第11話 なんだそれ

 ラリアがざっくりとまとめてくれた話はこうだった。



 情勢的に、中立でなんの後ろ盾もない私は政治的脅威でないことは示せても、政治的に躍進するためには役立たずなことは誰もがしる周知の事実だった。

 あの日突発的に行われたことは、なぜかアイン了承の元、私を生かすために行われたことになってしまっていた。



 大事な決行日ににそば仕えに選ばれたことは、ラリアにとっては汚点どころか、そんな重要な局面を自分を選んでくれたことに大層感銘を受けたようで、私が引くほどの忠誠心がどうやらあるようだった。



 じゃぁ、ヒロインのルミナは? ルミナどうしたのよ?

「それはわかったんだけどね、ラリア。聖女様が現れたと聞いたのだけど……聖女様とはどうなったのよ?」

 恐る恐る、私はヒロインの動向をうかがうためにラリアに質問した。

「イーデン侯爵家の二人目の娘がどうやら傷をいやすことができる神聖力を持っているのではないか。神殿、王族、一部の高位貴族が立会いの下審問会がちょうど1年前に行われましたが……」



 それそれ、それよ!

 まさか戻されるとは思わなくて、下手に知ってもモヤモヤするからって全然情報を得ようとしてなかったのよね。

 えっと、たしか見世物になるのが怖いルミナは検証から抜け出して、そこでアインと出会ってアインがルミナに一目ぼれする大事な奴。


「それで、どうなったの?」

「それが……、これは噂なのですが。聖女様はどうやらその日逃げ出してしまったようで」

 そう逃げ出す。

「呼びつけておいて何事かと、アイン様はあきれ果てて帰ってきてしまいました」

「そう、帰って……帰った?」

 間抜けな顔で聞き返してしまう。



「はい、帰ってこられました。後日改めて審問会が開かれましたが、バレリア家には結果だけ通達してくれればいいと参加されなかったんですよ。全くわざわざ出向いたのに逃げ出すとか失礼極まりない」

 ラリアはヘッと嫌な顔をして聖女の話をした。


「帰ったら聖女と会えないじゃない」

「そうですね。まだアイン様は聖女様にお会いしてないかと」

「結局彼女は聖女だったのでしょう?」

「力は確認できたそうで、先月王城で数百年ぶりの聖女ということでお披露目が行われたのですが。アイン様はリリー様の捜索のため参加されなかったので」

 それだけアイン様の愛が深いんですよと言わんばかりに、ラリアは得意げにウィンクをしてきた。




 会ってない!?

 会えば一目で恋に落ちる相手と会ってない状態で私を連れ戻しちゃってる。

「それは大丈夫なの?」

「むしろ王家的には大歓迎だったと思いますよ。表向きはバレリア大公妃のリリー様の容態が思わしくないとの理由で欠席をしましたが。それは聖女には大公家は興味はないと示したようなものですから」

「本当に大丈夫だったの?」

「王家にしてもアイン様には欠席してほしかったのでしょうね、今回は不参加を表明しても何も言われませんでしたし。むしろリリー様がよくなられますようにとたくさんの漢方が届けられたほどですから」


 アインと第一王子ロニと二人でヒロインをめぐるラブロマンスが起こるのだから、第一王子にするとライバルになる男が妻のために欠席というのは好都合だったってわけね……じゃないわよ。

 肝心な二人が出会ってないじゃない……



「リリー様も無事ご帰還されたことですし、聖女お披露目の場はこれからまだまだありますから、そのうちリリー様も聖女様に会えることと思います。それより、そろそろ着替えましょう」

「待って、ラリアまだ聞きたいことが」

「それは今日は難しいですね。服を着替えていただいて。次に私一人で身の回りのお世話をするわけにはいかないので、他のメイドの選出。それから新しい服や小物の発注も今日中にしていただかないといけません。聖女様のことは他の人の前で軽く話せることではないので……」

 ラリアは話しながらもクロークから次々とドレスのかかったハンガーラックを次々と持ってくる。

 おっちょこちょいだった、そばかすのメイドは合わない間にしっかりと屋敷に見合う仕事のできる女性になってしまっていた。



「ドレスなら十分あるじゃない。私が見た覚えのない物ばかりなのだけれど」

「いつ戻りになっても困らないように、季節に合わせて最低限は発注していたので。ですが、ここにありますのは本当に最低限。大公妃として発注をすることも、領地の経済にとってはリリー様の大事なお役目です」

 うふふっと笑いながらラリアはどれから試着してもらえばと言わんばかりにドレスを手に取る。

「聖女様のことがもっと知りたいの。だから話しながら」

「他のことを考えていて、ドレスのことがおろそかになるわけにはいきませんし。聖女様のことを一介のメイドが軽々しく口に出す姿を他の者に見せるわけにはいきませんので」

 ラリアのもっともな意見にこちらはぐうの音も出ない。



「さて大公妃のメイド候補は志願者が多くて、数をある程度絞るだけでも一苦労でした。リリー様が気に入ってくださる方がいるといいのですが。身だしなみの整えを実際にしてもらいながら選ぶのがいいかと思いますので。部屋に呼んでもかまいませんか?」

「え、えぇ。構わないけれど。以前の人たちは?」

 一応のちの大公妃ということで、私には当然身の回りの世話をしてくれる人が3人もついていた。

 ラリアが案内してくれてそのまま部屋にきたけれど、この3人にはまだ会ってすらない。



「主人のことを軽々しくよそに話す使用人は大公家では働くことができません」

 ニコッとラリアは笑ったけど、要は首になったってこと!?


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