第6話

「腕の感覚は戻ってるかな?違和感はない?他に痛いところは?」

「はい、大丈夫です」

「うん、ならもう問題ないだろうから今日一日は様子見て明日退院かな」

「そうですか。傷跡も残らないように綺麗に治してくれてありがとうございます」

「お礼が言えてえらいね。また何かあったらすぐに来るんだよ」

「はい。ありがとうございました」

 病院生活半月と少し、私は退院が決まった。さて、これからどうしたものか。前までいた児童養護施設に行けばなんとかなるかな?

「やあやあこんにちは、木苺遥香ちゃん」

 鼠色の髪を一つに結んだ女の人がやってきた。目は開いてるか閉じてるかもわからないくらいに細く、口元はニヘラ〜としている。

「……こん、にちは」

「はじめましての方が先かな?」

「そう、ですね。はじめまして……えーと、お名前聞いてもいいですか?」

「あぁごめんね〜。ミラさんったらうっかりしてたよ。秋野あきのみらの。よろしくねぇ、きぃちゃん」

 あやしい。何?この人、すごくあやしい。行き場のない私はこんなあやしい人のところに連れてかれるの?断固としてお断りしたいんだけど

「おーいミラさん、明らかにあやしい人になってるぞ」

「えぇ!!どの辺が悠君は怪しいと?ミラさん的にすごく親しみやすいつもりだよ!」

「一人称がミラさんなのとかずっとニヤけてるところとか、かな?」

「ほずみんまで!!ミラさん頑張ってるんだけどなぁ」

 なんて茶番だろう

「まぁ二人のことは置いておくねぇ。きいちゃんもお気軽にミラさんって呼んでね。」

「あ、はい」

「何から話そうか、うんまずは……きいちゃん、うちに来ない?」

「……はえ?」

 ミラさんの頭にチョップを打ち込む前原悠生さん。無言のチョップとだけあって、やられるて当人からしてみれば怖そうだ。

「悠君痛いよー。ねぇ?聞いてる?悠くーん」

 そんな二人を見かねて前にやってきたのは八朔日さんだった。ハニカミ笑顔で頬をかきながら、私と目が合うように腰を屈める。

 ……うっ、顔を直視できない

「えっと、僕から説明させてもらうね。木苺ちゃんって呼んでもいいかな?」

 できれば、名前で……うぅ、恥ずかしくて言えない

「ど、どうぞ」

「木苺ちゃんの元いた児童養護施設は虐待が露見されて2年くらい前に無くなっちゃったんだって。その際君のお兄さんが安全に受け入れてもらえる所を探してたみたい。それでも何人かの子は何処にも行く場所が無くって、里親に出そうとしたんだけど、その時に前原の兄みたいな悪い人に引っかかっちゃったらしい。安全なところに連れて行くために奮闘した結果、何とか全員を安全な場所に連れて行くことはできたんだけど、悪いところと変な契約したのが二件だけだけあって、お兄さんは君と自分自身を苦渋の決断で売ることに決めたんだそうだ」

 つまり、お兄ちゃんは何処かで生きてる?

「だから今、木苺ちゃんには帰る場所がなくて、よかったらミラさんの家で厄介にならないかな?っていう提案なんだけど、どうかな?」

 なるほど。でもこの人ない家か……

「ミラさんも色々省かず、ほずみんみたいに説明すればいいのに」

「いやー面倒でついねぇ」

 そこ面倒くさがっちゃダメでしょ!!大丈夫かなこの人。

「ミ、ミラさんは信用できますか?」

「まぁ、悪い人ではないし普段頼れはしないけど、いざって時は力になってくれるよ?」

「こんなんなのに?」

「こんなんなのに。その証拠に、僕が今説明したことはミラさんがここ3日間で集めた情報なんだ」

「うわぉ、ミラさん貶されてる?」

 わざとらしく口をぽかんと開けるはミラさん。うん、不安しかない。……えぇ!?この人が集めた情報なの!!

「でも、何かあれば僕や前原もいるし、ついでに苦瀬も」

「え?」

 ミラさんの家に行けば八朔日さんが、一緒?なに?同居?ミラさんハーレム?羨ましい

「いや男子三人一緒なのは嫌だよね?前原とか顔見ただけで嫌なこと思い出すかもだし」

「苦瀬帰ってこねぇから実質二人だけどな……っておい!ほずみん!!」

「部屋に鍵もあるしー、配慮は十分するよぉ?」

「あの、本当にお邪魔じゃないですか?」

「ウェルカムだよー。なんなら他三人も居着いてるだけだしねぇ」

 そんなこんなで、私もミラさんのお家に居候することになった。

「あ、そうそう。前原昴生って人は留置所に行くことになったよぉ〜」

 ついでのように、所有者様だった人のことを帰り際、そっと教えてくれた。

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