おまけ

 ミラさんの家に来てから数週間。私の手元には目を見張る程の大金があった。正直扱いに困っている。

 ある日唐突にミラさんに渡されたものだ。

 何処でこんな大金を拾ってきたのか聞くと、どうやらミラさんは私の預かり知らぬところで裁判を起こしていたらしい。このお金はその時に所有者様だった人、前原昴生さんからせしめたものらしかった。

 因みに、所有者様は両親の遺産で遊び歩いていたらしい。

「そんなに眺めてても、数字は変わらないよぉ〜」

「これ、どうしよう。私、今日死ぬんじゃ……」

 アハハ〜って呑気に笑っているミラさんに押し付けたい気分だった

「あっ!悠生さんにあげよう。だって元々はお兄さんのお金なんだし」

「きぃちゃん、それの半分だけでも悠君に渡したからいらないと思うよぉ〜。あっちも使い所に困ってたしねぇ」

 こんな大金いらない!!ミラさんも、なんでこんなにせしめちゃうのかなぁ。

「きぃちゃんはやりたいこととかないの?」

「やりたい、こと?」

「そう、やりたいこと。今までできなかった分、溜まってるんじゃないかな?」

 やりたい、こと。まずなんだろう?普通に生きたかったって願いは形は違えど今進行形で叶ってる。他には特に何も願ってないから、わからないかも……。

 よし、ほずみんさんが学校から帰って来たら相談に乗ってもらおう!!

「………あっ!ミラさん私、学校に行ってみたい」

「決まりだね。きぃちゃん今いくつ?誕生日は?」

「11歳。誕生日は5月の何日か……」

 そう言えば私、自分の誕生日すら知らなかった。なんとなく5月を過ぎれば年が一つ増えてるって感覚だったから。

「曖昧だぁ。よし、ミラさんに任せとけ!調べておくよ」

 ミラさんは奥の部屋に引っ込んだのと同時に玄関のドアが開く音が聞こえた。

「ただいま〜」

「あっちー、もう本格的に夏だなぁ」

「ならパーカー脱げば?それか半袖にするとか。金は困るほどもらったって嫌味言いにきてたし」

 相変わらず仲の良い二人。ほずみんさんなんて悠生さんと話す時だけ、砕けた感じがしてて……羨ましくなんてないもん

「おかえりなさい。ほずみんさん悠生さん」

「よーす、きぃ。腹減ったか?」

 この家では役割分担で家事が行われてる。例えば、悠生さんが食事。ほずみんさんが買い出し。私が食器洗い。っていう風に。因みにミラさんは雨が降った日に洗濯物を取り込む係だ。

「……はい。手伝いますか?」

「やっぱり距離があるんだよな」

「顔が似てるからじゃないか?」

「整形しようかな?あの金で」

 えぇ、私のせいでそんな。冗談?だよね

「やめとけ、木苺ちゃんが責任感じちゃうだろ?」

「へいへーい。じゃあちょいと、手伝ってくれる?」

「はい」

「パス」

 今日のお昼ご飯は、揚げナスうどん。私は悠生さんの両腕に挟まって一緒にナスを切った。

 これはあれだ。完全なる子供扱いだ。まあまだ11歳で悠生さんは14歳、そろそろ年をもうひとつ重ねるから、仕方ないのかもしれないけど。

 悠生さんに子供扱いされてるってことは、もしかしなくてもほずみんさんにも小さい子供だと思われてる?

 ……成長期来てから考えよう。

 そんなこんなで出来上がったお昼ご飯。ミラさんだけは部屋の前に置いておいて、3人で食卓を囲んだ。

「きぃはあの金どう使うか決めた?」

「はい、決めました。あのお金で学校に通おうと思います。」

「まだ義務教育だからそんなにかからなくないか?それに、お金ならミラさんが出してくれると思うけど」

 そんなこと一言も言ってなかったよミラさんは……

「なんだかんだ言いながらだったろ?僕達の時も、今回もそれじゃないか?」

「あー、なるほどなぁ」

 そうなの?じゃああの大金減らないの?

「木苺ちゃん、小学校に通ったことある?」

「無いけど、簡単な計算ならできる。文字も読み書きなら、漢字は自信ないけど」

 私達はお昼ご飯が食べ終わり次第、はずみんさんがパソコンと睨めっこしながら作った問題集を解きながら教えてもらった。

 小学校には事情を説明し、理解してもらった上で支援教室のみで通い、本格的な通うのは中学校から。という方針になった

 そしてお二人の言った通り、お金は全額ミラさんが負担してくれた。一日中家にいて、なんの仕事をしてるのかすらわからないミラさん。謎は深まるばかりだった。

 それから一年半、みっちり勉強付けになった私は少し不安に思いながらも中学校に通うことになった。



 これから私の新しい、普通の子供のような日常が続いて行くのだ。

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慣れる理由も、そんな必要もなかったのに 雪川美冬 @mifuyu3614

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