと」
「帰ったぞ」
「お帰りなさいませ姫様、坊ちゃん。今日は…おや?」
「どうした?」
怪訝な表情のマークス。
そして侍女のマリアも可笑しな顔をしている。
「ど、どうした?何かおかしいか?」
動揺を丸出しにしたアシュレイが問いかける。
それは自白したようなものなのではないか。
「おめでとうございます、姫様」
「な、なにがだ!」
「何がと仰られても…オホホ」
ご機嫌のマリアに顔を真っ赤にするアシュレイ。
そして俺に近寄ってきて小声で話しかけるマークス。
「やりましたな、坊ちゃん!」
「ヤってねえよ!」
「そう言う意味ではございませんが…とにかくおめでとうございます」
「親父には面倒くさいからいちいち言うなよ。先に伯母上だ」
「ハッ」
まー、伯母上に話をすれば普通に歓迎されて終わりそうな気はする。
でも結婚、婚約か…俺まだ10歳、地球でも小学生なんだけど…。
「まあお二人とも、湯浴みでもなさってください。何ならお二人ご一緒にでも…」
「い、一緒にか!?」
「マリア、もう悪戯はよせ。アシュレイ、先に浴びて来いよ」
「そうですね。アシュレイ様は先にシャワーを浴びて清めて今宵の準備をしましょう」
「今宵!?準備!?」
マリアのやつはこんなに悪戯好きだったか?
止めろと言ってるのに全く…
「もう止せと言っているのに。あまり揶揄うな」
「はい。失礼しました坊ちゃん。アシュレイ様、こちらへどうぞ」
「う、うむ」
ぎこちなくマリアについて歩くアシュレイ。
右手と右足が一緒に出てるぞ。
「はぁ」
「坊ちゃんはお疲れですかな?」
「うん。話の流れでこうなったがこれで良かったのかなと」
「宜しいのではありませんかな。それとも他のどなたかがアシュレイ様の隣にいる方が良かったですかな?」
「む…」
想像してみた。
俺以外の誰かと幸せそうにしているアシュレイ。
うーむ、それはよくない。良くないな…
日本には
リアルであんなもんやられると発狂しちゃうでしょうが。無理無理。
「嫌でございましょう?ならばそれは坊ちゃんがアシュレイ様の事を好いているという事になりませんかな?ならば、お付き合いしてご結婚すればよろしいのでは?別に貴族が、王族がなどという話ではありません。人と人とのかかわり合いの話でございます」
「うーむ。それはそうかもなあ…」
たしかにそうかも。
コイツに騙されてるような感じもあるが、大体言ってることは間違ってないと思う。
「まあいいか」
「では私めは王妃様宛の『鳥』の用意を致しまする」
「お、おう…わかった」
『鳥』の用意はお祝いに鳥肉を…って事じゃない。
いわゆる伝書鳩のことだ。早馬よりよほど早い。つまり一刻も早くこの事実を伝えて…もう逃げられないようにしようって事か?どっちが逃げるんだ?俺か?それともアシュレイ?
まあ好きにしてくれ。
何だか疲れたわ。
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