餓鬼餅【4】

 餓鬼に憑かれた男たちを剣八郎に任せ、双葉は居間にあるこたつでくつろぐことにした。

 ぬくぬくしていると、異母兄である戒吏がお雑煮を持ってくる。


「おかえりなさい、双葉。それと明けましておめでとう」

「おー、おめでとー」

「新年早々大変だったね」

「おー……ところで戒吏」

「なんだい?」

「いつまで俺の体を触ってんだ‼ 斂も見てるだろうが‼」


 自分の体をあちこちまさぐる戒吏の手を、双葉は全力で制する。

 そんなふたりの攻防に、斂は真顔で告げる。


「俺のことは気にしないでくれ。戒吏おじさんと父さんが“そういう関係”だってことも知ってるし」

「戒吏‼ てめぇ、斂に話しやがったなあッ‼」


 斂からの爆弾発言にブチキレた双葉は、戒吏の胸ぐらをつかむ。

 にぎやかな光景に蚊帳の外になっていた倭だったが、はっとわれに返って斂に耳打ちする。


「おい、斂。あのヤンキーがおまえの父親か?」

「ああ。正真正銘、俺の父親だ」

「あー、まあ、顔は似てるな。顔は」


 性格はまったく似ていない、とは伝えず、倭はずっと気になっていたことを斂に聞く。


「ところで“餓鬼餅”ってなんだ? 昨日、おまえが“外に供えた”鏡餅と関わっているのか?」

「ああ。まずは鏡餅の逸話から話さないとな」


 斂はきなこ餅を食べながら語り始めた。



 一般的に『鏡餅』は『穀物の神さまに捧げる』または『歳神さまへの供物くもつ』とも伝えられている。

 しかし、その一方で鏡餅の意味については別の説も存在する。

 それは『お正月に降りてきた死霊を宿らせるもの』という意味。

 鏡餅は神さまが宿る依代よりしろであり、この神さまが“死霊”のことであると言われている。

 お正月の華やかさとはかなり落差がある“死霊”という単語にぞっとするが、そもそもお正月は『死霊を迎える儀式』だったとも言われている。

 歳神さまという神さまは、過去に亡くなった人のこと。つまり“死霊”であり、お正月はその神さまを迎える儀式という説でもある。



「――で、依代となる鏡餅には“死霊”が宿るわけだが……その鏡餅をどうすると思う?」

「どうって……まさか“食べる”とか言わねぇよな?」


 斂の問いに、倭はいぶかしげに問い返す。

 すると斂は不敵な笑みを浮かべた。


「そのまさかだ」

「マジかよ」

「死霊が宿った鏡餅を、鏡開きで食べるんだ。まあ、死霊っていっても歳神さまだから悪霊のような有象無象じゃないけどな」

「理由はどうあれ、鏡開きのお餅は“死霊を宿らせた餅”ってことだろ⁉ どうすんだよ!! 鏡餅食べづらくなるだろ!!」


 いらん話をしやがって!! と、文句を言う倭に、斂は涼しい顔で「これから話す“餓鬼餅”よりはマシだぞ」と言う。

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