バチアタリ【1】


「ぐああああ!! やられた!!」


 荒神神社に絶叫が響きわたる。

 何事だ、と、れんが外に出れば、わなわなと肩を震わす祖父・荒神あらがみ 剣八郎けんはちろうの姿があった。


「なにかあったのか? じいさん」

「……これを見てくれ」


 剣八郎が指さす先へ視線を移し、斂は眉間にしわを寄せる。

 手水舎は荒らされ、狛犬はカラースプレーで落書きされ、神木の幹にはナイフで削ったような跡があった。


「神社荒らしか」

「まさかうちもやられるとは……」

「最近多いよな。なんでそんなことをするか理解できない」

「まったくだ!! 犯人を捕まえてとっちめてやる!!」


 怒り心頭の剣八郎を、斂は背中をさすってなだめる。


「まずは警察に被害届けだろ。俺が片しておくから、じいさんは交番に行ってきなよ」

「すまねぇ、斂」


 剣八郎は斂にこの場を任せ、近所にある交番へと向かった。

 祖父を見送ったあと、斂はまず手水舎の片付けから始める。


「狛犬に付けられたカラースプレーはどう落とすんだ? ネットで調べるか」


 なんてつぶやきながら作業をしていると、どこからともなく黒いゴムボール――タマが現れた。


『斂!! ナンカ大変ナコトニナッタナ!!』

「ちょうどいい。タマ、今晩は見張りを頼む」

『魂ハ喰ラッテモイイカ?』

「だめだ。そんなことしたら、じいさんが倒れちまう」

『死体ガヒトツアッテモ気ニシナイダロ』

「気にする。とにかく見張りを頼んだぞ」


 そうタマに言いつけて、斂が片付けを再開する矢先――。


『俺ガ見張リヲシナクテモ問題ナイ。“バチアタリ”ガ見テイルカラナ!!』

「“バチアタリ”?」


 罰当たりのことか? と、斂は思った。

 しかし、タマに聞き返してみれば『違ウ』と答えてきた。


『“バチアタリ”ハ異形ダ。イツモドコカデ悪イ事ヲシタ人間ガイナイカ見テイルンダ』

「へえー。どんな姿をしているんだ?」

『俺モ見タコトガナイカラ姿ハワカラナイ!!』

「わかった。今晩の見張りは頼んだぞ」

『作リ話ジャナイゾ!! “バチアタリ”ハ本当ニ実在スルンダ!!』


 ポンポン跳んで主張するタマだが、斂に聞き入れてもらえなかった。

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