バチアタリ【2】

 その日の晩。

 タマは神木の陰に身を潜めていた。

 さすがに二度目はないだろう、と思っていたが、彼の予想は大きく外れる。


『……来タヨ』


 タマはため息混じりにつぶやいた。

 犯人は斂と同じ学校に通う男子生徒だ。


『アイツハ確カ……好キダッタ女ニ告白シタラ、相手ハ“斂ガ好キ”ッテ言ワレテ振ラレタヤツダ』


 つまり荒神神社にいたずらしたのは、斂への復讐ということか。実にばかげている。

 男の嫉妬。醜い。

 とりあえず“本来の姿”になって脅かしてやろう。


 タマが“本来の姿”である蛇神になろうとしたとき、急に気温が一気に下がり、霊気が濃くなった。

突然の変化に不思議に思うなか、男子生徒が悲鳴を上げる。

 タマがそちらへ目をやれば、男子生徒は空を見上げ、嗚咽をもらしていた。

 タマも空を見上げる。そこには、空を覆い尽くすほどの大百足おおむかでがいた。

 赤黒い甲殻に、無数の脚。太陽のようにギラギラと輝く複眼は、よく見ると人間の眼が凝縮されていた。

 大百足は震え上がっている男子生徒に顔を近づけ、たくさんの眼でじっと相手を見つめる。

 瞬間、金切り声が辺りに響く。


『オマエノ足ヲモラウ。ソレガオマエヘノ罰ダ』


 喰われると思ったのか、男子生徒は絶叫を上げると、バタッと意識を失ってしまった。

 しかし、大百足はなにもせず、首をもたげると暗闇へ溶けるように消えていった。



『ナンダッタンダ? アレハ……』


 タマはポンポン跳ねながら、気絶した男子生徒へ近づく。彼の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっており、おまけに失禁までしていた。


『アー。コイツ、ドウシヨウ』


 いまの時間帯は深夜。

 あの絶叫で起きて来ない荒神家の者たち。


『……コノママデイイカ』


 タマは男子生徒を放置し、斂の部屋へ戻っていった。

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