餓鬼餅【6】

 参拝客が来る前に餓鬼餅を回収し、斂と倭はそれらを『神虫祠』へ供える。

 手を合わせたあと、倭は斂に質問した。


「斂。“神虫”ってなんだ?」

「神虫は災厄・疫病を退散させる善神だ。甲虫のような胴体に八本の足やはねを持つ巨大な虫の姿をしていて、一説には蛾をイメージしたと推測される場合もある。その体は病をもたらす鬼たちよりも遥かに大きく、その手は鬼を一掴みにするほど強力だと云われている」

「でっけえ虫の神さまってことか」

「“辟邪絵へきじゃえ”っていうのにその姿が描かれているから今度奈良県立博物館に行ってみるか」

「おー。俺、柿の葉寿司食いてぇ」

「勉学より食い気か」


 自由奔放な倭に、斂は思わず笑ってしまう。


「ちなみに神虫の食欲も凄まじい。朝に三千、夕方には三百の鬼を捕えて貪り食うって伝えられている」

「ハハッ!! タマと良い勝負だな」


 たわいない会話をしながら、斂と倭は神虫祠を去っていく。

 楽しげなふたりの後ろ姿を、どこからともなく現れた白いローブをまとった人物がじっと見つめていた。その顔はまるで蝋人形のような無機質さで、生きた人間には見えなかった。

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