第66話守りの奮闘、救世主と女剣士と竜の少女三人
とりあえず私と竜の女の子三人、そして、駆け付けてくれたフィリムさん。この五人のメンバーだけで王都を襲撃した魔物たちを全て倒すというのは流石に無理がある。幻獣さんを呼び出せればそれも可能かもしれないが、この入り組んだ住宅街での戦いでは幻獣さんに思う存分暴れてもらっても、魔物は倒せたとしても町に大きな被害が出てしまう事からそれは初めから選択肢の外だ。
「フィリムさん、この数の魔物は私たちだけでは……!」
私は光の波動を放って魔物を倒しながら呼び掛ける。絶対に町は守るという意志はあるが、現実的な観点から状況を見なければならないのも確か。把握できる問題に対して、根性論だけを唱えて目をそらすのではなく、打開策を考えなければ待っているのは悲惨な未来だけだ。
「分かっている。私も手に負える数とは思っていない」
フィリムさんも剣を振るい、魔物を斬り捨てながら言葉を返す。
私ごときでも分かることだ。私より戦いの経験を多く積んでいる凄腕の女戦士であるフィリムさんには当然、把握していることであろう。
「この魔物の大群の襲来。これまでに例のないことだろう」
「それでは、どうします?」
他人に頼らずに自分で考えろ、とは私自身も思うが、考えた上で現状の打開策が思い浮かばないからこそ、歴戦の達人であるフィリムさんに助力を乞うていす。
「とりあえず、王国軍が駆け付けるまで持ちこたえるぞ。いかに今の国が混乱していても、流石にお膝元の王都を襲われれば動かないワケにはいかないだろう」
「そうですね……分かりました」
私たちが戦って時間を稼ぎ、アルカコス王国軍に駆け付けてもらう。考えてみればそれは当然の対策だ。私たちだけの力ではこの数の魔物を追い返せないのだから、必然的に援軍に期待することになる。
「ミスラたちが時間を稼ぐんだな!」
「りょうかい」
「分かりましたわ、アルメ様! フィリム様!」
竜の女の子三人、ミスラちゃんとエスちゃん、リルフちゃんも合点がいったというように声を返し、再び魔物たちの所に飛び込んでいく。彼女らは幼い少女の外見でも竜の子。あの程度の魔物たちに後れを取ることなどまずありえないが、その外見で戦いの中に身を投じる姿にはやはり私も思うことがある。
「三人とも……気を付けて……!」
「私は心配じゃないんだな。アルメは」
「えっ? い、いえ、勿論、フィリムさんのことも心配です」
フィリムさんに苦笑いされてしまい、私は慌ててフォローを入れるも言い訳っぽくなってしまった。言葉に嘘はなく、本当にフィリムさんも心配しているが、私の中にはフィリムさんに対する絶対の信頼がある。歴戦の戦士のフィリムさんならやられることはないという。そのせいであまり心配していないように見られてしまったかもしれない。
「分かっている。意地悪を言ってみただけだ」
「もう……人が悪いですよ、フィリムさん」
気にした様子もなく笑みを浮かべるフィリムさんに思わず私は唇を尖らせる。
「ま、お前がそのくらい余裕があるなら、私も安心だ」
その言葉にそんな意図もあったのか、とハッとさせられた。やはりフィリムさん。後輩の新米冒険者である私のことを機にかけてくれている。それではこちらも責める言葉を口にすることなどできないではないか。
「お前は幻獣を呼ばなくても戦う術を身に着けたようだが、その戦い方では前を守る者が必要だろう。チビたちはこう言ってはなんだが、わりと考えなしに突っ込む方だし、私がお前を守ろう」
「……すみません。助かります。私もフィリムさんを援護します」
「ああ。頼もしい」
私からすればフィリムさんの方が頼もし過ぎるのですけど……。彼女の言う通り、竜の女の子たちは強いが、やはりまだまだ幼いのか思慮にかけて猛進気味になってしまう傾向があるようだ。その点、フィリムさんならば的確に戦況を見て動いてくれるだろう。
「ですが、もしあの子たちに危機が迫ったのなら、私に構わず前に出てください」
「それは分かっているさ。私が守るのはアルメだけではなく、あのチビたちもだからな」
前線で大暴れする竜の子たちを見ながら私が言うと、把握済み、とフィリムさんが頷く。その間にも接近して来た魔物の一匹をフィリムさんの剣が斬り捨てた。
守られてばかりではいられない。竜の女の子三人は勿論、フィリムさんや呼び出した幻獣さんたちに戦ってもらって自分は後ろで見ているだけの自分はもう嫌だ。私も手をかざして、光を放って魔物たちを攻撃する。
「アルメお姉ちゃんはやるな!」
「わたしたちもまけてられないよ、ミスラ」
「そうですわよ!」
そんな私を見て前の竜の子たちも奮起してくれている。私程度の力でもそれに何かを感じ入ってくれるのなら、こんなに嬉しいことはない。竜の子たちはこれまで以上の力を発揮して、魔物たちを蹴散らしていく。
「あの子たちに負けてられない!」
ならば、私も負けじと奮起するのは当然のことだ。手をかざし、光の波動を放って魔物たちを倒す。
「ふっ、少し見ない間にアルメもチビたちも……」
満足そうに微笑んだフィリムさんが剣を振るって魔物の首を刎ねた。
「この勢いで王国軍が来るまで耐え抜くぞ!」
フィリムさんの声に応じて私たちは魔物にさらに攻撃を仕掛ける。その勢いでこの区画に侵入した魔物たちの多くは地に倒れ、息絶えていく。
それでも王都全域に侵攻してきた魔物たちの総数からすれば一部でしかない。やはり王国軍が駆け付けてくれなければ本格的に魔物たちを追い返すことはできない。
「……守り抜いてみせます」
未だ援軍の気配はないが、絶対に魔物たちに譲る気はなかった。
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