残り5粒

 スーツのポケットに、マタタビの入った瓶を無理やり押し込む。

 部屋の中でマタタビを使えば外にいる猫も寄ってくる。だから、どんな家にもある猫避け用大型水鉄砲を探す。普通は玄関周りに設置しているはすだ。


 あった!


 カバンを下へ置き、玄関のドアの内側から先端を出せる小窓を開け、とにかく撃った。でも手応えがない。


 まじかよ!


 水が入っておらず、思わず下へ投げつけた。


 ナーオ


「は!?」


 マタタビに夢中なはずの猫が真後ろにいて、声が裏返る。

 けれどすぐにカバンを掴み、外へ飛び出した。


 たかが猫に何驚いてんだよ!


 幸い他の猫はおらず、全力で階段を駆け下りる。

 けれど後ろから音が続く。


「ついて来んな!」


 これが鼠の気持ちか。なんて馬鹿なことを考える俺は、外用の大型水鉄砲を探しながら走る。

 黒い電柱に設置されているのだが、それより先にコンビニが目に入った。


 よかった!


 店舗なんかには猫が入れないように、入り口に仕掛けがある。猫だけに軽い電流が流れるそうで、近づかない。

 なのに、コンビニの前にはどこから湧いてきたのか、ずらりと猫が並ぶ。


 何でこんなにいるんだよ!


 さっきまでこの辺りは猫がいなかった。それなのに、コンビニから先は猫がいる。猫のいる町なんだから当然だが、行動がおかしく思えた。


「どいてくれ!」


 猫にこんなことを言っても伝わらない。逆に俺は身動きができないほど、まとわりつかれた。


 買い足す前に使いたくねーんだよ!


 またもマタタビを使うなんて。今日という日はとことんツイてない。


「あっ!?」


 厄日だ。瓶を取り出せば後ろから猫が飛び掛かってきて、落としてしまう。ビリッて音もしたから、スーツがまたやられた。


「お前、いい加減にしろよ!」


 さっきの茶トラかわからないが、苛つきからそう決め付け、怒鳴る。

 その間にも瓶が猫たちに遊ばれ、遠ざかっていく。


「返してくれ!」


 もう散々だ!


 コンビニへ入るのにここまで苦労するなら帰ろうと決め、瓶を追いかける。


「っと!」


 ようやく捕まえた瓶からマタタビを取り出す。けれど焦って2粒落とした。それを猫たちが我先にと口にする。

 取り返したいが、残り3粒もある。余裕で帰れるから、もういい。

 そしてすぐにでも取り出せるよう、2粒を直接ポケットに入れ、もう1粒は放り投げた。

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