第4話

 あの後私はまだ終わってない買い物も済ませて、早足に帰った。それでも、余計なことで潰した時間が返ってくることはなく、私が廃工場に着いたのは日が完全に落ちてからだった。

「ただいま戻り……きゃっ!」

 言い切る前に私の真横を通り過ぎる酒瓶。バリンと音を立てながら割れた酒瓶からは行き場を失った透明の液体が地面に水溜まりを作っていた。

「遅かったな、一体どこで道草食ってたんだ?また誰かに『助けてー』って無意味なことしてたんじゃねえよな?」

「してません!!」

「言い訳ぐらいは聞いてやるよ」

「ごめんなさい。私、私は……」

 売ればいい。自分の保身のために、売ってしまえばいい。彼らが私を助けてくれる保証はない。

「ここから出るところを見られてしまいました。その人達は所有者様に、因縁が……一方的に、あるそうです」

「で?そいつらに何を言われた?名前は聞いたか?」

「『助けてあげようか?』って言われました。名前は……」

 言え言え言ってしまえ。そうすれば楽になる。嘘ついて何になる?バレたら酷い目に遭うのはわかりきってるんだから、何も考えず言えばいい。

「名前、は……」

 何を躊躇う必要があるの?どうせもう遭うことのない口だけの人間だよ。我が身が一番可愛いでしょ?あんな人たちのことなんて、どうでもいいじゃん。

「聞き忘れました……助けてくれるって言葉が信じられず、叩いた後、逃げるように帰ったので……ごめんなさい」

 あーあ、馬鹿じゃないの?あんな今日会ったばかりの人に縋ろうとするなんて……

 所有者様は、ズカズカと私に近づき、頬を裏拳で叩く。ちょうど転んだ場所は酒瓶の上だった。手をつけばそこが血だらけに、長袖の服じゃなかったら腕も大変なことになってたであろうことが容易に想像がつく。

 あぁ、痛いな

「相変わらず馬鹿で使えねぇなぁ。この頭は飾りか?」

 そう言いながら頭を掴んで持ち上げる所有者様。所謂アイアンクローと呼ばれる格闘技か何かの技だ。

「ごべんなざい」

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

「おい無能、そいつらの背格好は?特徴は?そんくらいなら覚えてんだろ?」

「黒いマスクをつけた中高生くらいの男の人と黄色と橙色の髪をした片耳ピアスの人でした。」

 こう言ったつもりだけど、実際にはきっと甘く見たって全部の言葉に濁点が付いてるくらいにはなってると思う。その証拠に所有者様は額に青筋を浮かべながら「まともな言語で言え!!」って怒鳴っている。掴まれている頭もより一層力が込められてミシミシと何かが軋むような音が脳髄に響いた。

 私は何度も何度も同じ言葉を繰り返した。その都度,痛みが追加されて余計になんて言ったかわからなくなっていたことだろう。一回だけでも手を放してくれさえすれば、直ぐにわかるのに……なんて、終わった頃に一人思うのだ。

 結局私は「所有者様と顔が似てる人がいました」ってうまく伝わるかわからないくらいには回らなくなった呂律で言ったら解放された。

「あぁ、あいつか」

 そう呟いていた時の所有者様の顔はとても嬉しそうで、気味が悪いほどの恍惚とした笑顔で笑っていた。














































 それから一月も経たない頃だった。彼等がここに乗り込んできたのは

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