第3話 生きるために外出する
なんでも自分一人で頑張ろうとするのはよくないわ。
私の失敗はそう、誰にも頼らなかったことよ!
私の行動はすべて大公殿下に筒抜けになるに違いないと自分一人で行った結果のミスであって、まだ私が逃げ出すことは不可能だと決まったわけではないわ!
私に何も手がないわけではない。
ヒロインが危機的状況から逃れるために頼ったのが、のちに王国で一番の情報ギルドに成長する『フラン』だ。
ギルドを頼るにはお金が必要。
私には衣裳部屋には収まりきらないほどのドレス、鞄、靴、宝石が潤沢にあるけれど。
そのどれもが、大公家のきちーんと教育されたメイドたちによって、ドレスに縫い付けられた小さなダイヤ一粒たりとも無くさないような厳戒態勢でとてもじゃないけれど横領できそうにない。
そんなにきっちりしっかり管理されていると知らなかったここに来たばかりの私は、型が古くなったドレス数点を大公家にやってきてすぐに売り捌こうと隠したのだけれど、さぁ大変。
のちの大公妃のドレスが3着『も』紛失したと大騒ぎになった。
私の担当になったメイドたちは私がドレスを隠したその日のうちに、のちの大公妃付きという一番いい役職から、屋敷のメイドの中で一番位の低い洗濯係へと配置転換された。
私はすぐに屋根裏に隠していたドレスを取り出し。
「私が実家で持っていたドレスのデザインに似ていて懐かしい気持ちになって。後で戻せばいいと私が持っていたの軽率だったわ」
ドレスを売り払うのをすぐに諦め、迷惑をかけたメイドたちにも頭を下げたのだ。
現状15歳の私には、のちの大公妃として桁が2つはおかしい予算がついていて。
好きなだけ買い物をすることが可能。
しかし、それらすべては大公家の若奥様の物であって厳密には私の物ではない。
手に入るけれど、ドレスのようにガチガチに管理されて、私が売り払って現金化などおいそれとできるものではなかった。
だから私はたまには自分で支払ってみたいといって、現金をもらい。
支払いあまった小銭をポケットにないないする方式で、こつこつとお金をため。
ドレスを処分する際には、縫い付けられている宝石の中でよさげなやつを、私の刺繍に使えるかも~といって外して私のだからと無理やり管理の外に出すことに成功したわずかばかりしか持っていないのだ。
この刺繡に使えるかも~ってのも、がっつり持っていこうとしたが最後、何が何個ときっちり私を含む誰かが財産を盗めないようにと管理されてしまうだろう。
お金はあるのに、私的に財産を動かすことができないという、なんともおかしな矛盾の中にいたのである。
本当は……ここを脱出した後、わずかばかりの元手を小説の知識を生かして増やそうと思っていた情報を売ることでどうにか仕事を引き受けてもらうしかない!!
そうとなったらすぐ行動よ。
私が街に出ることはあっさりと認められた。
街での私は優等生だったからだ。
貴族のお嬢様らしく、メイドや騎士たちから離れることなくつつがなく行動していたことが生きた。
といっても、ただここで逃げても速攻で見つかるに違いないと思っていたから逃げなかっただけだけれど……
同行するメイド選びにも抜かりはない。
今日連れてきたメイドの名前は、ラリア。
私と同い年の赤毛で少しばかりあるそばかすのことを気にしている目がぱっちりとしたかわいい子である。
なぜ彼女を選んだかというと、私調べで大公家で働く全メイドたちの中で、彼女が一番ちょっと抜けているから。
よく言えば裏表がない、悪く言えば不器用で裏表をうまく取り繕えないところが彼女の魅力である。
髪を隠すように大きな帽子をかぶされていざ出発である。
邸宅の前には、止められた馬車に乗りこもうとすると、ラリアが私を呼び止めた。
「リリー様お待ちくださいませ」
「どうかしたの?」
「アイン様がお見送りされるそうで」
「なんで!?」
思わず心の底からなんで!? と出てしまった。
他のメイドであれば、本心では思っていなくても何らかの言葉を発しただろうし。
気の利くメイドならば、私が連日メンヘラ行動をしたことを知っているので。
「一目みたいだなんて1年たちましたがまだまだ新婚ですね」とおべっかをつかったことだろうが。
裏表が苦手なラリアは、困った顔で
「なぜでしょうか……」
と繰り返した。
アインが街に行く私を見送りに来る?
そんなこと今までたったの1度すらなかった。
むしろ私が街に行く日は、私を探して~というメンヘラ行動を起こさない数少ないアインの心の休息日も同然。
朝食の時に、「今日は楽しんできて」の言葉を私にかけるだけでアインは自由を謳歌する日だったはず。
それが、今までたったの1度すらしたことをないお見送りって……これ、もしかして逃げると思われている?
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