第12話 聖女に会いたい
こうして私は10人ほどの中から、手際のよさそうなメイドを3人選んだ。
浸かれるほどのたっぷりのお湯に、香りのいい香油。
髪や肌を磨き上げられる間隔は久しぶりだ。
曇り一つない鏡、肌触りが全然違う肌着、久々に感じるコルセットの締め付け。
何もかもが懐かしく、そしてここに戻ってきたことを実感させる。
執務室で仕事をするアインの様子が一番よく見える窓の前に置かれた椅子に座れば、私が飲む、飲まないにかかわらず手慣れた様子で用意される上等なお茶の香り。
「懐かしい」
私が思わずつぶやいたつぶやきにラリアは満足そうにうなずいた。
しばらくしてドアがノックされて、私が入ってもいいとラリアに目配せすると、新しく入ったメイドたちによって扉が開けられる。
そうして現れたのはアインだった。
「おかえり、リリー。不便はない?」
「えぇ、すごくよくしてもらっているわ」
ぎこちなく私はそう答えた。
至れり尽くせり、お姫様のような暮らしを望む女の子は多いだろう。
ましてやアインは顔面も強く家柄も屈指だ。
この国だけではなく、他国からも縁談が持ち上がっていてもおかしくない。
ちらりと私が目配せをすると、メイドたちがすぐに退室した。
「私がいない間に、聖女様が現れたと聞いたの」
「あ~あぁ、らしいね」
アインは優しい顔から一転興味のない顔をして私の前の椅子に腰かけ足を組んだ。
「らしいねって、本物の聖女様なんでしょう?」
「審問会を通ったそうだから、そうなんだろうね」
「会わなくてもいいのかな? って」
三角関係が始まらなくて本当にいいのだろうか? と思いついそういってしまう。
「……あぁ! 難しいかもしれないけれど。リリーが望むなら近々会える場を設けられるように動いてみるよ」
けだるそうな態度から一転、難しいお願い事をされたと思ったアインの顔が輝く。
「いや、会いたいのは私ではなくて」
「じゃぁ、誰が聖女様と会いたいの?」
「アインが……?」
「別に会う理由がないけれど」
「すごくおきれいな方だって」
「そう。それで、なぜ僕が会いたいってことに?」
「一回、とりあえずねあっておいたほうがいいと思うの」
「僕はいいよ。それに第一王子のロニ様が聖女様にずいぶん御熱心なんだ。僕としては興味のない令嬢に時間を使いたくないし。政治的な摩擦は望んでないかな」
ガードが思ったより硬い。
第一王子のロニと聖女でルミナ、そしてアインで三角関係になるから。
ロニが聖女ルミナに好意を抱いたというのは本編通りの展開となる。
本当に会わなくて大丈夫なの?
万が一子供ができて私が取り返しのつかない状況になってからルミアにアインが惹かれて、私が邪魔になりましたなんて展開になるのは何としても避けたい。
「わ、私一人で会うのは気まずいじゃない。親しい令嬢もここにはいないし。それで」
なんとか会う方向にならないか? と模索してみる。
私が総適当に言い訳をすると。
「気が付かなくてごめん、相変わらず僕は鈍くて。そうだね、一人で会うのは緊張してしまうだろうね。それに親しい令嬢が早くできるように配慮も必要だったね」
こちらは全然傷ついていないのに、かつてのメンヘラの私がアインにとってはかなり印象的なのだろう、まるで腫物を触るかのように態度を軟化させてきた。
「ごめんね」
「僕が至らなかったんだ。そうだ神殿のミサに顔を出すのはどうだろう? 聖女様は必ず参加されるそうだし。僕たちの地位なら前の方で見ることができるから、そういう形でよければ聖女様を見ることはすぐにできると思う」
顔を見ることができるということは、あちらもこちらを確認できるということ。
出会い方は変わってしまったけれど。
これでとりあえず二人は出会える。
と思った私は甘かった。
直近のミサに割り込むような形で私たちは参加した。
アインの言う通り私たちが現れると、一番いい席が開けられ横に控えるように立っている聖女様がよく見えた。
金の髪に、目を引く整った容姿。
これが二人で取り合いをする容姿なのね。
ミサは正直なところ、熱心に信仰している方に申し訳ないけれど、次の参加はいいかなという感じだった。
とりあえず、ルミナは実在して小説の通りちゃんと聖女様になってるようね。
ミサが終わると、すぐに神殿の偉い人が私たちのところにやってきて、アインは寄付を約束し、偉い人は私に短い祝詞を詠んでくれたけれど、どうやらそれは祝福を授けてくれたそう。
聖女様はあっという間に人々に囲まれてしまった。
さてとりあえず二人は出会ったから、これからどうなるのか。
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