第68話我が身を盾に、そして光差す
「流石に……」
魔物たちを光の波動で蹴散らしつつ、私は息を吐く。口から出る荒い息に加えて肩が激しく上下している、まさに肩で息をしてる状態だ。
別にこれは私が鍛えていないから、ではない、と思いたい。事実、竜の女の子三人も荒い息をしているのが見えるし、私や竜の子たちほど厳しそうではないもののフィリムさんもツラそうだ。
私はともかく竜の子三人やフィリムさんは低レベルの魔物など歯牙にもかけない実力を誇っているのだが、流石に相手の数が多い。
「ちっ、他のエリアから魔物の増援がなだれ込んできているな……!」
魔物の首を刎ねながらフィリムさんが舌打ちする。あのフィリムさんがぼやくなんてあまりないことだ。
「……とはいえ、それは魔物たちの目を私たちに引き付けているということだから、良いことなのかもしれんが……」
「……そうですね、フィリムさん。今はそれを幸運に思いましょう」
「まぁ、私たちはそのせいでクタクタだがな。嬉しい悲鳴だよ、全く」
あまり嬉しそうに思っていないのは声音から感じられた。そんなことを言いつつも魔物を倒す手は休めないのがフィリムさんだ。
本心から嬉しそうではないとはいえ、それは魔物の大群を相手にする疲弊とそれにより王都を守ることができている喜びが混ざり合った結果、苦痛の感情の方が勝っているというだけであろう。
「……鬱陶しいぞ!」
ミスラちゃんが心底そう思っていることが分かる声を上げて、魔物を蹴り倒す。
「…………」
「あとどれくらいいるんですの……?」
エスちゃんに至っては無言で腕を振るっているし、リルフちゃんは弱気が顔を見せている。
人間を超えている竜の子たちでも心が折れそうになっているようだ。
「みんな! 後少しよ! 後少し頑張れば……きっと援軍がくるから!」
だからこそ、私も声を張り上げて三人を叱咤激励する。私自身も消耗してツラいが、竜とはいえ、小さな女の子である三人はもっとツラいのだ。
何もせずこんなことを言うだけでは誰も付いてきてはくれない。それを分かっているからこそ、私も手をかざし、光の波動を放って魔物たちを倒す。口だけではなく、手も動かす。
「お姉ちゃんが頑張っているのなら!」
「もうすこし、がんばってみる」
「アルメ様をお助けするのはわたしたちの役目ですからね……!」
そんな私の安い言葉でも三人を少しだけ手助けするくらいはできたようだ。視線が下がりがちだった竜の子たちが顔を上げて、魔物たちと再び向き合う。
とはいえ、メンタル面でいくら衰えをカバーしても肉体面での衰えは誤魔化しがきかない。動き続けていれば、戦い続けていれば、疲れる。当たり前のことだ。その限界をメンタルで誤魔化していてもいつかは限界がきてしまう。その状況になっても私はともかく竜の子やフィリムさんにまで戦い続けろ、などと言うつもりはない。私は……どうせこの命は聖女の座を追われたあの時からないようなものなのだから、喜んで人々を守るために捧げるつもりでいるが。
「……何かよからぬことを考えているな、アルメ」
私の顔から何かを察したようにフィリムさんが言う。
「私は別に何も……」
「自分が犠牲になってでも王都を守る。そんな顔に見えた……が!」
言いながらフィリムさんは剣を振るってさらに押し寄せてきた魔物を斬り裂く。
図星を突かれた私だが、それが悪いこととは思えず「いけませんか」とひらきなおるような声を出してしまった。
「私一人の命で多くの人々が救われるなら……」
「それはダメだ!」
本心から思っていることを言ったつもりだが、その言葉を遮ったのはミスラちゃんの声だった。思わず驚いてしまう。私とフィリムさんとは少し距離の離れた所で戦っていたはずだが。
気付けば竜の子三人もこちらに近付いていた。戦いが長引き、合流して態勢を立て直そうとしたのでしょうか。
「アルメ、それはよくない」
「自分の身を犠牲にしてまで人々を救おうという志は立派だと思いますが……」
エスちゃんとリルフちゃんもやんわりと私の考えを否定する。私は困惑した。
「でも、私は……」
「わたしは、なんだ? アルメお姉ちゃん。アルメお姉ちゃんが死んでもいいと言うのか? そんなのはミスラたちはイヤだ!」
言い淀んだ言葉をミスラちゃんに真っ向から否定される。私も二の句を言えなかった。
「アルメがしのうとしているなら、ころしてでもわたしたちがとめる」
「エスちゃん……殺しちゃったら私はどの道死んじゃうんだけど……」
「そうだった」
冗談交じりに行っているのは分かるが、つい突っ込みを入れてしまう私である。
「とにかく! アルメ様が死ぬなんて絶対にダメです! 全員生きて、この窮地を脱するんです! 勿論、町の人たちも守って!」
リルフちゃんが大声を出す。その必死さが私の心を打った。
「…………」
「ふっ、そういうことだぞ、アルメ。人々を守るために我が身を犠牲にしようなんて考えは間違っている」
「……そうでしょうか」
竜の子たちやフィリムさんが私のことを大事に思ってくれているのは伝わってきたが、私には自分の命にそこまでの価値があるものだとは思えない。この命を投げ捨てることで多くの人が救われるのなら、それこそ、喜んで……。
「まだ分かっていない顔だな……しかし」
そんな私に呆れた様子のフィリムさんだったが、視線を他に移す。
「……とりあえずここでアルメが馬鹿をやる必要はなさそうだ」
フィリムさんの視線を追うと、その先には。
「あれは!」
「ぞうえん……?」
「やっとですの!?」
竜の子たちが言うように多くの鋼鉄の鎧に身を包んだ兵士たちが駆け付けて、剣を振るい、魔物たちを倒している。ようやくの増援の到着……アルカコス王国軍の到着だ。私は膝から力が抜けてしまい、崩れ落ちそうになってしまった。人々が救われるためならこの命を捨てるなんてカッコつけておいてなんだが、やはり安心してしまうものは安心するのだ。
「やった……」
この先の見えない防衛線。それにようやく終わりが見えた気がした。
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