第25話 うまいか?


「ふはははは!見よ、この光景を!」


今は2年目の夏。俺の眼下には農場が広がっている。

畑、と言うよりは農場だ。面積はちゃんと測ってない。と言うよりそもそもメジャーや定規がないのだ。一つの畑をおおよそ100歩四方とした。俺の歩幅で100歩だ。

だいたい50m四方くらい…になったはず…。


7歳児の平均身長はたぶん120くらい。

一歩の平均はおおよそ身長×0.45くらいらしいので、大体一歩で50㎝。

だから×100で50m…アカン。

大体で適当な大きさすぎる。尺貫法でもメートル・グラム法でも何でもいいから目安を決めないと。

だがヤード・ポンド法、てめーはダメだ。



んで、だいたい50m四方の畑が10枚。

なかなか広い。


「うむうむ。立派になったものだ」

「そうだろうそうだろう」


アシュレイはあれからずーっと側にいる。

コイツ良く考えなくてもお姫様なわけで。お姫様は畑で農業中?みたいな?

まあ俺と内政時々ダンジョン生活を一緒に送っているのだ。


おかげでレベルも上がって20層ソロは余裕になった。

30層台はやっぱりペアじゃないときついなあ。


内政による能力補正はまだ出てこない。どうなっとるのじゃろ?


それにしてもアシュレイはずっとこっちリヒタール領にいる。

跡継ぎ不在でお城の方は問題になったりしないのだろうか?

伯母上はちょいちょい遊びに来るからいいけど王は忙しいみたいでこっちに来てない。

娘が見られなくて寂しいのではないのだろうか?


うーむ。

まあいいか。親父が放置されるのはどこの世界でも同じだろう。


つまり、大した問題ではない。


そんなことより領内の発展の方が常に優先である。


「どうだ?うまいか?」

「「はい!」」


今は2年目の初夏、目の前の畑では夏野菜の収穫が絶賛行われている。

そして収穫しながらトマトをかじるまだ痩せたガキンチョども。

うーむ。ホントはつまみ食いなんぞ以ての外だが…この痩せ方を見ると怒れない。





少し時を戻して、1年目の秋。

人手不足を解決するためにどうするか。

金のかからなそうな方法を模索した結果、結局領民を集めて農場の手伝いをさせることにした。


最初は異世界定番の奴隷を買おうと思った。

でもそうしたらガリガリの子供やジジババでも一人何十万、健康な男子は500万、子供でも元気そうなのは300万、イケメンマッチョや妙齢の美人(用途不詳 は1000万を軽く超えると判明したのだ。

金が足りないどころの騒ぎじゃない。あきらメロン。



というわけでどこの世界でも普通にあるように暇そうな領民に手伝ってもらってお小遣いを渡すシステムにした。

いわゆるバイトの高校生やパートのおばちゃんを雇う感覚だ。

まあ賄いの付くバイトだが…バイトと言ってもこっちじゃ応募に来てくれるのは大半が孤児と隠居した老人だ。あとは寡婦や子供とお母さんのセットかな。


老人は分かる。

今まで頑張ってたんだろうなあって腰の曲がった爺さんたちに手がシワシワの婆さんたち。

それでも厳しい農作業を手伝ってくれようってのだ。ありがたいことである。


寡婦やら親子セットもわかる。

戦争やら災害やら病気で夫を亡くした女性がこの世界で生きていくのは色々難しい。身を売るくらいなら、良くわからん応募に応じて日銭をもらうってのはまあわかる。


そして孤児たちだが…。

孤児のまとめ役になっているのはウチの領地で孤児院を運営をしているグルンドという者だ。

農場を作るから手伝ってくれそうなの連れて来いって部下をまとめて言ったら、タンドルって警備員がこいつを連れて来た。


グルンドの孤児院は経営がとっても困っててうんちゃらかんちゃらで。

それで、その孤児院に入りきれない子供たち中学生から保育園児くらいの孤児を100人ほどまとめて連れて来たのだ。


100人もどうしろってんだとキレながら空き地に樹魔法で小屋を2つ作り、服もその辺の木の皮で作ったり古着を集めたり。藁で適当に作った布団に、木で作った食器をまとめて小屋に放り込んだ。

手伝えば飯はやるから、あとはお前らで何とかしろと。




何せ金がないのだ。


親父になんやかんやで1000万じゃ足りないからもうちょいお金貸してくれと言ったら小遣いの範囲でやれと言われた。

俺のお小遣いは肉串を買うのにケチケチするような額だぞ。どうしろってんだ!



だから俺は農業をちょこちょこっと手伝ってくれて、後で収穫した野菜をチョコチョコっと上げれば済むような人員を募集していた。あとは小銭でお駄賃を上げれば済む程度で。


そのつもりで皆の前で金がないけどそれでいいやつに声かけてって言ったのに、いきなり住むところもメシも服も…衣食住すべてを持ってないようなのを連れてきてもらっても困る。

だからしょうがなく木魔法でログハウスチックなのを作り、木の皮で服モドキと布団モドキを作って渡したのだ。


そうしたらその警備員のタンドルが涙を流しながら感謝してきた。

何泣いてんだ?こいつ等はこれから毎日厳しい膿家のオシゴトが待ってるんだぞ。


田舎に嫁に来た奴が裸足で逃げ出すようなひどい生活待ったなしだぞ?

おまけに飯の確保が出来てない。

これから待っているのは超☆自給自足生活。

初期の貯蓄すらないのだ。




そう思っていたがガリガリ共は感激しながら毎日作業に勤しんだ。

最初のガリガリ共の作業は薪拾いからの薪売りだ。


秋の収穫を終えた後で手が空いている領民を集めた。

そこから一冬かけての農地開発は、まずは見渡す限りの森!森!森!って土地を樹属性魔法を使って無理やり樹木を除去することから始まった。


除去された木々は良いところだけ木材に切り取り、残りは薪に。

いいところだけを贅沢に切り取った後、薪にもならなさそうな小さな草木はアシュレイの火魔法で盛大に燃やし、灰にして森だった土地に撒いた。


木材は頑張って運んで領地の大工に売り払い、薪はアシュレイに乾燥させた後でマークスが屋敷用に半分買い取り、残りは領地のご家庭に少し安めで売り払った。

俺と一緒に木材を運んだり薪の行商に出たのがガリガリ共の最初のオシゴトだ。


幸い今は冬だ。

薪はいくらでも売れる。


でもどうせなら薪じゃなくて炭にすりゃよかったな。その方が高く売れる。

炭焼き釜の作り方分かるやつ連れてきて教えてもらわないと…などと考えながらの作業だ。


木材と薪を売った金はそこそこになった。全部で100万zゼニーほどだ。

1z=1円と概ね考えてもらっていいだろう。


つまりは100まんえんである。

100まんえん!100まんえん!とワッフルワッフルしたいところだが、100人の孤児を食わせるには全く足りない。


冬までに200万ほどを寡婦や老人、ちびっこのバイト代等に支払うとして、あとは鍬やスコップを10セット購入するのに150万ほどもう使った。


というわけで差し引きして残りのお金は大体650万ほどの貯蓄があるが…これは豚やら牛を買う資金になる予定なので…参ったな。やっぱり足りない。何せ豚を5匹で200万、牛を1ペア200万、メス馬をもう一頭で200万の支出がすでに予定されている。


つまり残り150万だ。

大丈夫かな?収穫までに間に合うかな?

ちょっと計算してみよう。


100人が3食食べて…えーっとコンビニで弁当と茶買って?

1食500円としたら…×100で1食5まんえんwww3回食べさせると1日15万円wwwwwww

バロスwwwww10日で金なくなるwwwwwwww



…全ッ然足りねえ!


何気に円計算したし、1食500円は高すぎだと思うけどじゃあ1食100円にしても1日3万円なわけで。

1食100円だと50日目までしか食べさせることはできない。1食10円だと500日か。

水道の水とパンの耳なら日本でもその生活はできるか?栄養失調で死んじゃうな。



こちらと違って現代日本は相対的に食品の物価は安い。

こっちは食品の物価はそこそこだが…衣服やらはもっと高い。


比較的安いのが木材とそれを用いた建物などだ。

山行けば木なんていくらでも生えてるって認識だから値段は上がらないのだ。


日本じゃ家一軒建てるのに何千万かかるし、土地代含めると億超えるのはそんなに珍しくない。

こっちじゃ庶民の家は十万もいらないくらいで建っちゃうのだ。

ただし風呂なし、トイレはボットンと言うか家の外に謎の穴があるだけだが…


まあ家屋の値段はいいか。

つまり、残り150万じゃかなり厳しいって事だ。牛や豚がホイホイ増えた後ならともかく、現状ではこいつ等には積極的にお金を稼がせる、あるいは食料を採らせる必要がある。


盗らせる、ではない。

それは絶対だめだ。

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