第5話 芽生え

 とりあえず露店で出来合いの物、もしくは調理過程が見られたものを食べる。

 私はとりあえず食べないとやばいと、馬車を降りると足早で露店へと向かっていた。



 はぁ、鼻をくすぐるご飯の薫り。

 早速私は食べ物を購入すると、行儀が悪いのを承知で口に運んだ。もうそれくらい空腹で待ちきれなかった。

 騎士の一人がギョッとしていたけれど。

「アツアツで食べたほうがおいしいですよね~」

 とラリアは私がものすごく行儀の悪いことをしているのに、流石ぬけているだけあるニコニコと私の行動をお目こぼししてくれる。


 他のメイドならきっと、私が馬車に移動せず食べた段階で白い目を向けたことだろうが。さすがラリア、そういうところが貴方の良いところよと私が思っている間、ラリアは泣きそうになっていた。



 ラリアが泣きそうになる理由は簡単だ。

 リリー様が攫われた日以降邸宅の食事に口をつけなくなったのは屋敷で働くものなら全員知っているほど有名な話だ。

 

 リリー様を大胆なことに大公邸から攫おうとするくらいだ、食事に毒を盛る人がいてもおかしくない。

 毒殺されないために食べないに違いないと、ラリアは一部間違っており、かといって全く間違っている話でもない解釈をしていた。



 ラリアが都合よく解釈していることなどつゆ知らぬ私は、さてお腹が膨れたら次はギルドねなんてことを考えていた。

 問題はどうやってこれだけの護衛を巻くか……よ。

 もちろん。今逃げてもすぐに捕まるから遠くに逃げ出すつもりはないが、アインが何か告げていたということは、ここにいる皆にアインの息がかかったも同然。


 ギルドに行ったことがばれれば最後、大公家の予算と私の当たるかわからない未来の予想ではギルドがどっちにつくか明白だ。



 とにもかくにも、今回の護衛の数は5名。いつもより2名も多い。

 ギルドに行かないと始まらないし。

 そのためには巻く必要がある。

 このまま引き連れて言ったんじゃ、アインが耳打ちをしていたことを考えるとどこから私の情報がばれて、阻止されるか分かったもんじゃない。




 と言えども穴がないわけではない。

 私をメンヘラに知らしめた『私を探して~』作戦は全くの無駄ではなかったのだ。

 屋敷をうろつく間、私は使用人たちのことをよく観察していた。


 私を探すこと一つ取ってみても、文句を言いつつもまじめに捜索するものもいれば、ラリアのように探すけれども探し方が下手くそなやつもいれば……

 探してますよ~といいつつ、サボるやつもいるのである。



 今日はついてる。

 彼の名前はサント。一見して真面目そうに働いているが、彼は周りに人がいるときはまじめにするが……

 ひとたび周りに人がいなくなると手を抜くのだ。



 私としても、もっと真面目にしなさいよ。御給金は同じだけいただいているのでしょう! と思うけれども。

 今まさに天中をすべきうってつけの人物だった。



 となると後は……



 私はラリアとそして護衛についてきた騎士たちにそれぞれお使いを頼んだ。

 はじめは護衛が離れることに難色を示していたが、お茶をして待っているから大丈夫とサントを指名し私はカフェでお茶をたしなんだ。



 私の後ろにサントは立っていた。

 カフェっでは他に御茶をたしなむ客は多く。

 中には私のように護衛を付けている者もいる。


 アイスティーの入ったグラスを持ち上げ、グラスにうつるサントの様子をうかがうと、たった一人で護衛に入っているというのに大きなあくびをしていた。



 サントはメイドのラリアとは違い護衛として雇われている。

 こんな風に気の抜けた一面を今私の真後ろでさらしているが、大公家で働ける実力の持ち主で有ることは間違いないし。




 物語通り私が大公邸内で毒殺されてしまえば……、アインの母が殺されたときと同じ処分が護衛の名目で雇われている彼にもかかる。


 全く護衛がこれじゃぁ私も毒殺されるわけだわ。

 サントの腰元には銀のプレートが付いている。

 当然ただのお飾りではない。


 時と場合によっては、毒かどうか判断するために使われるのだ。




「腰の銀のプレートはお飾りなの」

 これから脱走を企てていた私だったけれど、あまりの態度にこれじゃ私に毒を盛り放題じゃないと思ってしまったのだ。


 私がそういうと、あわててサントは私が手に持つドリンクをうけとると、ひとたらししたのだ。

 銀のプレートはその輝きを保ったままくすむことはなかった。

「考えすぎだと思っているのでしょう」

 何も言わないサントに私は言葉を浴びせた。




「あなたを指名したのは、今回の護衛の中で貴方が気が一番抜けているからよ。あなたが一人の時に私に何かあれば、あなたはタダではすまない。それを肝に銘じなさい」

 そういって私は席をたった。

「どちらに?」

「トイレよ」

――――嘘である。




 こういうおしゃれなカフェには必ず裏口がある。

 清い恋愛ばかりではない、そういった時にもう一つの出入り口からヤバい方を逃がすってわけ。



 私は慌てることなく優雅に歩く。そうすることで私は景色の一部となりわからない。

 私の目論見通り実にあっさりと私は一人になることに成功した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る